H2

◆◆




 それは小五の冬だった。


 学校の休み時間。


 私は一人、校庭の隅っこにある木の影で、ぼんやりと空想に耽っていた。


 静かな白銀の世界は、私の想像力を掻き立てる。


 本を読むのも好きだけど、自分の好きなことを頭の中で色々想像するのが、一番好き…。


 目を閉じ、空想の世界へと意識を飛ばしていく。




「おい、花宮!」


 突然聞こえてきた、男子の声。


 同時に、背中に何かをぶつけられる。


 振り返ると、クラスメイトの氷室ひむろくんが意地の悪い笑みを浮かべて立っていた。


「なぁ、雪合戦しようぜ?」


 私の返事も聞かず、氷室くんは積もった雪をすくって雪玉を作り始める。


 投げられた雪玉は私の顔面に命中した。


―――いきなり攻撃してくるなんて、ひどい。


 学校では猫を被っているが、本当の私はそんなに温厚なキャラじゃない。


 仕返ししてやる…!


 だけど、攻撃するのはもう少し彼を油断させてからだ。


 やり返さずに無視し続けていると、そのうち彼は飽きて攻撃を止めた。


 彼が背を向けたその隙に、私は背後から首元を狙って雪玉を投げつけた。


 投げた雪は見事彼のうなじに命中し、思わず喜びの笑みが溢れる。


「てめぇ…やったな!」


 どうやら氷室くんを本気で怒らせてしまったらしい。


 全力で突進してきた彼をよけることができず、雪の上に押し倒される。


 彼は私に馬乗りになり、両手を押さえつけた。


 体格の良い彼を押し退ける力は私にはない。


 どんなに暴れてもビクともしない。


 彼は私を見下ろしニヤリと勝ち誇ったように笑うと、


 私の手袋を脱がせ、無理矢理雪の中へと押し込んだ。


 強烈な冷たさに、思わず悲鳴が漏れる。


 やめて!冷たい!


 私は激しく抵抗するが、すぐに捩じ伏せられてしまう。


 しかしその苦痛は徐々に心地よい従属感に変わっていき…。


 ゾクリと、身が痺れるような快感が込み上げてきた。


 気づけば私は、恍惚の吐息を溢していた…。



 そのあとすぐに学級委員の武田くんと先生が氷室くんの暴虐を止めてくれたが、


 彼の重みが体から離れたとたん――――



 なんとも言えない虚しさと不満が、じわりと胸の中に広がった。


――――残念…。もっと彼に苛められたかったのに…。



 この時、私ははっきりと自覚した。


 自分が変態だということに。


 もっと氷室くんを怒らせて、もっと苛められたい───そう思っていたのに…。


 彼はクラスの問題児として先生や学級委員の監視下に置かれ、私には一切近付いてこなくなった。


───あーあ…。つまんないの。

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