7−3「怪奇現象と懐疑的な事象」
夜空に浮かぶ巨大な3つの球体。
今にもビルにぶつかりそうだが、ギリギリ空中に浮いているようにも見える。
(…【師匠】と連絡が取れない今、私がなんとかするしかない)
まずはガラス越しにスマートフォンで球体を捉えられないか試みるも【師匠】と交信できないのと同様、ただのカメラ機能としてしか動かない。
「三ツ矢さん…あの球体に近づきたいんですが、一番近いビルはどこですか?」
それを聞いた三ツ矢さんはパンフレット置き場に行き、街の地図を取りだすとペンで○印をつけた。
「斜め向かいの百貨店に屋上庭園があります。そこまで行けばあの球体の3つ全てに近づける距離だと思います」
私は三ツ矢さんにお礼を言おうとしたが、直後に球体が赤く光り出す。
同時に周囲のビルの電灯が共鳴するように赤く光り始め、電気の消えたはずのビルの電光掲示板やテレビに灯りがともり…低い、すすり泣くような声が周囲に流れ出した。
『…マ、ママ…マ…マ』
点滅する赤い光。
声には心音のような音も混じり、私は背筋がゾクゾクするのを感じる。
『…ママ…ママァ…マ』
球体は何かを探すように赤い光を点滅させている。
その光はだんだんと強くなり巨大な胎児の姿のようなものが見えた。
…その時、私は何かピンとくるものを感じた。
「ママって…もしかして」
私は展示室に目を向け、三ツ矢さんに聞く。
「あの、『母性』っていつ作った作品なんですか?」
すると三ツ矢さんは困った顔をしてこう答えた。
「作品としては古いね。山口県の採掘場から出たものを業者から譲ってもらったものだから…もう、10年以上前のことになるよ」
「何か、その時に変わったこととかは?」
「えっと…ああ、そうだ。業者の人が言っていたんだけど石が出た後しばらくは全体が温かかったとか言っていたなあ。それで気味が悪くてこっちに譲ってくれたんだけれど」
「そうですか。あの…」
私は少し迷いながらも三ツ矢さんにお願いしてみる。
「あの像、百貨店まで運んで良いですか?」
…それからきっかり30分後。
私と三ツ矢さんは百貨店の屋上庭園に来ていた。
足元には台車に乗せたカゴに入れられた『母性』の像。
念のため損壊防止のために丁寧に布に包まれている。
「…すみません、他に思いつかなくて」
謝る私に三ツ矢さんは「いやいや」と首を振る。
「僕も代理として初めて仕事するからね。お手並み拝見させてもらうよ」
…うう、そう言われると緊張感が増す。
しかし、球体はすぐ目の前なのでジタバタしても仕様がない。
私は三ツ矢さんに距離を置くように言い、1人台車を押して球体近くまで像を持っていく。
みれば百貨店の屋上は綺麗に整備がされており、華やかな噴水や緩急の伴った坂道やアスレチックなどが設置されていた…そんな中で空に浮かぶ赤い球体は、非日常感を思わせるが…ある程度の距離まで来た時点で3つの球体がふわふわとこちらにやってくるのが見えた。
『マ…マ…』
『コ…ワタ…シ…ノ』
外から流れてくる声。
スマートフォンから流れてくる音声。
(やっぱり…私の考えは当たった)
大きく息を吸い込み、球体のすぐ近くまで台車を寄せる。
そして球体が接近する手前で台車を止めると私は箱の中から像を起こした。
片手で抱えられるほどの重さの像。
だが布を取る前から熱さを感じ、外に出すと赤く光り出す。
私はその像をゆっくりと地面に置き、2、3歩離れる。
すると3つの球体は身を寄せ合うように像へと近づいた。
『マ…マ…!』
『オイ…デ…』
像と球体が触れ合った瞬間、眩しいまでの光が放たれた。
私はとっさに目を腕で覆い巨大な球体がみるみるしぼんでいく様を見る。
…その時、私の耳に【師匠】の声が届いた。
『大丈夫か、【弟子】、大丈夫か?』
私はすぐにスマートフォンを取りだすと【師匠】と話す。
「…あ、はい、【師匠】は大丈夫ですか?」
気がつけば、すでに像から出ていた光は止まっていた。
像の近くには3つの球体の石。
おそらくあの子供であった球体は母親と同じ大理石となったようだ。
『お前さん何をしている、今まで何をしていたんだ?』
私はすぐにこのことの報告をせねばと【師匠】に話す。
「さっき、支部の三ツ矢さんと親子の怪獣を対面させました。多分このまま親子であった石を転送すれば良いと思うんですけど…」
だが、それに対し【師匠】はこう言った。
『…何を言っているんだ?支部には三ツ矢なんて職員はいないぞ』
「…え?」
私は顔を上げて、呆然とする。
その視線の先で…三ツ矢さんが笑っている。
3つの大理石と『母性』の像を何も使わずに空中に浮かせて。
「…いやあ、こんなに簡単に珍しい母石を3つも手に入れられるとはね」
よく見ると彼の両手からはかすかに電気のようなものがほとばしり、それが像と石を軽々と持ち上げる要因となっていることがわかる。私はとっさに彼の持つ石を撮ろうと、スマートフォンを前に向けたが…なぜか反応がない。
『…わかったぞ。支部やこちらのシステムの故障はこいつの仕業に違い無い』
【師匠】の言葉に私は耳を疑う。
『気をつけろ【弟子】。そいつらは目的のためなら手段を選ばん。飼育、実験、奴隷、各々の快楽を満たすため、わざわざ治外法権下である地球に出向き、自分たちの星の技術で怪獣を我々から搾取する…』
【師匠】は一旦言葉を切ると続ける。
『我々はそいつらを総称してこう呼んでいる…【
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