第15話 幼馴染の感触
「『普通』……とはなんだろうな、本庄よ」
「なに、突然!?」
昼休みに入り、ガタガタと騒がしい教室で、俺は弁当を机に置いたまま、腕を組んで考え込んでいた。
「また……何かあったのか? 今朝から大人しいなあ、とは思ってたけど」と当然のように本庄はパンを手に隣の席――大石くんの席――に座る。「高良さん?」
「なぜ分かる!? 天才か!」
「国矢の同中なら誰でも分かるでしょ」
はは、と爽やかに笑い、「それに――」と本庄は今日も焼きそばパンの袋を開ける。
「今朝、高良さん、国矢のこと捜してたしね。良かった、ちゃんと会えたんだな」
「ああ、会えたことは会えた……んだが。肝心の話は訊けなくてだな」
「え、そうなの?」
「突然、
「流離のバンドマン……? どうやったら校内で会えるの、そんな人と……」
「だから、あとでまりんが話に来てくれるようなのだが」
ぼんやり言って、ふと気づく。
そういえば――初めてではないだろうか。まりんが自ら俺のクラスへ赴いてくれるなんて。専ら俺がまりんのクラスに突撃しては、「もお、はくちゃんったら」をいただいていた。
「ん……? どうしたんだ、国矢? ソワソワして……」
「いや……まりんが来るとなったら、席をちゃんと整えておかねばと思ってだな……どこかに低反発クッションは無いかと――」
キョロキョロと辺りを見回した、そのときだった。
ふにゅ、とまるで低反発クッションの如き、やんごとない感触が背中に押し当てられるのを感じた。
「だーれだ?」
甘えたような声が耳元でして、するりと背後からほっそりとした手が首に絡みついてくる。
「はは」と苦笑が溢れる。「愚問だな。――この何やらゆかし感触は、紛うことなく、千歳ちゃんのおっぱ……伊藤くん!?」
ぽろりと転がり落ちてしまったその単語に自分で驚き、咄嗟に誤魔化したものの、
「いないよ、うちのクラスに伊藤くんは……」
ボソリと容赦無く隣から指摘する本庄の声に、「うぬ……」と閉口する。すると、クスクスと背後で楽しげな声がして、
「も〜、やだなぁ。いくら幼馴染とはいえ、勝手に胸に名前つけないで欲しいな」
「な……!? いや、決して、千歳ちゃんのおっぱいに名前をつけたわけでは……!」
慌てて弁解せんと振り返れば、「せっかくなら、梅子のほうがいいかな」と悪戯っぽく微笑む千歳ちゃんの笑みがすぐそこにあった。今日もまた、伊達メガネにおさげ髪。初々しき『一年生』に扮した千歳ちゃんだ。
「今日も来ちゃった。――一緒にお昼食べよ」
そっと俺から離れ、くんと愛らしく小首を傾げる千歳ちゃん。何事もなかったかのよう……で。ホッとしつつ「ああ」と答えたようとした――のだが、すぐに気づいてハッとする。千歳ちゃんの背後。そこに見覚えのある人影があったのだ。
ちょこんと小さく愛らしいシルエットに、その隣にはスラリと背の高いシルエット。すっかり見慣れたツーショット――まりんと真木さんだ。二人とも唖然とした様子で目をまん丸にして突っ立っている。
いつの間に来ていたのか……というか、いつから来ていたんだ!?
「な……なんで……」とまりんは顔をかあっと赤く染め、狼狽えた様子で口を開いた。「なんで……ハクちゃんが千早先輩の伊藤くんの感触を知ってるの!?」
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