第16話 まりんのお誘い

「いや、なんでって……」

「わたしだって、まだ国矢くんに伊藤くん触られたことないのに!」


 わあ、と泣き出さんばかりにまりんがそう言い放つや、「え!?」と驚く声が我が同中たちから上がる。

 ――って、なぜ、驚く!?


「な……なんだ、その反応は……!?」


 信じられないものでも見るようにこちらを見てくる本庄と真木さんに訊ねると、


「だよねぇ」と千歳ちゃんが腕を組んで、深々と頷く。「普通驚くよね。一揉みくらいしてると思うよね」

「普通とは……!?」

「いやあ、正直……うん。心臓マッサージ――とか言って、やらかしてそうだな、て……」

「それそれ。想像ついちゃうわ」


 なぜか、竹馬の友かの如く分かり合った様子で「うんうん」と頷き合っている三人。

 納得いかん……!


「な……何を言っているんだ? 俺がついていながら、心臓マッサージを施さなきゃならんような事態になるわけがないだろう」

「そっちなんだ!?」


 ぎょっとする真木さんの隣で、「はうっ」とそれこそ急に心臓が止まったかのように胸を押さえるまりん。


「だ……大丈夫か、まりん!? どうした、急に!?」

「もお……ほんとそういうとこなんだよ、国矢くんは!」

「何がだ!?」

「まあまあ」と隣から涼やかな風の如く、本庄が爽やかに声を挟んできて、「とりあえず、話聞こうか。ね、高良さん? 話があって来たんでしょ」


 すると、まりんはハッとして、なぜかあたふたと髪を整え出した。

 そして「えっと……」と遠慮がちに見やった先で、今度は千歳ちゃんがハッとする。


「あ、そうだ……私、生徒会のアレが……アレで……」


 モニョモニョと何やら言って、千歳ちゃんはそそくさと後じさり、「じゃ!」とすちゃっと手を挙げ、身を翻す。


「じゃって……」


 昼飯を食べて行くんじゃなかったのか……?

 呆気に取られながら、去っていく千歳ちゃんの背中を見送っていると、


「く……国矢くん! 今度の土曜日……空いてますか!?」

「へ……」


 顔を向き直すと、顔を真っ赤に染め、ぎゅっとスカートを握りしめるまりんが。まるで親の仇でもそこに埋まっているのか、という険しい形相で床を睨み付けている。


「お……鬼ヶ島アイランド……土曜日の十時とか……どうでせう……!?」

「どうでせう?」


 ポカンとしてから、ああ……と気づく。

 話って、それか。


「ああ。土曜日で構わんが」


 すると、たちまち、ほわりと表情を和らげ、「ほんと!?」とまりんは顔を上げた。


「じゃあ……じゃあ、鬼ヶ島アイランドのエントランスに十時で!」

「エントランス……?」


 あの真っ赤な鳥居のあるところ……だな。うすぼんやりと覚えてはいるが。


「いや……一緒に行けばいいんじゃないのか? 家まで迎えに――」


 言いかけた瞬間、まりんはカッと目を見開き、


「現地集合じゃないとダメなんだよ!?」

「現地集合……!?」


 なぜだ……!?


「あ……えっと……だって……」とまりんは急に目を伏せ、モジモジとし出すと、「待ち合わせ……してみたい、から……。わたしだって、国矢くんのこと……待ってみたい……」

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