第10話 幼馴染の秘蔵書③
「に……似ていなかった、て……」
「ああ。だから大丈夫だぞ!」
グッと親指を立て、自信満々に言い放つが、まりんは「何がどう大丈夫なのかも分からないよ!」と両手に拳を握り締め、何やら必死に声を荒らげる。
そんなとき、「あの〜……」と遠慮がちに言う声が背後からして、
「イチャイチャしているところ大変恐縮なのだけれど……」
「イチャイチャ?」
「ちょ……千早先輩!?」
「あとはお若いお二人でごゆっくり――ということで。私はもう行くね」
ムフムフ言いながら、千歳ちゃんは恥じらうように身を捩らせつつそんなことを宣った。
お若いお二人って……二つしか年は違わないはずだが。
「あ、それで……これは返すね」
そっと渡されたそれは、『美少女盗撮100選』であり、決してまりんの目に触れてはならない禁忌の書物。
思わず、「うおおおうう!?」と奇声を上げて、千歳ちゃんの手からそれをバッと素早く掠め取る。そんな俺を尻目に、まさに天真爛漫というにふさわしい嬉々とした笑みを浮かべて身を翻す千歳ちゃん。ルンルンと鼻歌でも聞こえてきそうな軽やかな足取りで下の階へと降りていくその後ろ姿を見送りつつ、その忌まわしき書物を懐に忍ばせる――が、どうやら手遅れだったようで。
「び……びしょーじょ……とうさつ……」
掠れたその声にぎくりとして振り返れば、
「は……ハクちゃん……」
両手で口許を押さえ、くりっくりの澄んだ瞳をこれでもかとぱっちり開いて俺を見つめるまりんが。
まずい。ガッツリ表紙を見られた……!?
「まり――」
「ハクちゃん……ダメだよ、盗撮は犯罪だよ!」
「その通りだ!」
――って、いや、そこではない気がするぞ!?
「いや……待て、まりん! 確かに、盗撮は犯罪だが、ここにある『盗撮』というのはあくまで購買意欲を唆るための誇張表現というか、虚偽広告のようなもので……決して、本当の盗撮写真が掲載されているわけではない――はずだ」
「そ……そうなの?」
「ああ……そうだ」
とはいえ。正直、俺も確信があるわけではない。とりあえず、本当に盗撮写真ならば、そんなものがこうして堂々と雑誌の体を成して流通している時点でこの国は無法地帯ということになってしまう。さすがに、そんなことはない……と一国民として信じたいところである。
「そっか……そう、なんだ……」
ホッとしたようで、どこかまだ納得していないような表情を浮かべ、俯くまりん。何か考えるような間があってから、まりんはちろりと伏せ目がちに見てきて、
「こ……これからは……そういうの買う前に、言って、ね?」
「は……? 言って、て……」
「その……あの……」とまりんはじわじわと頬を赤らめながら、モジモジとし出し、「――似てる子探さなくても……まりんのこと、好きなだけ盗撮していいから! そんな怪しい本、買っちゃダメなんだよ!」
えっ……。な……なんて……?
「好きなだけ盗撮って……」
まりんを……盗撮だと? なぜだ? なぜ、そんな話の流れに……? 何かが大きく食い違っている気がしなくもない……が、とりあえず――。
「すまん……が、俺はまりんを盗撮したいとは思わない」
「へ……」とはたりとしてまりんは顔を上げ、パチクリと目を瞬かせる。「思わない……の?」
「ああ。まりんを撮るなら、やはり俺はカメラ目線が良い」
うむ、としみじみと頷きながらそう言うと、まりんはポカンとしてから、「はきゃあっ」と聞いたこともない声を上げ、両手で顔を覆って身悶えだした。
「ど……どうした、まりん!? 腹痛か!? アニサキスか!?」
「国矢くんだよ!」
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