第5話 普通の女の子とは⑤
今度のお休み……というと、土日だな?
「ああ、暇だが……」と考えるまでもなく即答し、「土日は休診日ではなかったか?」
「検診のお誘いじゃないよ!」
んもお、とぷりっぷりになって声を張り上げ、まりんは両手にぎゅっと拳を握り締めて言い放った。
「――遊園地だよ!」
「遊園地……だと!?」
何!? と条件反射で訊き返し、はたりとする。
いや……待て。遊園地……だと?
「遊園地……というのは、あれか? 怪しげな着ぐるみを着た者たちが練り歩き、非常識な乗り物がそこかしこに設置され、阿鼻叫喚が木霊する――」
「どんなイメージ!? 偏見が過ぎるよ! それに『着ぐるみ』とか言っちゃいけないんだよ!? 社会的に消されちゃうんだから!」
「そうなのか!?」
なんて恐ろしい場所なんだ……!
「いや、それも……偏見が過ぎる気がするけど」
ボソッと本庄が冷静に呟く声がして、
「もしかして、遊園地って……鬼ヶ島アイランド?」
「鬼ヶ島アイランド?」
その手違いとしか思えない重複した名前には聞き覚えがあった。
昔……小さい頃に家族で行ったことがある。ここから車で高速に乗って三十分、電車では一時間半ほど。海沿いにある、桃太郎をベースにしたテーマパークだ。なまはげ紛いの鬼たちがゾンビの如く徘徊する様はなかなかにトラウマものだった記憶がある。幼心にもう行くまい、と誓ったものだが……。
「そういえば……まりん、行ったことない、て言ってたっけ」
ぼんやりと真木さんが思い出したように言う。
「珍しいよね。地元の奴なら皆、一度は行ってそうなものなのに」
「うん……ちょっと、ね。そういうのはウチはあまり……」
苦笑しながら口ごもり、まりんは俯いてしまった。
それはそうだろうな――と俺は思ってしまうが。親友とはいえ、真木さんもまりんの体質については知らない。当然、遊園地になんて――有象無象が集まり、無闇やたらと心拍数を上げるような場所に――まりんが連れて行ってもらえたはずがないことなど、分かるわけもない。
当然、俺もそんな危険と鬼の蔓延る場所に連れて行こうと思ったことも無く。今までならば……『幼馴染』のままだったならば、全身全霊を持ってその無謀さを説き、引き留めていたところだが。
今の俺は『お友達』であり、まりんは『一人の普通の女の子』である。
「いいぞ、おともしよう」
腕を組み、深々と頷くと、
「ほんと……!?」バッと顔を上げ、まりんはぱあっと瞳を輝かせた。「一緒に行ってくれるの!?」
「ああ」
「ありがとう、国矢くん!」
思えば、今まで俺はまりんを『幼馴染』としてしか見てこなかった。『お友達』として何ができるかなど、考えたこともなかったわけで。俺にとっては全て未知。遊園地に行く――という行為がどうまりんの助けになるのかもさっぱりだが……とりあえず、まりんに笑みが戻ったのだから、これで良いのだろう。
しかし……遊園地か。確かに、『お友達』で行くイメージがある。CMでもそういった映像を見かける……が。
「ところで――」とふと気になって、俺は問うた。「二人で行くのか?」
「ん……!?」
ぎょっと目を丸くするまりん。しばらくきょとんとしてから、ぎこちなく苦笑し、
「え……なんで……?」
「いや……なんとなく、だが。『遊園地』といえば、大勢で行くイメージがあってだな……」
「あ、そ……そうだよね!? うん……そうだよ!」と、なぜかまりんは焦ったように声を荒らげ、「もちろん、他にも誘うよ!? お……お友達は、二人きりで遊園地には行かないんだよ!?」
「おい、まりん……何を言って……!?」
「ソーダ、柑奈ちゃん……良いトコロに! 柑奈ちゃんも一緒に鬼退治に……」
「行かないから!?」
「行かないの!?」
なんだと……!?
「行かないのか、真木さん!?」
「行かないよ!」と真木さんは呆れと怒りの混じったような声色でピシャリと言って、はあっとため息吐いた。「私……用事あるから」
「まりんより大事な用事などないだろう!?」
「また、君はそういうことを息をするように……」
くわっと目を剥き、何かを言いかけ、真木さんは口を噤んだ。気を落ち着かせるような間があってから、
「とにかく……私はパスね」
腰に手を当てがい、真木さんはさらりとどこか得意げに言った。
そのときだった。
「あ、じゃあ……」
ふいに本庄が手を挙げ、にこりと爽やかイケメンスマイルを浮かべた。
「俺、おともしていいかな?」
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