第11話 俺の幼馴染②
たちまち、じんわりと温まるものを胸の奥に感じる。
ああ、やっぱり……千歳ちゃんだな、と思った。そう思いながら――不思議にも思う。
なんなんだろう?
まだ会って三日だというのに。その顔を見ると……、その声を聞くと……、安らぐ感じがする。おかえり――という言葉がやたらとしっくりとくる。
まるで、ずっと昔から知っていたような。まるで、本当の幼馴染みたいな。そんな安心感があって。漠然と、傍にいたい、と思うから――。
グッとベンチに置いた手に力を込め、「千歳ちゃん、俺は――」と言いかけたとき、
「まさか、戻ってきてくれるとは思ってなかった」
どこか寂しげに千歳ちゃんは苦笑して、ぽつりと呟いた。
「てっきり、まりんちゃんと仲直りしたら、そのまま二人で帰るのかな、て……」
そこまで言って、千歳ちゃんは何かに気づいたようにハッとし、
「もしかして、仲直り……できなかったの!? 話、できなかった!?」
がらりと顔色を変えて訊いてきた千歳ちゃんに、「いや、大丈夫だ!」と俺は右手を挙げて慌てて制し、
「ちゃんと話してきた。全部、聞いた。『真相』を……まりんの口から聞いて、謝ってきた」
すると、千歳ちゃんはほうっと表情を和らげ、「そう……」とやんわり微笑んだ。
「千歳ちゃんのお陰だ。まりんも礼を言っておいてほしい、と言っていた」
「私は何もしてないよ。私はただ……君のことを知りたかっただけ。君を知ろうとしたら、まりんちゃんに行き着いて……助けを求められた。だから、橋渡しをしただけ。お礼を言われるようなことは、何も……」
「でも――そんなふうに俺を知ろうとしてくれたのは千歳ちゃんだけだ」
「へ……」
「俺を知りたい、と言ってくれたのも……甘えていい、と言ってくれたのも……俺を救いたい、と手を差し伸べてくれたのも……千歳ちゃんが初めてだ。
そんな千歳ちゃんを、俺ももっと知りたいと思う。だから……」
ベンチから手を離し、背筋を伸ばして姿勢を正す。すうっと息を吸い込み、
「ここでボウリングをするのも久しぶりだなあ!」
「え……? ど……どしたの、突然? 久しぶりって……今日、初めて来たんじゃ……」
「よく千歳ちゃんのご家族と一緒に来たものだ」懐かしむように辺りを見渡しながら、腕を組む。「千歳ちゃんのご両親と、あと妹ちゃんの……」
はたりとそこで言葉に詰まる。
そういえば――俺としたことが、千歳ちゃんの妹ちゃんの名前を知らない。妹ちゃんがいることは聞いていたが……名前をすっかり聞き忘れていた。
しまった、と渋面浮かべて口籠もっていると、
「
ぽつりと言う声が聞こえた。
ハッとして見やれば、千歳ちゃんが茫然としながら俺を見上げていた。
「千夏……」と再び呟くように言って、千歳ちゃんは遠慮がちに口許をわずかに緩めた。「千早千夏。白馬くんと同い年……」
「あ……ああ、そうだった! 千夏ちゃんだ。俺と同い年……だったな。懐かしいなぁ」
うんうん、と深々と頷く。そんな俺を千歳ちゃんは微笑を浮かべてしばらく見つめ、「いいの?」と頼りない声で言った。
「せっかく、まりんちゃんと仲直りできたのに……。もう偽物なんていらないんじゃ……」
言われて、ああ、そうだった――と思い出す。まだ……その誤解があった。
「そのことなんだが……」
言いながら、俺はぐるりとベンチを回って千歳ちゃんの隣に腰を下ろす。
どこか不安げに顔を曇らせる千歳ちゃんを見つめ、はっきりと告げた。
「俺は千歳ちゃんをまりんの代わりだなんて思ったことはない。そんな理由で、俺は千歳ちゃんと幼馴染になったつもりはない。
俺は……千歳ちゃんと幼馴染になりたい、と思ったから千歳ちゃんと幼馴染になったんだ」
その瞬間、ぱあっと見開かれた千歳ちゃんの眼が、キラリと煌めいたように見えた。
やがて、じんわりと千歳ちゃんの顔に歓喜の色が滲む。
照れたように。でも、嬉しさを隠しきれないような。まるで子供みたいに無邪気なその笑みに心が和む。
――自然と、頬が緩むのを感じた。
「まずは……ストライクの取り方を教えてくれ、千歳ちゃん。昔みたいに」
*救済編もこれにて完結です。ここまで見守ってくださった皆様、本当にありがとうございます! 長い戦いでございました。書き手にとっても、そして、読み手の皆様にとっても……だったと思います。
ここからがようやく本題……といったところですが。
諸事情ありまして、一週間ほど更新を停止することになりそうです。少しだけでも書けたらいいな、とは思うのですが、次回更新は18日以降……と思っていただければ、と思います。
間が空いてしまいますが、再開するまでお待ちいただければ幸い至極です。
次話からは白馬もまりんも心機一転の新章となります。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします!
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