第18話 真相③

「なんで……」茫然として、弱々しい声が漏れていた。「なんで……そこまでしようと……してくれるんだ? 一昨日会ったばかりで……」

「『本当の幼馴染でもないのに』――?」


 クスリと微笑み、千歳ちゃんは俺の言葉を――躊躇った続きを――引き継いだ。


「君は……なんで?」と千歳ちゃんはやんわりとした声色で訊き返してきて、落ち着いた眼差しで俺を見つめてくる。「君はなんで、出会ったばかりの私に……『厭なら言って欲しい』なんて言ったの?」

「へ……」

「入学式のあと……非常階段で、君は私に言ってくれた。幼馴染でもない……出会ってまだ数時間の、まるで他人の私に。厭なら言って欲しい、て。もし、一人で苦しんでるなら、言って欲しい――て言ってくれた」


 まだほんの二日前のことを……まるで遠い日でも思い出すように、千歳ちゃんは哀愁漂う表情で言って、「あのときね――」と儚げに微笑んだ。


「救われた気がしたの。初めて……この国で居場所を見つけた気がした。――本当に君が幼馴染だったら良かったのに、と心から思ったの」


 だから――と懇願するような……切実な響きをはらんだ声色で続け、千歳ちゃんは俺の手を取りぎゅっと握り締めてきた。


「だから……ね、白馬くん。今度は私に君を救わせて。――もし、一人で苦しんでるなら言って欲しいの」


 ああ、なんで……なんだろう。

 千歳ちゃんの口から出てくる言葉は、初めて聞くものばかりで。それでいて、そのどれもが痛いほどに胸に響く。


 何かがするりと身体から抜け出ていくような――そんな感覚があった。


 千歳ちゃんと手を繋いだまま、ストンと傍らのベンチに腰を下ろしていた。

 心臓とは別の何かが……胸の奥で激しく揺れ動いているのを感じていた。今にもそれは崩れてしまいそうで。言い知れない不安に襲われる。未だ嘗てないほどに、自分が脆く無防備に思えた。


 怖い――と思った。まるで子供みたいに、怖いと思った。


 それなのに、「十年前……」と俺は足元を睨みつけながら、口を開いていた。自分では無い誰かが……俺の体を乗っ取って、勝手に話し始めたかのようだった。


 隣に千歳ちゃんが座る気配がした。繋いだその小さな手が俺の手を力強く握り締めてくる。まるで、大丈夫だよ――とでも言いたげに。


 俺はゆっくりと息を吸い、


「十年前……」と喉が裂かれるような痛みを覚えながら声を絞り出す。「まりんと出会ってしばらく経った頃、まりんに『おさななじみになろう』と言われた」


 それは『契約』では無い。ただの……子供の戯れだった。まだ、お互いに『おさななじみ』の意味もよく分からないときの、他愛のないママゴトみたいなもんだった。

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