第2話 幼馴染たるもの②

 一年三組の教室には、まだ何人かの生徒が残って、各々、静かな放課後を過ごしていた。そんな中、教室の隅――窓際の一番後ろの席に、確かに三人の男子生徒が集まっているのが見えた。二人が椅子を持ち寄り、そこの席を囲う形で輪になって、黒魔術でもしているかのような怪しげな雰囲気で顔を突き合わせている。

 コソコソと夢中で何を話しているのやら――もはや知りたくもないが――、三人は近づく俺に気づく気配も無く、


「え、何……!?」


 ようやく、振り返ったのは、俺が適当に空いている席から椅子を取って、その輪に加わったときだった。

 三人の視線を感じつつ、どっかり座って腕を組む。

 机の上には……なるほど、駿河さんの話していた通り、いかがわしい雑誌が。どんな趣向のものなのかは知らんが、開かれたそのページに写っているきわどい格好の女性には目線が入って、顔が分からないようになっていた。18禁の類だというのは間違いない。年齢的に、こんなものを持っていること自体、良からぬことなんだろうが……その辺は、俺は生徒会役員でも風紀委員でも無いし、別にどうでもいい。

 問題は――と、それぞれの顔を確認するように三人を見回す。


「誰……?」

「なんか見覚えある……けど」

「……!」


 困惑気味に顔を見合わせる二人は、出席番号一番の青木すぐると十三番の瀬長裕太。そして、もう一人――彼らとは違い、明らかにガラリと顔色を変え、凍りついた表情を浮かべる出席番号三十番の前田浩二こうじ

 うちの中学に上がってくるのは、主に俺と同じ小学校の奴だが……一部、別の小学校から来ている奴らもいた。青木と瀬長もそう。まだ入学して一ヶ月という頃。俺は一年六組で教室も離れていたし、二人とはろくにすれ違ったことも無く。まりんの送り迎えの際に俺が一方的に彼らを見かけていただけで、実質的に初対面。俺のことを知らなくて当然だった。同小だった前田とは違って……。


「よ、よお、国矢! 急に、どうした――」


 青ざめた顔に、ははは、と引きつった笑みを浮かべ、前田は慌てた様子で雑誌を閉じて、机の中にしまおうとした――が、その雑誌を俺はバンと右手で押さえて、机の上に張り付けるように留めた。

 ちらりと含みを持たせた視線をやれば、前田は観念したように雑誌から手を離して俯いた。身を縮こめ、こわばった表情でうなだれる様は、さながら判決を待つ罪人のよう。もう俺がなぜ現れたのか、分かってるのだろう。

 一方で、青木と瀬長はまだ状況が掴めない様子で、「え、なに?」とそれぞれ戸惑いを口にしている。そんな二人に視線を移し、俺は淡々と名乗った。


「一年六組、出席番号九番、国矢白馬。――高良まりんの幼馴染だ」


 すると、二人は「え、高良さんの……?」と目を丸くしてから――当然、その名前に後ろめたいところがあったのだろう――ハッとして固まった。

 俺は鋭い眼差しで三人を順に睨め付けながら、


「高良によく似た子が載ってる――と盛り上がっていたらしいが」低く、脅すような口調で言って、ゆっくりと雑誌から手を離した。「どこがどう似ているのか……納得できるまで説明してくれないか」

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