第24話 幼馴染の営み①

「そんな……大きいの、入らないよ。白馬くん」

「え……そんなデカいか!? 俺は普通かと……」

「そっか……白馬くん、身体大きいもんね。――大丈夫。私、がんばる」

「無理はするなよ、千歳ちゃん」

「無理なんてしてない。でも……私、こういうの初めてだから……少しずつ、ゆっくり入れてくれる?」

「ああ……そうか。すまん」

「ううん、いいの」

「じゃあ、ゆっくり……入れるから」

「うん。お願い、白馬くんのちょうだい――」


 頰をじんわりと滲ませながら、千歳ちゃんは物欲しそうな目でじっと俺を見つめ、花弁の如く可憐なそれをゆっくりと開かせ――と、その瞬間、


「食べづらいよ!」


 隣から、そんな苦悶に満ちた声が飛んできた。

 ハッとして振り返れば、


「わざと……? わざとなの……?」


 その端正な顔立ちを歪ませながら、隣の席で頭を抱える本庄が。机の上に置かれた焼きそばパンは半分ほど残されて放置されている。


「どうしたんだ、本庄? 焼きそばパンは確かに焼きそばがこぼれやすく、食べづらいが……」

「焼きそばパンの話じゃなくて!」くわっと目を見開き、本庄は俺たちを睨みつけてきて、「――いったい、何をしてんの!?」

「何って……」


 ぽかんとして、俺は向かいを――俺の机を挟んで座る千歳ちゃんをちらりと見やる。

 を喰らい、千歳ちゃんも口を開けたまま、きょとんとしていた。見つめ合う俺たちの視線の間には、行き場を失ったサイコロステーキが。今まさに千歳ちゃんの口へとお届けせん、としていたものだが……今にも箸の先から転がり落ちそうなそれを、一旦、俺の弁当箱に戻し、


「見ての通り――」と俺は本庄に視線を戻して、はっきりと言う。「『あんあん』だ」

「『あんあん』……ではないだろ!?」


 ぎょっとして声を上げた本庄に、「ごめんね、本庄くん」と慌てたように千歳ちゃんが言って、


「いきなり、びっくりさせちゃったよね。私が白馬くんにお願いしたんだ」と、お下げ髪に黒縁眼鏡姿のまま、千歳ちゃんはテヘッと愛くるしく笑う。「幼馴染にあんあん言わせてもらうの、憧れで」


 ぶぐほっとイケメンらしからぬむせ方をして、「いや、『あんあん言わせる』って日本語は、こういう意味じゃ――」と血相変えて言いかけた本庄に、「やめろ、本庄!」と俺はすかさず鋭い声で制止した。

 がっしりと本庄の肩を掴み、必死に訴えかけるような眼差しで見つめ、


「この世には言って良いことと悪いことがあるんだ、本庄」

「いや、これは明らかに言った方が良いことだろ!」

「いいんだ!」と俺は説得するように力をこめて言う。「千歳ちゃんがあんあんしたいと言うなら、俺は幼馴染として、千歳ちゃんが満足するまで千歳ちゃんをあんあん言わせるだけだ」

「いろいろ間違ってるからな!?」


 芳ばしい香りと楽しげなクラスメイトの声が満ちる教室の中、コソコソと押し殺した声でそんなことを言い合ってから、本庄は「あー、もう……」と苛立ちと疲労の混じったようなため息を吐いた。


「また変な写真撮られて回されたらどうするんだ」


 ん……?


「変な写真……?」


 『また』、て……なんの話だ――と一瞬、考えてからハッとする。


「ああ……そうだった!」


*しばらく、更新が止まって申し訳ありません! 更新停止中、短編のほうを書いておりました。イチャイチャがっつりのラブコメになっています。まだ未読の方、もし良ければ、そちらものぞいていただければ光栄です。(ただ、R15となっていますので、ご了承ください)


『遠距離の年下カノジョと久々に会ったらどエロくなってるんだけど、NTRじゃないよね!?』

https://kakuyomu.jp/works/16816700426982103420


 既読の方、しつこい宣伝となってしまってすみません。

 もう一作の長編同様、こちらも更新を再開いたします。引き続き、お読みいただければ幸い至極です〜。

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