第20話 幼馴染の昼休み②
すると、千歳ちゃんはぱっと俺から離れ、
「皆、し〜!」と俺の後ろで身を縮めて、ハンカチ三人組に向かって人差し指を唇に当てて言う。「違うクラスに入るの、一応、校則で禁じられてるらしいの。会長の私が堂々と破るな、てノブに今朝、怒られちゃったんだ。だから……お忍びなの」
お忍び!
ああ、なるほど――とそのとき、ようやく納得する。それで、そんな格好をしているのか。
しかし……と、ちらりと目だけで辺りの様子を伺う。
「残念だが、千歳ちゃん」俺も声を潜め、俺の背後で身を隠しているつもりの千歳ちゃんに言う。「どうやら、すでにバレバレのようだ」
「え、バレバレ……!?」
ぎょっとして俺の蔭から飛び出して周りを見る千歳ちゃん。その目に映ったのものは、俺が見ている光景と同じ――色めき立って、各々ニヤけた顔をこちらに向ける一年八組の面々だろう。
「ひゅ〜」と誰かが口笛のようなものを鳴らし、「変装してまで会いに来ちゃうなんて、会長、どんだけ国矢のこと好きなんスか〜」
「本当にただの幼馴染〜?」
「付き合ってんじゃないんスか?」
まるで劇団よろしく息ぴったりの掛け合いが始まる教室。千歳ちゃんは「え……ちょっと、やだぁ……」と頬を染めながら、身悶えするように体をよじり出し、
「夫婦みたいだ、なんて……そんなこと言われても困るよぉ」
「そこまでは言われてないぞ、千歳ちゃん!?」
「はいはい、ごちそうさまです〜」と唐突に昼休みっぽい言葉が横から飛んできて、「もうこれ以上、見せつけないでいいですよ、会長〜。私たち、一年八組一同は、会長と王子を応援しますから」
「そうです、そうです! 安心してイチャついて行ってください」
「私たち、会長が来たこと誰にも言いません」
ハンカチ三人組はそんなことを口々に言って、「ね〜、皆!?」とクラスに問いかけた。すると、あちこちから「おう、任せとけ」、「あったりまえだ!」「会長は一年八組の一員さ」と何やら熱い言葉が飛び交って、教室は妙な一体感に包まれる。
「み、皆……」
千歳ちゃんはメガネの奥で瞳をうるっとさせて、しなやかな指先で覆った唇から震えた声を漏らし、
「ありがとう! 私、今日から白馬くんとおいしくお昼食べるね!」
千歳ちゃんが声高らかにそう宣言するなり、わあっと教室中が歓喜に沸く。辺りに熱気が渦巻き、今にも、一斉に皆でファイアーダンスでも踊り出しそうな勢いだ。
そんな中、俺はぽかんとして佇んでいた。
な……なんだ、これは? この盛り上がりはなんなんだ? 全く良く分からないが……とりあえず――とちらりと見た先で、千歳ちゃんは顔を赤らめながらも、ほくほくとして実に嬉しそうだ。まるで子供みたいなその笑みに、ほっこりと胸が温まる感じがする。
千歳ちゃんが幸せそうなら、それでいい――とそんな気になる。
「えっと……これ、なんの騒ぎ?」
ちょっと引き気味にさえ聞こえる、至極冷静な声が背後からしたのは、そんなときだった。
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