第27話 一年契約

「は……い?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。

 幼馴染に……ならない? それは……どういう意味だ?

 ぽかんとしていると、


「ハクマくんは幼馴染をクビ……になっちゃったんだよね? つまり、フリーってことでしょ」

「フリー……」

 

 フリーというと。野球選手のフリーエージェント的な……? どの球団とも選手契約してもいい、というアレみたいなことか?

 確かに。まりんに解雇された俺は今や、フリーエージェント……って、待て。幼馴染ってそういう仕組みだったか!?


「皆、私たちのこと幼馴染って勘違いしてるんだし。このまま、幼馴染になっちゃおうよ」


 ぱあっと晴れやかにそんなことを言う会長に、そうですね、なんてうっかり言いそうになるが。


「いや……あの……なっちゃおうよ――って、幼馴染ってそういうものでは……!」

「一年――!」


 急に、俺の目の前でぴしっと人差し指を立て、会長は凛々しくも妖しい……ぞくりとするほどに不敵な笑みを浮かべた。


「一年で、私はいなくなる。だから、それまででいいの」


 いなくなるって……つまり、卒業――のことか? 卒業まで……幼馴染のフリをしよう、て……そういうことか?

 それは……どうなんだ!? 倫理的に……いや、その前に、すぐ嘘だってバレないか!? この学校には、まりんが……ホンモノの俺の幼馴染がいるんだ。さっきだって、俺が会長と親しげにしているのを不審がっていたし……。きっと、一瞬でバレる。そしたら、どうなる? 嘘だってバレて、幼馴染のフリしてた、て周りに知られたら……また、会長が変なことを言われるんじゃ……。そんなリスクを背負ってまで、一体、なんのために……?

 困惑のあまり、言葉も出ずに固まっていると、


「ね、ハクマくん」と会長は愛くるしく小首を傾げ、「一年専属幼馴染契約――でどうかな?」


 どうかな、って……いや……いや!? 契約って――やっぱ、おかしいぞ!?

 我に返ったようにハッとして、


「なんで――」


 言いかけた俺の問いを、「代わりでいい」と会長は鋭い声で遮った。


「その……ハクマくんをクビにした幼馴染の子のにしてくれていい」


 ぎゅっとハンカチを胸の前で抱きしめるように抱き、会長は今まで見たどんな笑みよりも切なげで――それでいて、ふわりと柔らかく力無い笑みを浮かべ、清々しく言った。


「一年だけ。私に思い出をちょうだい」




*一話分が短くなってしまいましたが、これにて一章が完結です。前置きが想定していたよりずっと長くなってしまいまして……ようやく、あらすじ回収です。ここまでお読みくださっている皆さま、ありがとうございます! 次章からラブコメします。

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