第13話 ただの同中②

 いや……それよりも、だ。

 この六組のイケメンの話を整理すると……つまり、『振り返り地蔵』とかいう怪談話をまりんに聞かせていただけだ、と。そして、その流れで、まりんの腕を掴んで驚かせた――ということか?

 それは……どうなんだ? いいのか? 『なーんだ、そういうことか』とホッとするようなことなのか? まりんが悲鳴を上げたのは事実だろう? 結局、ただの嫌がらせじゃないのか!?


「てかさ、腕を掴んでるのを見かけたから、て大げさじゃない? 教室の中に突っ込んでくるほどのことか? そもそも、フツーに考えて、教室でクラスメイトに絡んだりしないでしょ」

「まあ、そう……だけど。知り合いの女の子の悲鳴が聞こえたら、そりゃ、駆けつけるでしょ。フツーに考えて、初対面の女の子に怪談話なんてしてるとは思わないしさ」

「それに、だ! まりんは怖い話が苦手なんだぞ!」


 口調だけは穏やかながら、交わる視線が散らす火花でも見えそうな――ただならぬ空気で淡々と言い合いをしていたイケメン二人。そこに突如として口を挟んだ俺に、二人とも、ぎょっとして振り返った。え、何言い出した? という心の声がはっきりと聞こえてくるようだ。

 それもそうだ。仕方ないよな。この二人はまりんの幼馴染じゃないのだ。どれほど、まりんが、おばけ、妖怪、ドラキュラ、チュパカブラにつちのこ……その他諸々、古今東西の『得体の知れないもの』を恐れているのか知らない。


「いいか!? まりんはな、ちょっとでもお化けの話を聞いてしまうと、夜も眠れなくなってしまうんだ。小さい頃は、よく俺が……」

「きゃあ!?」と、いきなりまりんの甲高い悲鳴が飛んできて、「やだ、やめてよ!」


 ん? 『きゃあ、やだ、やめてよ』? ついさっきも、廊下で聞いたものと同じ言葉……だが、さっきよりもずっと刺々しいというか、攻撃的というか。まるで、怒っているような――?

 ハッとして見れば、まりんは顔を真っ赤にして、潤んだ瞳でこれでもかというほど俺を睨みつけていた。ぷんぷん、なんて雰囲気ではない。今にも、そのふわふわと柔らかそうな長い髪が全て逆立ち、炎となって燃え上がる様が思い浮かぶようで……。

 間違いない、と確信する。やはり、怒っている……!? しかも、尋常じゃない怒りっぷりだ。


「ど……どうしたんだ、まりん?」

「どうした、じゃないよ」とまりんは悔しげにぽつりと言って、すうっと息を吸い込み、「まりん、もうお化けなんて怖くないから!」

「な……」


 なんだって――!?

 そんな……あのまりんが……『お化けなんて怖くない』と? いつからだ? いつから、怖くなくなったんだ? 知らないぞ。俺は知らないぞ!?


「い……いつのまに……」とうろたえる俺に、まりんはすかさず、「そもそも――」と絞り出したような声で続けた。 


「国矢くんには関係ないでしょ! ただの同中なんだから、もう放っといてよ」


 いきなり、雷が落ちてきて、校舎の全ての窓ガラスが割れたんじゃないか、と思った。それほどの衝撃……。何かが一気に砕け散るような音が聞こえた気がした。

 国矢くんには関係ないでしょ……にはでしょ……と、その言葉が、エコー付きで頭の中でエンドレスリピート。思考と言えるものは完全にストップ。生ける屍ゾンビと化した俺は、本庄に腕を引かれるまま、六組の教室を後にした。

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