第11話 突破口

「そうだ。高良さんに聞けばいいんじゃない?」


 ぽん、と軽々しく放った本庄のその言葉は、まるで天啓のようだった。暗かった目の前がぱあっと一気に明るくなったような。まさしく、突破口が見えたような気がした。

 ――そうだ。まりんがいたじゃないか!

 俺はいったい、何を一人で悩んでいたんだ。俺にもう一人幼馴染がいたのなら、まりんがきっと何か知っているに違いない。いや、知っていないとおかしいくらいだ。五歳のときから、二週間前に幼馴染をクビになるまで、ずっと一緒に過ごしてきたのだから。

 そうと決まれば……。


「ありがとう、本庄きゅん!」

「本庄きゅん!?」


 振り返るなり、本庄に礼を言い、俺はしゅばっと一目散に教室を飛び出した。


「国矢!」と背後から本庄の声が追ってくる。「高良さんのクラス、知って……」

「一年六組だ」


 振り返って自信満々に言うと、本庄は力の抜けた笑みを浮かべ、


「まあ……そりゃ、知ってるか」


 そう。昇降口に張り出されたクラス分け表を前に、俺が探した名前はもちろん、二つ。体に染み付いた幼馴染の性というやつだな。ずらりと並ぶ名前の中で、無意識に、目が勝手に『国矢白馬』と『高良まりん』の名前を探していた。だから、当然、まりんが何組かなど把握済みだ。

 二つ隣の一年六組――。

 残念ながら、『ただの同中』から『クラスメイト』に昇格することは叶わなかったが……教室は近いからまだ良しとしよう。その距離、ほんの十メートルほど。俺の歩幅なら、あっという間だ。

 まりんと会える。しかも、ちゃんとした話す口実がある。幼馴染失格宣告を受けてから、二週間。電話もメッセージも冷たく返され、家に行っても、チョコチップメロンパンごと門前払いを食らってきたわけだが。ようやく、まともに会話ができる――そう思うだけで、自然と足取りも軽くなる。今にも鼻歌歌って、スキップしたいくらいだった。


「一気にご機嫌になったね」隣で、なぜかついてきた本庄が、相変わらずのんびりとした口調で言う。「高良さんのこと、ほんとに大好きなんだね」


 なんだ、急に?


「改まって、何を確認するんだ、本庄? 当たり前だろ、幼馴染なんだから。クビになったけど」


 はっきりとそう言い切ると、本庄は「幼馴染……だから好き、か」と含みを持たせた言い方で呟き、ふっとその横顔にどこか昏い笑みを浮かべた。


「それって、なんかさ――」


 ちょうど、六組の教室に差し掛かったときだった。本庄が何かを言いかけたその瞬間、「きゃあ」と甲高い悲鳴が飛んできた。


「やだ……やめてよ!」


 廊下まで聞こえてきたその声は、紛うことなく……まりんのものだった。

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