第6話 俺の幼馴染か!?
思わず、「は?」と惚けた声が溢れていた。
いつか……会えると思ってた?
って……ん? な……なんでだ? 人違い……なのに? え――誰!?
「お……幼馴染?」
ふと、誰かが漏らしたその声が合図にでもなったかのようだった。まるで時が止まったかのように固まっていた周りの奴らが、一斉に我に返ったようにどよめき立ち、
「まさか、そんな存在が!?」
「国矢くんとかいったかな? 幼馴染って、いつからの知り合いなのかな!?」
「出会いはどこで、どういった経緯で懇意になったのかい!?」
それまで、俺を警戒して距離を取っていた奴らが、新体操よろしく寸分の狂いもない動きで再び輪を作り、ぐっと俺に詰め寄ってきた。幼き日のかごめかごめを思い出すシチュエーションだ。なかなか心地よいものではない。そして、大変困る。どれほど熱意たっぷりに聞かれても、俺には何も答えられない。その質問は全て、今、俺がそっくりそのまま彼女に聞きたいことなのだから。
「いや、それは……」と、当然ながらぐっと口ごもった。
知らん――と言ってしまいところだが。
ちらりと横を見れば、クスッと微笑む美少女が。その深みのある黒い瞳は、幾万もの瞬く星々が煌めく夜空のごとく、キラキラと輝き俺を見つめている。期待とか希望を感じさせる眼差し。もはや、俺を『同中』宣言したまりんよりも、ずっと親しげで、信頼に満ちている……気がする。赤の他人に向けるそれとは思えない。
そもそも、『ハクマくん』と俺を呼び、『いつか会えると思ってた』とまで言ったのだ。彼女のほうは、人違い……とは思えない。
つまり、本当に彼女も俺の幼馴染ということなのか!? 嘘から出た真――いや、人違いから出た幼馴染!?
しかし……誰だ? 誰なんだ!? 全くもって、俺に心当たりはないのだが……!?
なんてことだ。俺は幼馴染を一人、すっかりさっぱり忘れてしまっていたということか? 最低だ。――幼馴染失格だ。
ダラダラと嫌な汗が背中を流れ落ちていく。その間にも、彼女との関係を探らん、と熱のこもった質問が次から次へと集中砲火のごとく飛び交ってくる。それが全て漏らすことなく良心に突き刺さってくるようだった。
言えない。言えるわけがない。全部、知らん――なんて。
人違いだった、とはいえ。あんなにも堂々と『幼馴染だ!』と言っておきながら。嬉しそうに俺の名前を呼んだ彼女に、「誰だ!?」なんて……そんな非道極まりないこと、俺にはできん!
――と、そのときだった。
「はい、皆、ちょっとストップ!」
パン、と彼女がいきなり手を叩き、高らかな声を響かせた。
「いきなり、私の幼馴染を困らせないでくれるかな? 関係ない質問は終わりにしましょう」
口元には笑みを残しつつ、きりっと凛々しい顔つきになって、彼女は周りを囲む連中をぐるりと見渡した。
途端に、全員が新兵のごとくぴしっと姿勢を正し、「すみません」と動揺もあらわに情けなく上擦った声をぴたりと揃えた。
「ありがとう」と彼女は満足げにニコリと微笑み、すぐ横に立っている縁なし眼鏡の生徒にちらりと視線をやり、「続きは、また明日でもいいかな、萩くん?」
「もちろん! では、明日、改めてよろしく頼む」
「こちらこそ。よろしくね」
なんだ? なんなんだ?
こいつらに囲まれて困ってた……んじゃなかったのか? 続きって……? 改めてよろしく、て……? 分からん。何もかも分からん! いろんな意味で、この子は一体、何者なんだ!?
呆然としていると、ぐいっと腕を引っ張られ、
「さ、ハクマくん」
と彼女が子供みたいな弾んだ声で俺の名を呼んだ。やっぱり、嬉しそうに――。
「たくさん、聞きたいことがあるの。一緒に行こ!」
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