第56話 鬼女紅葉 5
その夜、春子は夢を見た。
素晴らしく綺麗で豪華な着物を着た女が三人、春子を手招きしている。
近寄ってみると、一人は赤ん坊を腕に抱いていて、一人はまだ若そうな娘だった。
もう一人は真っ赤な髪の毛で、その頭から真っ赤な角が二本生えていた。
大きな杯を手にあぐらをかいて酒を飲んでいるようだ。
「鬼……」
(鬼? それは嫁をないがしろにして女遊びしてるあんたの亭主の事か? それともよそから嫁に来てくれた娘にあんな仕打ちができるこの家の者か?)
「……」
綺麗な鬼の女性にそう言われて春子はぎゅっと唇を噛んだ。
(わっちも長い間人間を見てきたが、繋がれてるわけでもないのに、奴隷のような暮らしをする女が多いのはどういうわけだえ? あんたの亭主は何故、あんただけを愛せないんだぇ? そんな男と一緒に暮らすのが楽しいか? 楽しいなら何故そんなに悲しそうなんだぇ?)
春子は首を振った。少しも幸せなどでない。
(あんたはどう思うんや? いつかあんたに娘が出来て、今のあんたみたいな目に遭うたらどう思うんや? あんたの親はこんな目に遭わせる為にあんたを産んだかぇ)
春子ははっとしたような顔になった。
自分の親には心配をかけないように何も言っていない。
幸せな振りをしている。
「どうしたら……いいんですか。私……どうしたら……」
(どのようにでも)
「え……」
(あんな男を捨てて自由になるのもあんたの自由。そんな男に縋り付いたまま年をとって醜く老いさらばえるのもあんたの自由や)
「醜く……老いて?」
(そうやな。このままのあんたの先を視てやろうか。何やら心の病になって、医者にかかってる……薬漬けの毎日や。あんたの亭主はもう戻ってこんやろう。あんたはあの家で亭主の親を……そうや。年取った亭主の親だけがあんたに縋り付く……あんたはほんまの年よりも老けて見える……ああ、亭主の親が寝たきりになって、下の世話まであんたの仕事やぁ。忙しゅうなるなぁ。それはそれであんたの人生やろうけど)
「嫌! 絶対に嫌!」
春子は大きな声を上げて、頭をぶんぶんと左右に振った。
(そやかてこのままでは紅葉姐さんの言う通りやで……)
若い娘がやけにしわがれた声でそう言った。
(ほんまになぁ。気の毒に……このままではこんな可愛い赤ん坊を抱く事もなく……)
と赤ん坊を抱いた女が言い、赤ん坊がきゃっきゃきゃと笑った。
「どうすれば? 教えてください!! どうすればいいんですか?
(勇気をお出し……闇屋のあにさんをお訪ね……ええようにしてあげよう)
(そうや、この間、名刺を渡したやろう……)
(待ってるからなぁ。楽しみや)
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