第54話 鬼女紅葉 3
「お前ら、うるさい。ええ加減にしとけ」
と闇屋が言ったので、三人ともが(ふんっ)とそれぞれの方向を向いた。
「兄さん、仕事の話ですけどいいですか? あんまり乗り気にはなれないかも、ですけど」
と鳴宮は闇屋の横へ椅子を引っ張って行って座った。
「ええで」
「依頼人は吉永春子と言って主婦。的は夫の吉永洋一。夫から離婚を突きつけられてます。子供が出来ないってのが向こうの言い分ですが、どうも新しく若い女がいるようで。夫の家族からも酷く責められて別れろと言われていじめられているようです。でもただでは離婚したくないんですと。こんな相談受けたんすよ。慰謝料取って離婚すればいいと勧めたんですけどねぇ」
「お前、弁護士みたいやな」
と闇屋に言われて鳴宮は頭をかいた。
「女の執念ってまじ怖いっすね。少々の金では済ましたくないそうです。でもね、殺してやりたいとは思わないらしいです」
「生きて辛酸をなめろってか。確かに死んだらそれまでやしな」
「本当は依頼人も刺青を彫ってまで……って感じなんですけど、青女房がめっちゃ食いついてね」
と鳴宮は青女房を振り返った。
「うわ!!」
すぐ背後にはいつものように青女房がいるが、その両脇に鬼女紅葉と鬼子母神が興味津々で顔を並べている。
「え、姐さん方、何ですか」
(何ですか、やあれへん、あにさん、嫁さんを粗末にする男は許しまへんでぇ)
と鬼子母神が言った。
(そいつは面白そうな話だね)
と紅葉も言った。
(あにさん、紅葉姐さんにぴったりやと思わへんか? 姐さんの技は恐ろしいからなぁ)
と青女房も微笑みながらそう言った。
「確かに、鬼女紅葉なら男には恐ろしい結果や。鳴宮、依頼人にその気があるなら連れてくればええ。紅葉がやる気になってるから最高の復讐をしてくれるやろな。浮気男には効果あると思うで」
と闇屋が言った。
(あにさん、まずはあっちが裏を取ってくるさ。話の筋はどうでも気に入ったら暇つぶしにやってやろうじゃないか)
鬼女紅葉がグラスを置いてふわっと浮かび上がった。
(青女房、案内せえや)
(わかった、紅葉姐さん、こっちやで)
と青女房も鳴宮から離れた。
(面白そうやねえ、坊、見に行くかえ?)
(きゃっきゃ)
ふわりと消えていく紅葉と鬼子母神と青女房を見送って鳴宮は首をかしげた。
「さっきまで喧嘩してませんでした?」
「共通の敵が見つかるととたんに手を組むのが女や。あいつらを敵に回したらあかんで。格別やかましいからな」
と闇屋が苦笑しながら言った。
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