第42話 覚(サトリ)11

 数日後の真夜中。

(静かにしろよ)と言いながらこっそりと部屋の中を歩く三毛猫又の後を中型の目々連の目玉がぴょーんぴょーんとついて歩く。

 室内は真っ暗でほとんどの図柄も闇屋とともに眠っているか、その肌からそっと抜け出して台所にある酒をこっそりと舐めているかぐらいだ。

 その中を三毛猫又が抜き足差し足で横切って行く。

(いいか、一気に飛ぶからな、はぐれるなよ)

(ピー)

 と目玉が返事をしたところで、

「夜遊びか? 猫又」

 ドアの横に立っているのは颯鬼だった。

(あ、あ、颯鬼のだんな。へっへっへ)

 と三毛猫又はお愛想笑いをする。真っ暗な部屋だが、三毛猫又の目にも目玉にもはっきりと銀の颯鬼の姿が見える。

「ここに住む妖達を束ねる存在であるお前があれに黙って夜遊びか。感心しないぞ」

(いやぁねえ、いい場面が撮れたとこいつが言うもんで)

 と猫又は後ろ足で立って、腕組みをした。

(これは使わないともったいねえかな、と)

「いい場面?」

(ええ、まあ、おい、颯鬼の旦那に見せてみろ)

 と三毛猫又が言うので、目玉がぴょんと跳ねた。

 シュボッと目玉から気が発せられ、その気は真っ暗は部屋の壁に当たって、人影を映し出した。


「今何て言ったの?」

 と沙也佳が言った。それに対して男が、

「離婚すると言ったんだ。親切にも教えてくれた人がいるんだ。君が会社で後輩の婚約者を寝取ったってね。大恥をかいたよ。独身に戻って好きなだけ若い男と遊べばいいさ」

 といかにも軽蔑したような口調で言い放った。

「嘘よ! そんなの嘘!」

「青島君だっけ? 既婚者と知っての行為なんだから、慰謝料を請求してもいいんだけどね、勘弁してやるって言ったら、ぺらぺらしゃべってくれたよ。君との事。君もその後輩から慰謝料を請求されるかもしれないな。婚約者だったんだからね」

「嫌よ……嫌!! 違うの。違う、本気じゃなかった。愛してるのはあなただけなの」

 沙也佳が縋り付くが男はそれを振り払い部屋を出て行った。

 真っ青な顔になって沙也佳の身体が床に崩れ落ちた場面で映像は消えた。


(どうです? いい気味でしょ)

「なるほど、それを依頼人に見せてやるのか」

(ええまあアフターサービスの一環ってやつで)

 颯鬼はふっと笑って、

「まあ、いいだろう」

 と言った。

(そいじゃ、行ってきます!)

 三毛猫又と目玉の姿がシュッと消えたので、颯鬼は電気のスイッチを入れた。

 ぱっと部屋の電気がついた瞬間。

「なんやアフターサービスって、どいつもこいつも好き勝手しくさって」

 と声がして闇屋が顔を出した。

「猫だけに親人間派だな」

「夜中にごぞごぞするから目ぇ冷めたやんけ」

 ふあ~~~と闇屋は大きなあくびをした。

「一杯やるか」

「おごりやったらな。油断しとったらあいつらに全~部酒飲まれて空っぽや」

 と闇屋が言った。 

 どこから取り出したのか颯鬼がどんっと一升瓶を机の上に置いた瞬間、部屋中にざわざわと図柄達が姿を現した。

(宴会でっか、颯鬼のだんなぁ)

(こりゃあ、ご相伴に預からなならんな~~)

(誰かあにさんとだんなにコップ持ってこいや)

 とざわざわと騒がしい。

「ケ」

 と言ってから闇屋はドスンとソファに座った。

 颯鬼も向かいに腰をかける。

 色っぽい鬼子母神や小袖の手がいそいそと現れて、闇屋と颯鬼に酌をした。

「まあ、乾杯や」

 チンとグラスを重ねて妖達の宴会が始まった。

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