第12話 目々連 2
「なるほどお前はホストって奴か。知ってるぞ、人間の女を騙すやつだな」
と颯鬼が言った。
ビールの三リットル缶を普通に持ち上げ、ぐびぐびと飲んでから颯鬼は陽気に鳴宮に話しかけた。
「今はやってないんすけどね。昔はまあ、ナンバーワンとか? そういう感じで」
へへへと鳴宮が笑った。
「俺の知り合いにもいるぞ、人間界でホストをやってる妖がな」
「え、まじっすか? ホストはね~酒と煙草ですぐに身体壊すんですよ。毎晩毎晩、飲んでは吐いての繰り返しでね~~」
鳴宮はすでに酔っ払っている。
テーブルを挟んで闇屋、颯鬼、鳴宮が酒盛りをしているが、空になった三リットル缶や一升瓶がごろごろ転がっている。
(ば、化け物だ……)
鬼だから当たり前だが、大量の酒を水のように、いや、水でもあれだけ飲んだら逆流してくるだろうと思うのだ。
闇屋は無言で酒盛りにつきあっているが、それでも相当飲んでいるに違いないだろうに顔色は全く変わらない。
その酒盛りのそばでは闇屋の肌から抜け出した妖達がお相伴に預かっている。
鬼子母神と青女房を両隣に座らせて颯鬼はご機嫌だ。
颯鬼のご機嫌を損ねないよに酒盛りにつきあってはいる鳴宮は生まれて初めてこんなに飲んだような気がしていた。ホスト時代でもこんなに飲まされた事はない。
颯鬼が酒をグラスに注ぐ度に(断ったら頭から喰われるんだろうか)と思いながら飲み干した。
深夜、鳴宮は床の上に潰れて意識なく眠っている。
長椅子の上で横になっている闇屋の左腕がだらんと床に落ちた瞬間、手の甲からころころっと目々連の中で一番小さい目玉が転げ落ちた。
ぱちっと目を開いた目々連の末っ子は周囲を見渡した。
自分が仲間から離れてしまったのを知った末っ子は「ピューピュー」と言いながらジャンプするが、すぐ目の前にある闇屋の左手に戻る事が出来ない。仲間の目玉達も酔いつぶれて誰も末っ子の遭難に気がつかない。
皆が酔いつぶれて寝静まった様子を小鬼が扉の影からそっと見つめている。
「だいじょうぶ?」
「うんうん、寝たよ、大丈夫!!」
小鬼達達は物音を立てないようにそっと移動した。
いつもならば闇屋の施術中や食事中のざわざわした時間にそっと建物を出て、美味しい物を探しに行くのだが、今日は運悪く鬼が来た。恐ろしい鬼に食べられないように建物のずっと奥で隠れていたのだが、美味しい物を探しに行くという欲求には逆らえず、皆が酔いつぶれてしまった深夜に行動を開始した。
「あー怖かったねえ、あの銀鬼様」
「うんうん、食べられるかと思ったよ」
「美味しい物みつかるかな-」
「お腹空いたねぇ」
「うん? なんだかこっちの方でいい匂いがする」
「本当? 行こう行こう!」
小鬼達は夜の闇に紛れて走り出した。
「ピュ?」
小鬼達がそっと部屋から抜け出すのに気がついた目々連の末っ子は、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら小鬼達の後を追った。
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