孤児院の少女

第21話 世界が伏した日

 身支度を終えジルニルとリーエルに透明化の魔法を掛ける、常に念話で話ができる様にしたしそもそもグレースは透明化を見抜けるので普段と大差はない

 最初に行くのはシーラとキーラ、それにエミールと透明化させたジルニルとリエルの計6人だ

 5人を連れ先に現世に戻る、ゼルセラ達にしばしの別れを告げ、グレースは転移門ゲートを開いた


 転移門ゲートを抜けた先は大きめの広場のような所だ周囲には木々が生い茂っており空気もとても澄んでいる

 まずは透明なパイプオルガンを作り出し邪魔にならない所に配置した

 構造は詳しく知らないのでシーラに教えて貰いながら作ったがかなりのサイズになってしまった

 パイプオルガンは一つのパイプから一つの音色しか出す事が出来ないので、かなり巨大なサイズになってしまうさらにトランペット系の音色、フルート系の音色の3つの音色を用意するとさらに量が増えてしまう

 今回用意したのは61鍵、用意したパイプは183本、パイプ達はもはや壁のようでありその大きさは10メートル程もある

 ジルニルとリーエルは座席につきグレースのほうを向きコクリと頷いた

 きっと彼女たちに任せておけば大丈夫だろう、二人に任せたが...二人も必要なのか?という素朴な疑問が脳内に浮かぶが瞬時に掻き消す、自分が出来るならまだしもオルガンなんて弾けないし


 そろそろ頃合いかと思い念話メッセージでロキ達に連絡を取る、するとすぐに反応が返ってきた、ロキの要求に従いロキ達の周囲にいる生物を転移門ゲートを利用し移動させた


 ロキ、フレイヤ、アポロンと共に様々な種族が出現した


「おぉこれだけ揃うと圧巻だな」


「全部兄様の部下さんなんだよね...」



 キーラは瞠目したまま口をぽっかりと開けていた

 正直数えるのがめんどくさい程いる、とりあえず、ロキ達を集め代表者を連れて来る様に伝える


 少しすると代表者が3人ほど出てきた


「おまたせ、マスター、じゃあ僕の子から紹介するね」


 姿を見せたのは9本の尾を持つ狐のような姿をした獣人の綺麗なおば...お姉さんの様な人だ、和服を着ており金髪と少し違和感があるような気もするがこれはこれでありだと思う

 恐らく妖狐と言われる種族だろう



「お初にお目にかかります、覇王様、妾はメノウ・イシュラム・ビャクバウと申します」


「あぁメノウでいいか?よろしく頼む」




 メノウは深くお辞儀をしロキの方に視線を送る




「いちよ僕の眷属だよ、獣人の子達は魔族との戦いで数が減っちゃててね、ここに居る子達が全部なんだよね...」


「争いもなくなり徐々に増えてきているって感じか」


「うん、僕も仕事があるからずっとは見てあげられなくて、だからこの子達の事頼むよ」




 獣人達はかわいい子が多いのでもちろん大切にする、まぁこっちの世界に来たからぶっちゃけ心配はないだろうが用心に越した事は無い、安全な居場所にしてあげよう



 そして次に自信満々にアポロンが紹介を始めた

 紹介されたのは大きな体躯をした狼、力は徐々に衰えてきてはいるが王のような貫禄を放っている




「主よ、お近づきになれて光栄です某はセイトラス・オルフ、餓狼達の族長をしています、オルフとでもお呼びください」



「わかったオルフだな、覚えておこう、ただ、フェンリルに似てる気がするが、知り合いか?」



 狼なんだからみんな似たような顔だろうと思うかもしれないがこの体格に瞳の色牙の長さが他とは異なりフェンリルの特徴と一致している



「なんと!主は某の兄上をご存知なのですか?」



 知ってるというか、フェンリルはルノアールが倒し使い魔として飼育している、なので時々見たことがあったのだ、正直兄のフェンリルとそっくりだ



「時間がある時にでも俺の配下に言って会わせて貰うといい」



 謝罪し姿勢を低くして忠誠の姿勢を見せてくれた


 フレイヤに視線を送るとフレイヤは別のエルフに目配せをした



「お久しぶりです、覇王様」


「チェルか、そっちも元気そうじゃないか、あの時とはお互い立場が変わったけどな」


「私は村長に、グレースは王に...あ、呼び捨ては失礼ですね覇王様」




 チェルディス・ウッティン金色のエルフ戦士といわれており金色の髪を靡かせながら魔族と戦う姿を称された結果だ、その功績もあり村長になったんだろう


「別に中身が変わった訳じゃない、今まで通りで大丈夫だ」


「ご謙遜を...口調も雰囲気も王らしくて素晴らしいと思いますよ、それと、エルフ族の事...よろしくお願いいします」


 深々と頭を下げる、この忠義に報いるためにもエルフの子達はしっかりと守ってやろう。部族を守り抜いたこの子の為にも



 さてと、そろそろフリューゲル達を召喚しようか、正直わくわくする、我慢もできず白い歯を見せてしまう

 念話メッセージを飛ばす、どうやら準備はできてるようだ、ちらりとリーエルの方を見るとコクリと頷く、みんなの準備出来たみたいなので早速転移門ゲートを使って呼ぶことにする




転移門ゲート


 転移門ゲートが開いた瞬間世界は常闇に包まれた月も見えず星すらも無い夜空とも呼べない真っ暗な空に赤く光る月に似た大きな球体が夜空に浮かび

世界を赤く染め上げた

 重々しいオルガンの演奏が響き渡り、わずかに空気が重くなる、やがて霧がかかり雲一つない夜空から雷鳴が響き渡る

 雷鳴は徐々に激しさを増し、それに伴い演奏も激しくなっていく、月と重なるように翼を広げた人影が月に映る、やがて人影の目の辺りから赤い点が2つ、赤い点は光力をさらに増す

 すると空気がさらに重くなり常人では立っていられない程の重圧が上から押さえつけられる、フレイヤ、アポロン、ロキだけが膝をついてしまっている

 やがて演奏と雷鳴がピークに達したとき巨大な落雷が大地に突き刺さる、けたたましい音を立てながら大地が踊りだす

 落雷の残光が消えた場所には天使のような形を模した『死』が姿をあらわにしていた。


              !!!拍手!!!



 素晴らしい、かなり興奮した、興奮のあまり手をたたいてしまった程だ、最初に拍手をしている者は俺とシーラとキーラだけだったがその拍手は徐々に増えていきやがては大喝采となった


 拍手を止めるように指示を出す、すると即座に拍手は止まりやがて霧は晴れ空にはいつものように太陽が光輝いていた




「素晴らしい、とても興奮させてもらった、流石は俺の信頼厚い部下達だ」


「お褒めに預かり光栄の極みでありますご主人様」


「それにお前たちもな」


「はい!精一杯やらせていただきました!」



 透明化させておいた二人、リーエルとジルニルの透明化を解除する、この二人もかなり頑張っていた、改めてBGMの大切さを学べたいい機会だった




「二人とも最高の出来だったぞ!あの演奏無しではあの迫力を出すことは不可能だっただろう」


『ありがとうございます』




 さてと、神たち3人の感想も聞かないとな、圧を全力で掛けるように指示しといたし、かなりびっくりしてくれただろうか




「さて3人とも、感想を聞かせてもらおう」



 3人は息を切らし地面にへたり込んでいた、3人の手には武器が握られており、きっと命の危機を感じて咄嗟に体が動いてしまったのだろう




「死んだと思いました...」


「マスターの事だから大丈夫だろうと思っては居たけどあの圧力ゼルセラ様でしょ...今でも僕のトラウマだよ~次からはやめてほしいなぁ」


「ロキのトラウマか...いつの間にかロキのトラウマになっていたとは、面白いこともあるもんだ」


「トラウマどころじゃないよ、僕たちの同僚の神達はゼルセラ様に何人殺されたと思ってるのさ~雑兵のように殺されていく同僚たちの声が今でも脳に焼き付いているよ~」


「確かにそれはトラウマになっても仕方ないな、さてと」



 気を取り直して伝えなければならない事を皆に伝える




「これからここの森一帯に城と皆が住む住居を建設することになる、俺は用事があるから席を空けるが、ゼルセラとシーラの指示に従ってくれ、練成や建築系スキルを持つ者は建設に協力してくれ、大まかな指示はシーラとゼルセラが出すが、細かな指示は神達を通して行ってくれ」


「かしこまりました」


「住居はなるべく要望に応えてやれ、飲食店や工房なんかも今後必要になってくるはずだからな、せっかく住むんだいい場所にしよう、細かいことは二人に任せる、頼んだぞ」


『かしこまりました』


「キーラは俺と来るんだ、それとエミィは一度王女のもとに戻ってやるといい」


「わーい兄様とデートだぁ‼」


「えぇわかったわ、でも一つお願いがあるの」


「お願い?叶えられるものなら叶えるが」


「私強くなりたいの、グレースの元に来て強く感じた...今の私じゃなんの力にもなれない、ただ足を引っ張るだけだって...」


「そんなこと...」


「ないって言ってくれるんでしょ? わかってる。でも私がみんなに比べて弱いって事は自分でもわかってる...でも...一人でこれ以上強くなれる気がしないの...だから...」




 目を伏せ心苦しそうに話す、エミールの力になりたい、そんな顔されたら断れないだろ...まったく




「顔を上げろ、ならチェイニーから学ぶといい、彼女は戦闘に長けた女神、ヴァルキリーとアテナを倒しそれに纏わるスキルを所持している、きっといい師匠になるだろう」


「ありがとうグレース、この恩はいつかきっと返すから」


「そうだな、強くなってから俺を楽しませてくれる事を期待しているぞ、チェイ、エミールの事頼んだぞ」


「お任せください、職業の目標はどういたしますか」


「あぁ天騎士...この際だ、最上位の円卓の神騎士にまでさせられるか?」


「かしこまりました、善処します」


「チェイニーさん、これからよろしくお願いします」


「はい、頑張ってご主人様の期待に応えましょう」



 伝えるべきことは伝えたので、その場をシーラ達に任せ次の目的地に向かう




「キーラ、行くぞ、それと今日の当番はいるか」


「ご主人様、ここに」



 呼ぶと瞬時に後ろに移動してきてくれた、今日の当番はマキルミール、大天使階級のひとりである



「マキお前も付いてくるんだ、王都にある用事を済ませに行くぞ」


「かしこまりました」


「わーい‼兄様どこに連れてってくれるの?」


「そうだな、王女と歴代最強といわれてる勇者のところあとは軽くキーラに町を案内しようと思ってな」


「ありがとう兄様‼私お腹すいちゃったから何か食べたいと思っていた所なの」


「それとマキ、王都で俺やキーラに対して何か合ったとしても何もするな、いいな」


「それは敵対行動をとってもでしょうか?」


「そうだ、もし何かあれば俺の方で対処する」


「かしこまりました」



 さて行こう、キーラの腹ごしらえをしたらまずは王女の所だな




 この日ゼルセラの重圧のせいで世界中の人間が膝をついたそして昼間にも関わらず夜になり天が乱れたことから人々の間では超魔王が降臨したと言う噂でもちきりだった

そしてこの日の事はこう呼ばれるようになる【世界が伏した日】...と

 


そして覇王の領地の住宅街やら城が完成したのはグレースが王都に向かった数分後の出来事だった

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