第22話 孤児院の少女

  王国は基本賑わっている、広場には多くの人で溢れかえっており、人間以外の種族の姿もある

 グレース達は広場の飲食ができる店を見て回った、

 どこからもいい匂いがするがキーラがお気に召すものは無いらしい

 金はあるので好きな物を食べさせてやるとは言ったもののここまで見つからないとは思いもよらなかった



「そろそろ決めたらどうだ、良くも悪くも俺達は目立つからな」



 キーラは周りと比べてしまうと圧倒的に美少女だ、たとえ群衆の中にまぎれていたとしてもその輝きがくすむ事は無い

 それに天使と美男子を連れているんだかなり目立つ。美男子とは俺の事だ、前世の俺はお世辞にも褒められたもんじゃない、モテたくて筋トレとしてたからガタイはよかったが結果は見ての通りだ

 それに比べ今の体は美男子そのものだ、町を歩けば誰もが振り返る、今の俺に落とせない女は居ない、ほんとによかったよ見た目も変えて貰えて....いや、ほんとに....


 町をきょろきょろ見渡しながら歩くキーラはやがて見るからに悪事に手を染めてそうな男たちにぶつかってしまう



「おじょーちゃんどこ見て歩いてんの?」


「ちょっと、さわらないで!」


「おとなしくしろガキがっ‼」



 後ろに控えているマキの殺気がどんどん強くなっていくそれを軽く宥め男とキーラの間に割って入る



「なんだお前!?部外者は引っ込んでろ!」


「汚い手で俺の妹に触るな」


「調子に乗るんじゃねぇ‼‼」


「汚い目で俺の妹見るのならその目、もう二度と見えなくしてやろう」




 突如、男は体制を崩したかのようにわたわたとする





「カシラ‼どうしたんですか!」


「み、みえん‼何も!」


「もう見る必要もないだろう、最後に美しいものを見れたのだからな」


「お前いったいカシラに何をした‼」


「目を見えなくさせただけだ、いちいち騒ぐな」



 リーダーの男は視力を失った。痛みはないただ視力を奪っただけだ

 騒ぎは次第に大きくなり周囲には野次馬が集まっていた、正直見られる事に恥じらいは無い自分の圧倒的強さを見せびらかせるチャンスなのだから



「わぁぁぁ!!俺の目が....」


「煩わしい、そんなに騒ぐならもう消えてくれ」



 リーダの男は忽然と姿を消した、その代わりに男が居た所には男が着ていた衣服の上に砂が積もっているだけだった

 男を砂にしたのはもちろん俺だ、かなり前から人を殺すことになんの感情も抱かなくなっていた、正直自分で自分が恐ろしく感じるが今は俺かっこよくね?精神が勝っていた

 今起きた現象に周りの野次馬達からどよめきが上がる


「ただの悪漢にする仕打ちにしてはやりすぎ」だとか聞こえるが正当防衛だろ?何が悪い




 男の配下は膝から崩れ落ち涙を流していた、ただの砂を大切そうに集める




「カシラ....カシラァァ!!」


「安心しろお前もあいつのもとに送ってやる」



 膝をつきなくずれている男の顔面を鷲掴みにし上まで上げる、男は抵抗もせずにただ力なく垂れ下がっていた



「殺せ....もう殺して...くれ...」


「なら望み通りそうしてやろう...」


「待て!!!貴様何をしている!!」




 野次馬の群れから青年のような平凡な男が現れる、ひどく激情に駆られているみたいだが、なぜだろう?知り合いだったのか?



「自分が何をしてるのかわかっているのかっ!!」


「なんだ、お前の知り合いだったか?最後のあいさつの時間くらいはくれてやろう」


「違う!その男と知り合いではない!ただ同じ人間として心が傷まないのか‼」



 さっきからこの男は何を言ってるんだ、知り合いでもないのにこの悪党を助けに来たのか?それにこの男弱い...弱いなんてレベルじゃないぞ...よくこの正義感で生きてこれたな



「人間風情に大した思い入れはない、さっさと滅びれば世界は平和になると思っているくらいだ」


「その発言!人類に対しての敵対行為か!!」


「人間が獣人や亜人の子達に何をしてきたか知っているか?この国にしてもそうだ、王女は公の場では奴隷売買は禁止と言ってるが裏で貴族やらが取引をしている」


「なんだと!!この国でそんな事あるはずが...」


「現実だ受け入れろ、そんな胸糞悪い連中いくら滅んでもらっても構わない」



 正直人間という種族に親近感は無い、特に貴族



「そんな...この国は...」


「それと俺に意見したいならせめてもう少し強くなってからものを言え、話にならん」



 掴んでいた男を適当に地面に捨ててその場を去り王城に向かう



 途中、人混みでいかにも貧困そうで薄汚れている子供にぶつかられた。子供は軽く謝ると狭い路地の方に走っていってしまった


「ご主人様、よろしかったので?」


「あぁあの子くらいの子がスリをするなんて相当な事情なんだろ、せめてあの金でいいものでも食べてほしいが」



 ぶつかったとき女の子は俺の懐に手を伸ばしてきた、正攻法では俺から物を盗む事は出来ないスキル修羅の威厳の効果が発動している以上盗賊スキルで俺からアイテムや装備品を奪うことは出来ない

 なので、子供の目には捉えられない速度で金を持たせてあげた、子供からしたらすりが成功したように見えているはずだ



「兄様どれくらい渡したの?」


「この国でなら一生遊べるくらいの金額だな」


「ご主人様...それは渡し過ぎではないでしょうか?」


「そうか?俺自体は金使わないからな、それにいくらでも生み出せるしな」


「ご主人様、それですと帰るまでに誰かに襲われてしまうのではないでしょうか」



 確かに、あんな見た目の子が袋持ってコソコソしてたら襲われるかもしれない少し様子を見に行ってみようか何に使うかも気になるしちょっと見に行ってみよう



「仕方ない、少し見に行くか」


「かしこまりました」



―――――――――――――――――――――――――――――――

 視点変更




 王国の広場でお金を持ってそうな人を探す、なんの騒ぎか知らないが人が沢山集まってるのでそこを狙う


 ミーシャ・ストロニアは孤児院育ちの少女だ、インデュランス帝国との戦争のせいでたくさんの孤児が施設に新しく入ってきた、

 そのため、国からの支援金も足りなくなり全員が極貧生活を送っていた食べ物は時々お店からあまりものを貰える、それも量が知れており全員のお腹を満たすことはできない

 世話をしてくれているシスター達も食料を調達しに色々なお店に頼み込んでいた。でも最近は成果を中々上げられず何日も食べ物を食べれずに過ごした。

 戦争で孤児が増える前は施設に二人しかいなかった。国からの支援金で十分に生活ができあの頃はシスター達もそして私達もいつも笑顔でいられた。


「マーシャ...」


 マーシャ・ストロニア、ミーシャの妹で一緒に孤児院に入った、最初はシスター達との心の距離が開いていたため中々打ち解けれずにいた、それでも、姉の私にだけは心を開いてくれており私を通して徐々に心を開いていった

 そんな妹は優しい性格だった。極わずかな食料さえも新しく入って来た子供達に分けていた。そのせいで....

 マーシャ・ストロニアは息を引き取った。案の定栄養失調だった


 妹はみんなの事が好きだった。


 でも私はそんなみんなの事が嫌いだった。


 でもみんなは私を頼ってくれた。正直複雑な気持ちだ、妹が寝る前に言っていたこと「私は、ここの子達のことが大好き、だからお姉ちゃんも守ってあげて」その言葉を言い眠りについた。

 私はその言葉が最後になるなんて思わなかった。


 朝目覚めると隣でマーシャは冷たくなっていた、マーシャの遺体はシスター達と3人で静かに葬った

 私は今でも孤児院の子達が許せないそれでも妹の最後の言葉が忘れられない、妹が守った孤児院の子達を今度は私が守らないといけない


 妹、マーシャ・ストロニアの為にも...



 ミーシャが広場でお金を持ってそうな獲物を探していると、いかにも持ってそうな男が歩いていた、不自然な動きをしないように歩き、ぶつかったタイミングで男の懐に手を伸ばし金が入っているであろう袋を取り狭い路地に向かった


 成功だ、男から盗んだ物の中身を確認するとまばゆい程のお金が入っていた、銅貨でも銀貨でも金貨でもないがきっと高価なものだろう、シスターに渡せばきっとみんなお腹いっぱい食べれるはず


 きっと


 裏路地を全力で走り抜ける、あともう少しで孤児院に着くといった所で何者かに腕を掴まれる



「前はよくも俺たちの金盗んでくれたなぁ、そんなに急いで今度は何を盗んできたんだ?」



 数日前に盗みを働いた男たちに待ち伏せされていた、体を押さえられ持っていた袋をとられてしまう



「兄貴‼見てくだせぇこれ」



 リーダーらしき男に何食わぬ顔で手下が出したものを見るとリーダの男は目を驚愕させ輝きを見せる




「こりゃあ大金貨じゃねぇか‼‼1枚で金貨100枚分の価値がある...それがこんなに、なんでこんなガキが持ってるかは知らねぇが俺達これがあれば一生あそんで暮らせるぜ!!」



「やりましたね!兄貴‼」


「返せ!それは私のっ‼‼」




 全力で暴れてみるが大人の男に力で勝てるはずもなかった




「大声だすぞ!そしたらあんたらなんて...」


「うるせぇ‼‼」




 乾いた音が路地に響き一瞬視界が大きく歪み頬を掴まれる




「むかつくガキだが顔は中々上玉じゃねぇか、それにこんな大金もらったんだせめていい貴族のとこに売り飛ばしてやるよ!せいぜいお前も気持ちよくしてもらうんだな。連れてけ!」



 徐々に意識が遠くなっていく最中男の声が聞こえた気がした


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 視点変更



 走っていく子供を追いかけ屋根伝いに裏路地を見下ろしていると案の定男たちに捕まっていた



「どうなさいますか?私が掃討してきましょうか」


「いや俺が行こう、それにしても意外と美少女だな、磨けば光るかもしれん、いいことを思いついたぞ」



 薄ら笑いを浮かべてしまう、だがそれは助けた後だな、あの子に置かれている状況も知りたい、男たちに気付かれないようにそっと地面に降り立つ


 かっこよく声を掛けようとした瞬間乾いた音が響く


 聞こえた音は恐らく平手打ちの音だろう、女の子は力が抜けるように倒れこむ


 一瞬我を忘れそうになるが女の子はまだ生きているようなのでどうにか怒りを押さえつける



「お前たちはもう2度と転生しなくていい消えろ」



 消滅の魔法をかける、これでこの男たちはもう2度と生まれ変わることは無い、魂その物を消滅させたのだ



「大丈夫か?」



 回復魔法を女の子にかけると徐々に瞳が開かれる、やっぱりこの子磨けば光るダイヤの原石だぞ、汚れてしまっているが透き通るような白い肌にブロンドの髪それに綺麗な碧眼を持っている



「どうやら大丈夫そうだな、他に傷むところは無いか?」



 おどおどした声で女の子は口を開いた



「はい、大丈夫...です、でも、どうしてです...か?」


「何故盗人を助けたか?か?」


「はい、私は、その、あなたから...」


「構わん、それにあの金はお前にあげた金だちゃんと家に持って帰れるか心配だったから付けてきたんだ」


「ごめんなさい...お金盗んだのに命まで助けていただいて...」




 地面に頭をつけ涙をながしながら謝罪をされてしまった、心が痛い、泣いてる女の子を見るの辛いんだ、笑ってくれよ



「顔を上げろ、せっかくのきれいな顔が台無しだぞもっと笑ったらどうだ?」


「ごめんなさい...ここまでして貰ったのに私...何もお返しをすることが出来なくて...」




 ふむ、と顎に手をあて考える、よし決めた



「なら少し協力してもらえるか?」


「私に出来る事なら何でも!」


「なんでもか...ならちょっとそこに立っててくれ」




 女の子は立ち上がり壁を背にして正面を向いた


変更エディット


 女の子の体が光を放ち光が収まった頃、女の子は先程とは全く別の服を着ていた

 綺麗なブロンドヘアにはきれいな花飾りがついており服はみすぼらしい服から打って変わってフリルが沢山ついているドレスを身に纏っていた。


 女の子は目を見開き自分が着ている服に興味深々なようだ


「こ、これは...‼」


「やはり磨けば光ると思っていたがこれは中々!どうだキーラ」


「かわいい!まるで童話に出てくるようなお姫様みたい!」




 キーラとグレースは女の子の気も知らずジロジロと見てしまい、みるみる内に顔が赤く染め上げられていく



「ご主人様、この子が恥ずかしがっていますよ」


「あぁすまんすまん」




 女の子の服を先ほど来ていた物に戻す、女の子も綺麗な服からいつもの服に戻りあからさまにがっかりしてる




「どうだ、お前さえよければ、俺の元で修業しないか?お前も強くなりたいだろう、自分を守るためにも」


「なりたい...でも私でいいんですか?」


「一度、金をもって家に帰るといい、また迎えに行く」


「ほんとにもらっていいんですか、大金貨をこんなに....さっきの人達は金貨100枚分だって言ってました....こんな大金」


「構わん、優秀な子を引き抜こうとしてるんだお釣りがくるくらいだ」


「ありがとうございます、あの...お名前は...」


「そういえば名乗ってなかったな、俺はグレーステ・シュテルケでこっちが俺の妹の」


「キーラ・シュテルケだよ、これからよろしくね!」


「私の名前はミーシャ・ストロニアって言います!よろしくお願いします」



 自己紹介が済んだ、マキが自己紹介しなかった事にミーシャは不思議になり頭を傾げるがグレース達は特に気にしていない様子だった



「それじゃあしばしの別れだ」



 キーラは大きく手を振りミーシャを見送った


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