第2章 修羅

第8話 グレースの人工知能

グレーステ・シュテルケは今、修羅の世界に来ていた。


ここに来た理由は自分の人工知能であるシーラを見つけ出し救い出すため。グレースにとってはシーラは知能というより妹のような存在だった。


だが修羅の世界で生命反応のないシーラを探すのは簡単なことではなかった。

空間支配グラスを最大限に発動させこの星そのものを支配できればシーラを探すことはポケットを探ることと変わりはないからだ。

グレースは意識を集中させスキルを発動した


空間支配グラス!!!」


そして星の生命体や地形が徐々にわかるようになっていた。







グレースの人工知能であるシーラは今魔獣が無限にわいて出るという一種のレベル上げポイントで殺戮を繰り返していた。



降り続く雨の中何の変哲も無い剣を持ち魔物と対峙している




「命は儚い...マスター私は貴方のもとにずっと居たかった、ともに歩んでいきたかった。マスターは私の声を覚えていますか、初めて私を呼ぶあなたの声を私は今でも...覚えて...申し訳ありません....マスター私はこんなにも汚れてしまいました。私はこの手で幾つもの命を奪いました。私のこの声は叫びすぎてあの頃のような声は出ないかもしれません。」


1人ごとを言いながらも出続ける魔物を斬り倒していった。荒々しく息を上げる赤目の魔獣でさえもすぐにものを言わぬただの肉塊になっていった。


「問い、私もう必要ないのでしょうか....」


「問い、人工知能でありながらこの感情を抱く私は不良品なのでしょうか...」


「問い、マスターもいつかは目を開けることがなくなってしまうのでしょうか...」


「問い、私はもうマスターを感じ取ることができません、マスターはどこにいるのでしょうか...」


「問い、私の変える場所はもうないのでしょうか...」


「問い、私はもう...必要...無いのでしょうか...」




シーラは攻撃をやめ膝をつき剣を手放した。そして光を失った瞳をゆっくりと閉じた




「懇願、もう一度、私の頭を...なでてください...」




魔物たちがその隙を見逃すはずもなく一斉にシーラに飛び掛かった。





「解答、お前は必要な存在だ、だからこうして迎えに来た。」


「解答、お前は不良品なんかじゃない、俺の最高の相棒じゃないか」


「解答、俺はもう死なない、俺たちからはもう何も失わせやしない」


「解答、俺はここにいる、俺のことが感じられないのならもう俺から離れないでくれ...」


「解答、お前は必要だ、ほかの誰かがいらないといっても俺にはお前が必要なんだ」



シーラに飛び掛かった魔物たちを一掃したのはシーラのマスターであるグレースだった。



シーラは泣いた。まるで子供の様に。この会話の仕方はかつてシーラが会話で使用していた方法であり、シーラにとってもグレースにとっても特別な話し方なのである。




湧き出る魔物を拳一つでなぎ倒していく。殴られた魔獣は種族を問わず一撃で破裂していった。




グレースはあたりの魔獣を一掃したあと自身の周辺に障壁を発動した。




そしてグレースはシーラのもとまで歩みより頭をなでた。





「解答、一度だけなんて言うな、何度だってなでてやる、何度だってお前を褒めてやる、シーラ...」



「マスター...マスタァァァ....!!」





シーラはグレースに抱きつきそして泣きじゃくった、人工知能とは思えないほど無邪気に泣きついた。




「謝罪、迎えに来るのが遅くなってごめんな」


「返答、そんなことは...ありません...ありがとうございます...」


「さて、帰るかシーラ」


「はい、マスター、どこまでもお供します」



帰り道シーラを一度グレースの中に戻し記憶領域の共同化をしシンクロ状態に移行した。

シンクロ状態になると脳内の考えが共通化し会話が可能になる。本来は人工知能スキルが肉体を持ち自立することが無いのでシンクロ状態にする必要はない。


グレースは自分の屋敷に帰り眠りについた。



翌朝、グレースが目を覚ますとドアの前で驚いた状態でフリーズしているエミールが立っていた。



「何してるんだこいつは....シーラ俺が寝ている間に何か起きたのか?」



「すべてを説明するには30分ほど時間を戻さないとですね」




シーラは起こったことをグレースに説明した。





朝、目を覚ましたエミールはベットから起き上がり軽くストレッチをしてカーテンを開け外を見た、すると目の前には平らな草原ときれいな空があった。その時エミールはグレースの亜空間にいることを思い出した。




「こんなに広い草原に屋敷一つってどうゆう作りしてるのよこの空間は...」



エミールは気を引き締めるために頬を叩くと台所に立ち朝ご飯を準備し始めた。


料理をし始めて少しした後フレイヤが起きてきた。




「おはようございます、朝からお疲れ様です。」



「おはようフレイヤさん、朝食ならすこし待ってね、もうちょっとかかりそうだから」




朝食の支度を一人でしようとしているエミールの横にフレイヤはエプロンを付けて立っていた



「私も手伝いましょう、こう見えても料理は得意なんですよ」



「フレイヤさんがエプロンを付けている...女神様のエプロン姿ってレアですよね....」



朝食の準備をエミールとフレイヤで行った。


「一つ思ったのですがエミールさんはどうして食材や食器の位置がわかるのですか?」


「う~ん、なんとなくここにあるのかなってとこにあるの、私の理想の台所って感じなの」


「エミィさんと思考回路が近いようですね、まぁ私はそのエミィさんから料理を教わったんですけどね...」


「エミィさんって戦闘以外に料理もできるなんて...そうだよねあのグレースと何年も冒険したんだもんね」


「そういえば、そろそろマスターを起こさないといけませんね。火元は私が見とくので起こしてきてもらえませんか」


「え?私が行くの...いいわ昨日は起こせなかったけど今日こそは叩き起こしてやるわ!」


「乱暴はいけませんよ?」


「わ、わかってるって」


タジタジしながらもエミールはグレース寝室に向かった。

一呼吸置き慎重にドアをノックする。



....コン、コン...


返事は無い、グレースが寝ているのなら返事が来るはずもない。


恐る恐るドアを開けグレースの寝ているベットに視線を向ける。



そこにはグレースの隣で眠る少女がいた、一見兄妹のように見えるほど似ている。

エミールが部屋に入りベットに近付くと少女の目がカッ!と見開かれた。




「おはようございますエミールさん....」




「ちょっとなんであんたが泣いてるのよ泣きたいのは...私のほうなんだけど...」




「これは悲しみの涙ではありません。あくびの時にでるあれです」




「あれって言われても....それであなたはここで何をしてるの?」




「おかしいですね....マスターから私のことは話されてると思うのですが...」



「もしかしてあなたがグレースの人工知能のシーラちゃん?」



「ようやく気付いていただけたのですね。記憶領域にも異常なしっと」



「それで...グレースとシーラちゃんはそうゆう関係なの?」



「そうゆう関係といわれてもよくわかりませんが、私はマスターのスキルですよ?たとえマスターと行為に及んだとしても、それはマスターの自慰行為に過ぎません」



「そうゆう問題じゃ...」



「要件も済んだということで私はスリーブモードに移行します」



シーラはそういうと寝ているグレースに抱き着いてスリーブモードに移行した。



「こんなに大胆に抱き着かれてしまうと少し妬けてしまいますね。ね、エミールさん?」


「・・・・・・」


「エミールさん?」


「き、気絶してる...どうやらショックがおおきすぎたみたいですね....それにしても立ったまま気絶なんて器用なことしますね....」






「―――というわけです」


「なるほどな、なら朝食を食べるとするか。」


「はい、マスター、ご飯なんて久しぶりです」



今日みんなで食べた(エミール以外)朝食は食パンに目玉焼きを乗せマヨネーズをかけたもの、朝食としては最高の逸品である。食べやすくおいしく片付けも楽だからである。



「ふぁ~マスターおはよー、お?シーラちゃんじゃんマスターが昨日いなかったのは向かにいってたのかぁ」



「おはようございますアポロン様。はい無事マスターのもとに戻ってこれました。」





起きてきたのはアポロンだった。




「相変わらずロキはお仕事か...それで今日は依頼をこなすんだよね?」



「あぁそうだ、納品素材の準備はシーラに任せる」



話をしているとエミールが意識を取り戻した。ベットにグレースがいないのに気づき食卓のある部屋に向かって走ってくる音が聞こえてきた。



「放置しなくてもいいじゃない!!」



「いや、どうすればいいかわからなかったからな、それにエミール、今日は依頼をこなしに行くんだから早く支度するんだ」



「はいはいおおせのままに、もうあんたに怒っても意味がないような気がするわ」



グレース達は軽く身支度をして冒険者組合に向かった。

同行しているのはフレイヤにアポロンそれにエミールだ、シーラはお留守番だとゆうよりシーラはグレースの人工知能なので離れていても会話はできるし思念でフレイヤ達とも会話ができる。



「ねぇ、依頼は受けたのにどうして冒険者組合に行くの?」



「いや今から行うのは納品だ、そのためにシーラに錬成を頼んである」



「頼むって...採取とか採掘とかしに行くんじゃないの?」



「どこでとか言われてないし俺には錬金スキルがあるからな、採取依頼はお手のものだよ」



「それ反則でしょ、お金とかも連星できるなら依頼こなす必要ないじゃない」



「さすがにそんなことするつもりはないぞ、RPGの醍醐味じゃないか」



「RPG?その言葉の意味がよくわからないけどやらないならいいわ」



そんなことを話しているうちに冒険者組合に到着した。

いつものように騒がしい冒険者たちをよけて受付に向かった。



「あ!グレースさん、納品依頼の進捗はどうですか?さすがにあの量の依頼は時間かかっちゃいますよね、提案というのもあれですがほかの冒険者さんと協力しますか?」



「いや今日はその納品依頼を完遂させる為に来たんだ。横の納品所に納品んは済ませてある、確認を頼みたい」



受付のロザーリさんが目を点しながら呆然としている。


「あの数の依頼を数日でこなすなんて....納品数が1000以上はあったはずですよ...」



「数は多いがレアな素材はないからな...」



「で、ですが....この量の依頼の達成となりますと冒険者ランクはゴールドでしょうか...」



「ゴールドかプラチナはどうすればいいんだ?」



「ドラゴンの討伐です、といっても竜の角の回収ですけどね...それでドラゴンの強さでプラチナもしくはダイヤモンドに昇格します。」




――――なるほど、それなら修羅の世界の龍王ともなればダイヤモンドは確定だろう。




「それでなんですけど、ゴールドの冒険者には異名というものを付けることになってまして、異名といっても二つ名のようなものですが。」




「二つ名か、例えばどういうのがあるんだ?」



「えっと、漆黒の、とか伝説の、とか終焉をもたらすとかがありますね」



グレースの顔がみるみる赤くなっていった、そんな厨二のような異名で呼ばれるのが恥ずかしかったからだ。


「その異名は無いといけないのか?」



「いえそうではありませんが」



「そうかなら適当に頼む」



受付のロザーリが目を閉じ真剣に考え始めた。




「ん~~~....あ!紅蓮の暴食レッド・グラトニーなんてどうで...」


「却下だ!!!!!」




そんな恥ずかしい異名名乗りたくないからである。ロザーリと二つ名の話をしていると納品所からエミールたちが戻ってきた。




「マスター、どんな話をなされているんですか」



「あぁ今俺の二つ名の話なんだが...ちょっと名乗るのが恥ずかしくてな、フレイヤは何かいい案ないか?」



「マスターの二つ名ですか...究極アルティメット....究極アルティメット...」



「すまんフレイヤ究極アルティメットから離れてもらってもいいか?」



「う~ん、アポロンどうだなんか案がでないか?」




「普通に覇王でいいんじゃない?」






   『あっ....』






アポロンが平然といった言葉にまわり呆然としてしまった。



「そうか、俺にはすでに異名があったんだった...」



「盲点でしたね、マスター」



「え、えっとグレースさん、異名は覇王でよろしいでしょうか?」



「あぁ覇王にしといてくれ」



「ではパーティー名どうなされますか?」



大いなる虚無グラウンド・ゼロなんてどうかな?」



「エミールにしてはいいチーム名だな。大いなる虚無グラウンド・ゼロ...か...いいな」



「なら大いなる虚無グラウンド・ゼロのリーダーは覇王でよろしいですね」



「あぁそれで頼む」



グレースの異名とチーム名が決まった。大いなる虚無グラウンド・ゼロこれがパーティー名である。



「あれが、大いなる虚無グラウンド・ゼロの覇王、つ、強すぎる...ってほかの冒険者さん達からい言われますがよろしいですか?」




「も、問題ない」




こうして、チーム大いなる虚無グラウンド・ゼロの覇王グレーステ・シュテルケが誕生したのである。

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