第7話 過去
冒険者ランク、一番スタンダードな上げ方は依頼を受けモンスターを倒し冒険者としての実績を積んでいくスタイルだろう、だがそれは自分も徐々に成長していく場合の話である。すでに成長しきっている険者が最も効率よくランクを上げていくには採取クエストまたは納品クエスト、どのランク台にも存在する採取クエストは自分がそのアイテムさえ持っていれば即納品でクエストが完了になるからだ。
という考察を編み出したのはフレイヤの人工知能だった。
「たしかに効率がいいな、素材なら虚無錬金でいくらで生み出せるからな」
グレースもこの意見には賛成だった。
グレース一行は採取依頼をすべて引き受けグレースの亜空間にある屋敷に帰宅した。
屋敷にある長方形の机を囲むように席に着き今後の方針を話始めた。
「この量の依頼をこなせば恐らくシルバーってとこだろうな。」
「マスターじゃあどうやってゴールドにするのさ?」
「ゴールドは国の英雄クラスのランク台だからドラゴンの討伐とかじゃないだろうか、エミールはゴールドに上がる必要条件知ってるか?」
「たしかドラゴンの角の確保だったかしら、まぁドラゴンの討伐って思ってくれればいいわ、討伐の確認
のために角が必要なだけだからね、」
「そうか、確かに街中にドラゴンを連れてくるわけにはいかないしな」
「違うよアポロン、そもそもドラゴンを運ぶ手段がないんだよ、君の人工知能でもそれくらいわかってると思うけど」
「私の人工知能のだした答えは物理的に運ぶ方法だけなんだが...」
「っふ、いやすいません、やはりあなたの人工知能は少しばかり脳筋思考なのですね」
「ちょフレイヤそれ私のこと馬鹿にしてない?」
「おいおいその辺にしておけ、話がずれていってるぞ」
話の軸がずれていくのをグレースが止めた。
「申し訳けありません、マスター」
「それでだな、シザースのもとに向かってみようと思ってるんだが」
「シザース...確か三代目の龍王ですね」
「今は静かに隠居してるんでしたっけ?」
「あぁそうだ、孫の修行に専念したいといっていたが」
「隠居させたのはマスターだけどね...」
「あ、そういえば孫といえば今の龍王のジースはシザースの孫だとか」
「よしこれで明日やることが決まったな、納品依頼をこなして修羅の世界に行きシザースに角を貰うついでにエミールのレベル上げも兼ねてな。異論はあるか?」
「・・・・」
「よし異論はないようだな、じゃあ解散」
「ちょっと待って冒険には行かないの?それにまだ午後の三時なんだけど」
「なにか忘れてないか?俺とエミール以外は神なんだぞ、仕事だってあるんだ」
「それはそうだけど...グレースは今から予定あるの?」
「あるといえばある...無いと言えばない」
「なら私の修行に協力してくれないかしら」
「別に構わないが宛てにするなよ?それに修行といっても夜までだからな、そのあとは俺にも用事があるからな」
「いいの?なら魔獣の森へ行きましょ」
「ならさっそく行くか」
「マスターご武運をお祈りしています」
そして、エミールとグレースは魔獣の森に向かった
道中魔獣に襲われたであろう村にたどり着く。
村には人の影もなく辺りには血痕が残っているだけだった。
「ひどい、きっと魔獣に襲われたんだわ、生存者はいないのかしら」
「そんな落胆するなエミール、お前のせいじゃない、ん?かすかだが生命反応が...」
グレースが感じ取ったのは微かな生命反応だった、本当に微かな、今にも消えてしまいそうなほどの微かな生命反応だった。
「―――こっちか」
グレースは崩れかけている家屋をスキルで消し去るとそこには今にも息絶えそうな少女が短剣をもち倒れていた。グレースは倒れている少女を抱えた。
「何があった、話はできるか?」
「おに...さん...だ...れ?...」
「俺はグレース・シュテルケだ、何か望みはあるか償いとして望みは叶えてやるぞ」
「ちょっと待ってグレース早く回復魔法を使わないと...」
「エミール...この子を今助けても悲惨な思いしかしないぞ....両親や友達を殺された過去を引きずりながらこの先の人生をひとり復讐のために生きることになるんだぞ」
「それはそうだけど」
俺はエミールに思念を送る、憎しみを抱いて生きるのはとても辛い、そんな過酷な人生を送らせるのならばここでゆっくりと眠らせ転生してもらった方がいい、きっとその方がこの子の為になるだろう
「まだ意識はあるか?早く望みを言うんだ」
「な...ら...マ...マの...かた...きを...」
「わかった後のことは任せろ、それとあとで神様に会ったら自分の好きな願いを伝えるんだ、俺の名を出せばなんだって叶えてくれるはずだ」
「あり...がと...おに...さ...」
少女はお礼をいうと静かに眠りについた。エミールとグレースは目を閉じ黙禱をした。
黙禱を捧げ終えグレースは少女にヒールを唱えた。痛々しかった怪我はきれいに修復され血の付いた服も綺麗になった。
「せめて来世は平和な世界に生まれて幸せに過ごすんだぞ」
グレースは最高神のスキルを使い体を天界に届けた。
少し経ち生存者がいないか辺りを探していると夕焼けを眺めているグレースが立っていた。
その姿はどこか儚く触れてしまえば壊れてしまうような...
「ねぇグレースどうしてさっきあんなに落ち着いていたの...」
聞いてみたが私も少し気が乗らなかった、度々聞くグレースの過去の話に胸が締め付けられていたからだ。
「そうだな...死っていうのは状態の一種でしかないんだよ、あの子は転生して何度でも人生を繰り返せる。魂は輪廻転生するもの....そう思うようにしてるんだ」
「あの子はってどうゆうことなの?魂は輪廻転生するものなんじゃないの?」
「単純な死、ならな。いい機会だから話しておこう」
「俺が修羅の世界で冒険しているときエミィは肉体を失ってしまったんだ。」
「肉体を失った...?」
「そう俺のせいで肉体を失っちまったんだ。俺がもっと気を配ってやれてたなら...あいつは魔王になんて...」
「でも魔王にやられたならグレースがそこまで気負う必要はないんじゃ」
「そうじゃないんだ、俺はエミィの誕生日の日にあいつが欲しがっていた武器にエンチャントをしてやったんだ、いろんな効果を所望してきたからすべて叶えてやったんだ。」
「一体何が原因になったの?」
「一番の原因は消滅の付属効果だな...効果は斬られたら消滅するというものだ」
「ふ~ん...ってそんな物騒なものを付けちゃったの?」
「問題ないと思っていたあいつは自分の力の使い方を知っていた。自分の守りたい者の為に剣を振っていた。そんなエミィを俺は信用し同格だと心の底から思ってしまっていた。」
「すごい人なのね。でもそんなに強い人がどうして?」
「俺が同格だと思ってしまったからだ、俺のスキル
「でもそれならなぜ肉体だけ消滅したって言えるの?」
「魂への攻撃ではないからな、肉体だけが消滅したんだ。」
「それなら魂を探し出して何か依り代になるのを用意すればいいんじゃないの?」
「探し出すことができないんだ、あいつは神達よりステータスが高かったからな。それに俺は魂を感知す
ることができない...」
「なら人工知能はその時に...」
「そうだ、人工知能がいれば感知することができたのかもしれない、ただし、感情のない人工知能だがな」
「どうしてグレースの人工知能は感情を持っていたの?」
「別に最初から持っていたわけじゃない、時々本を見せたり頭をなでたり質問に答えてやったりほめたりしたりな、そしたらあいつは次第に感情を持ち始めた、強者ゆえの余裕や自分への慢心、感情ありきの可能性、あきらめない心などを計算に組み込めるようになったんだ。だからこそ...親子の愛を過信しすぎて...」
「ちょっと待ってどうやって人工知能の頭をなでたりしたの?」
「それなら簡単だ、俺の亜空間で肉体を作りその中で生活していたからだ。亜空間からは出てないがな」
おれは人工知能に名前を付けた、『シーラ』それが俺の人工知能の名前だ。」
「いい名前ね。」
「そうだろうシーラが自分でつけた名前だからな」
「でもシーラちゃんは今グレースの中にいないの?」
「シーラは度々人の命は儚いといっていた、そしてある時『マスターの命はここにあるの?これがマスターを動かしているの?』当たり前だろ?って笑ってやったよ、そのあと『私がたとえ壊れても心だけは私が守る』きっとそのことを根に持っていたんだろう、エミィを失った後俺の心は壊れてしまったシーラも一緒にな、きっとエミィという存在の消失に俺を重ねてしまったんだろう、かけがえのないものを失った人間のとる行動は次は失わないようにするか、距離をとるかだ。シーラは距離をとったんだろう、俺が意識を取り戻したころにはもうすでに俺の中にはいなかったから本当にそうかはわからないんだけどな」
「グレース...う...うぅ」
エミールのほうに視線をおろすとエミールは涙を流していた。そんな姿を見たグレースは少し笑い小声でつぶやいた。
「―――だから俺はお前をもう失いたくないんだ...」
俺は声にならない声で呟く聞こえていないと信じて...
「なんか言った?うまく聞き取れなかったんだけどぉぉ」
エミールは顔がぐしゃぐしゃになるくらい泣いていた。
「いや何にも言ってないさ。無駄話をしすぎたな、さっさと敵を討って帰ろう」
少女の敵討ちはあっけなく終わった。エミールは泣き疲れて武器を握れなくなったからである、結局グレースが魔物の集団を討伐し少女の依頼は達成されたのである。
その日の夜、エミールを亜空間の屋敷の小部屋に案内した後
アポロンの報告でもあったグレースの人工知能でもあるシーラが魔物を殺し続けているからだ。あんな優しい子がそんなことをし続けているなんて信じたくないグレースはその真意を確かめるために修羅の世界戻るのであった。
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