神様の予言書『俺の未来がアニメでは雑魚死だったので拒否します』
語部マサユキ
プロローグ 演出で死ぬ雑魚はコミカル
「へへへ……こんな夜中に山中で女一人だなんて、襲ってくれって言ってるようなもんだぜぇ~」
「ひ……いや……来ないで……キャア!?」
闇に閉ざされた森の中、そんな人気の無い場所でいかにもなガラの悪い連中に絡まれる一人のか弱い少女……一目で状況が理解できるそんな場面。
そんな集団の中でも取り分け目付きも服装も悪い赤髪の男が少女に飛び掛かって押し倒し、下品な笑みを浮かべて舌なめずりをする。
「い……いや……お願い……」
己の絶望的な未来を察して涙目で懇願する少女だったが、こんな行いを笑いながら出来る男にとって、それは逆効果にしかならなかった。
更に楽し気な笑みを浮かべて男は少女の服を乱暴にビリビリに引きちぎる。
「い、いやあああああ!?」
周囲の仲間たちも止める気配などなく、絶体絶命の状況に少女は抵抗し悲鳴を上げるが華奢な少女にはなすすべも無く地面に押さえつけられてしまう。
「おほ~、中々上玉じゃね~か!」
「おいおいギラルよ~あんまり可愛がり過ぎんなよ。また壊したら売り物にならなくなっちまうぜぇ~」
「分かってるっつ~の、この前みたいなヘマはしね~よ。奴隷商で使える程度に味見するだけにしとく……」
そんな欲望に忠実に、他者の感情なんて考えもしない男は絶望に震える少女を毒牙に掛けようと……。
「出来れば良いな。お前にそんな時間が残されていれば……だけど」
「あ!?」
しかしこれからお楽しみと思っていた男は突然背後から聞こえた声に慌てて振り返った。
いや、振り返ろうとしたが正しい。
半分降ろしかけたズボンを上げつつ振り返ろうとした男だったが、自分の視界が可笑しい事になっているのにようやく気が付く。
右と左の景色がズレて見えるのだ。
「ア……アレ?」
それは自分が脳天から股にかけて、真っ二つに切り裂かれてしまったせいだとは終ぞ気が付く事も無く……振り返ろうとした男はそのまま文字通りに両断されて左右に倒れた。
まるで主人公が登場するための門のように……。
「悪いな……お楽しみを邪魔してさ」
威風堂々、両断された男の先に立っていた大剣を手に立つ一人の戦士。
ピンチに訪れ颯爽と救い出す英雄にふさわしい振舞に絶望に涙していた少女は歓喜し、逆に仲間をアッサリ殺された男たちは恐怖の悲鳴を上げた。
「う、うわあああああ!? ギギギラルが!? 真っ二つに!?」
「ウソだろ!? あのバカでかい剣は……まさか伝説の!?」
・
・
・
『へえ、お前らのような夜盗でも知っているのか……勇者にしか扱う事の出来ないこの武器“エレメンタルブレード”を』
「な、なんだよコレ……」
俺は自分が見ている物が何なのか、全く理解できずにいた。
そもそも今現在自分がいるこの場所すらどこなのか分からないし、自分に一体何が起こったのかすら理解できなかったけど、目の前の“光る黒い板”に映し出される幻影のような物はそれ以上の衝撃を俺に与えていた。
それは勇者という物語の主人公が颯爽と哀れな少女を救い出す英雄譚……そんな主人公をただカッコよく見せ、悪党が無残に殺される様をスカッと演出するためだけに一人の男が同情の余地も無く情けなく惨殺された場面だった。
それが俺以外の者なら多分指さして笑うだけなのだろう。
自業自得な男の末路に“ざまぁ!”と嘲笑するだけでそれ以外の感情を持つ事なんて無いだろう……俺だってそう思っていたはずだ。
その惨殺された男が俺と同じ名前じゃ無ければ……。
全身にこれまで感じた事の無い冷たいモノが走り抜ける。
足が震えて立っていられない……口の中は既にカラカラに乾いていた。
そして、顔面蒼白になる俺に“光る黒い板”の前に胡坐をかいていた『神様』は振り返りもせずにボソリと言った。
「悪人の末路ってのは、どんなストーリーでも同じでつまんねーよなー」と……。
俺は……その時自分が見た物が何なのか、理解せざるを得なかった。
それは天上に住まう神々だけが持つ事が許されると教会の連中が言っていた『予言の書』である事を……。
そして俺が見たのは未来の自分の末路……自分が、ギラルという名の少年が辿るであろう最低の男として最低な終わりを迎える場面なのだと。
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