第6話 コスモスをさがして
週に一度のお休みは、貴重なものだった。
レジ打ちの女の子は、日曜日と、売り出しの水曜日を、のぞいたシフトが組まれていた。
やよいちゃんとは、すぐに仲良しになった。
でも、一緒のお休みになることはなかった。
新人同士は、一緒にはなれない。
この街に出てきたことが嬉しくて、やよいちゃんは、いつも嬉しそうだった。
レジが忙しくない時間は、いろんな部門のお手伝いをした。
豆腐を二つ組にする、豆腐の袋詰め。
トイレットペーパーは、当時、4ロールでひと袋だった。
特売の日は、4ロール詰めを、たてに5つ並べて、ビニールひもで結んだ。
手間もかかる作業を、外でやった。
商品の値段は、ハンドラベラーという機械で、印刷した値段のシールを商品に貼った。
月曜日は、鳥の羽のはたきを持ち、空いたスペースを詰める品出し。
お菓子が入荷したら、100円コーナーと書かれた、広いワゴンに、どっさり山盛りにした。
毎日、来るお客さんの顔も覚えてきた。
わかばという煙草を2箱買う、アフロヘアーの中年女性は、必ず半額になったコーヒー牛乳1リットルを2つ買った。
いまなら、半額商品も安全だと思うけど、当時のわたしは、いつも、おなか痛くならないのかな?と、心配していた。
まさか?と、思う人の万引き。
発見した時には、先輩たちに驚かれた。
新人ならではの勘である。
犯人は、常連客の、飲食店の店主だったから。
煙草を5つ、ポケットにいれた。
小さなスーパーマーケットでも、ドラマがあった。
青果コーナーでは、若い男性が担当。
レジ打ちの女性軍から、人気者だった。
優しい男性だった。ほんわかとした性格そうにみえて、なかなかの外車に乗り、表に出さない本当の姿はミステリアスだった。
数々の舞台裏を、二人は知るたび、盛り上がった。
話したいことがたくさんあるのに、休憩室でも一緒になれなかった。
仕事が終わって、帰る時間。
日が沈んでから、ようやく話した。
洗い物で、二人の手は、いつも冷たかった。
街灯の下歩く。
日が暮れた、夏の夜だった。
「今日は、そとで、買い物かごを洗ったね。」
ふたりは、お日様のない世界から、青空の下にでた。
今日は、とてもいい日だった。
やよいちゃんは、明日お休み。
「なにするの?」
「コスモスさがすつもり」
田舎では、たくさんのコスモスが咲いている時期
「函館に来てから、コスモスを見ない」と、話した。
コンクリートの道に、住宅街。
いつも夜で、コスモスを探すのは、難しかった。
やよいちゃんの話す言葉に、心打たれた。
去年まで、たくさんのコスモスが咲く畑を見ていたのだろうな。
お父さんが撮った、夕日が沈む写真を見る。
「やすこちゃんに、あげる」と、もらった1枚だ。
畑があって、金色の夕日の中、太陽が沈む瞬間だった。
函館から60キロ以上離れた風景を想像する。
お姉さんたちが住む函館にあこがれて、こうしているんだよな。
国道にでるまでも、車で送ってもらっていたという。
家につくまでに通った道で、おばあちゃんが、クマを見たとか。
やよいちゃんの言葉から、田舎の風景を想像した。
「コスモス、見つかるといいね」
「うん」
やよいちゃんは、目を細めて笑った。
ふたりの足取りは、いつも疲れて、のんびり歩く。
私は、キーキー音のなる、さえない自転車を押しながら。
なんだかしんないけど、笑いあった。
結局、やよいちゃんは、この年は、コスモスをみつけることはできなかった。
わたしが、見つけたのは、五稜郭駅の近くで咲く、真っ赤な背の高い葵(あおい)の花だった。
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