第4話 桜のトンネル
青い桜をみて、泣いたあと。
わたしは、季節が暖かくなっているのに気がついた。
自分だけ辛いと、思っていた世界が、やよいちゃんという同期にも恵まれたことと、ダメな私にでも、女性の先輩たちは優しい。
リーダ―のレジの女性は、私を可愛がってくれた。
ほかにも、よくみると、春のような暖かい人たちばかりだった。
優しい先輩たち、面白いパートタイマーのおばちゃんたち。
足元のやさしさに気がつかず、自分ばかり、嘆き悲しんでいたのだ。
夢というものさえ、持たなければ、辛いことなどない。
暖かい季節になるころ、先輩が自転車で通うと話した。
私も、まねることにした。
バス代もかからない。
家にあった、古いさびた自転車に乗って、仕事に行くことにした。
その、キーキー音のなる、さびた自転車が、私を救ってくれた。
お日様のない世界から、すばらしい世界へと、自転車は導いてくれた。
青い桜を見た夜。
絶望のどん底だった。
だけど、自転車が、自由をくれた。
ある日、いろんな道を通って職場へと向かってると、さくら並木のトンネルの道を発見した。
その道の入り口には、パン屋さんがあって、パンの香りがした。
嫌な仕事も、蛍光灯の世界も、物覚えが悪くて、辛い気持ちも、精肉のトレーも、みんな忘れて、さくらのトンネルを走った。
赤毛のアンの気分になって、気分が良かった。
朝の日差しが、嬉しかった。
帰りもわたしは自由になれる。
好きなところへ行けるのだ。
縛られない世界がそこにあった。
あいかわらず、帰りの30分は、生臭いトレーを洗っているけど、いつかきっと、願いはかなう気がした。
嫌な仕事をするたびに、山下久美子の「こっちをお向きよソフィア」の歌詞を思い出した。
「~見えないものを信じたら、向こう側へと抜けるカギがみえるわ♪~」
絶対に、信じると、そう思った。
小声で歌った。
でも貫くのは、19歳の私には、苦しかった。
ここが東京だったら。
もっと、頑張れたかもしれない。
夢を追う仲間が、たくさん、いただろうから。
それでも、希望を捨てずにと、自分のために、今日だけの幸せを探した。
どんなことでも、どん欲に探した。
一日の中にある、幸せを探した。
そして、ノートに毎日書いた。
桜のトンネルは、花びらが散る瞬間が、最高だった。
私は19歳で、可愛い女の子。
やよいちゃんという、大好きな友もできた。
わたしは、幸せなんだ。
心の中だけは、誰にも邪魔されない。
かならず、幸せになると思い聞かせた。
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