未定

黒曜石で砕けた茶碗

第1話 

自分の周りは馬鹿しかいない。学校の先生も友達も看護師だってみんな馬鹿だ。

みんながみんな僕の気持ちを分かった風な口を利く。

「かわいそう。」「辛かったね。」「やけにならないでね。」どの言葉も全く僕の心には響かない。そういう知ったかぶりで僕の心に割り込んでくる奴らには決まってこう返したくなる。「馬鹿かよ。お前は何もわかってない。黙ってろ。」って。

だけど、言えない、言えないんだ。だから、表情にはいつも笑顔を浮かべる。僕の心に寄り添ってくれてありがとう感謝しているよとできる限り表して、相手を満足させるために。

実際の気持ちをすべてぶちまけることが出来たならどれ程いいだろうか?でも、できない。できないんだ。後先考えずにぶちまけるなんてそれこそ馬鹿のすることだ。波風を立てて生きていくなんて僕にはとてもできそうにない。勇気もなくて度胸もない。これからもずっとこんな人生だと思うと絶望する。苦しくて、悲しくてそして、どうしようもなくやるせない気持ちになる。だから、こんな人生はもう終わらせるべきなんだ。死んだら天国に行けるだろうか?

いや、自殺するんだから地獄行きに決まってるか。それでも今よりはずっといい。

僕はもう耐えきれない。


そうしてぼくは病院の屋上から身を投げた。

一歩踏み出しただけでこれほどまでに気が楽になるものなのかと落ちゆく中で感じた。

間違いなく、自分は死ぬ。それは、疑いようのないものだ。

そう予感させるほどの速さで落下していく。どうやら、踏み出した際に体の向きが反転したようで、顔には圧倒的な風量が吹き込んでくる。まともに目を開けることもできない。かろうじて見えたのは、黒ずんだコンクリートだった。

「やっぱ痛いかな?でも、頭から衝突するのだから痛みすら感じないかも。まあ

どうせもう死ぬんだから痛いかどうかなんてことはどうでもいいことか。」

明確に死が迫る状況の中で心は驚くほど穏やかだった。

衝撃に備えてぐっと目をつぶる。

そして、次の瞬間バゴンという轟音と共に、体に衝撃が走る!!




はずだった。しかし、どれほど待っても衝撃が訪れることはない。さらに、おかしなことに先程まで体中をつんざくような風が包んでいたがいつの間にかそれすらも消えていた。考えられるのは痛みを感じる間もなく死んだという事だが、だとしたら四肢に感覚があるのもおかしい気がする。

僕は、恐る恐る状況確認のために目を開けてみる。

すると、目の前には黒いスーツを着た男が立っており、

「やっとお目覚めかい?」

と笑いながらそう言った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

未定 黒曜石で砕けた茶碗 @mitsuhime

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る