訃報泥棒め! 国家反逆罪で逮捕だーー!

ちびまるフォイ

訃報泥棒が集めている訃報

「なにい!? また訃報泥棒のしわざ!?」


その国には人が死んだことを伝える訃報泥棒が好き勝手やっていた。

訃報が盗まれることで誰が死んだのかわからなくて警察やらはてんてこ舞い。


警部は国のボスに呼びつけられた。


「警部くん、訃報泥棒の件はまだ片付かないのかね」


「はっ。私どもも精一杯探しているのですが、奴はいかんせん逃げ足が早くて……」


「そんなことはどうでもいいのだよ。訃報が盗まれていることで、

 我々がいらぬ税金を払ったりしていることが問題なのだ。早く捕まえたまえ」


「はっ、ただちに!」


警部は訃報泥棒の痕跡をたどるように街で聞き込みを続けた。

けれど、訃報泥棒に関する情報はまるで得られなかった。


「訃報泥棒を見ませんでしたか?」


「いいえ、見てませんわ。警部さん、もしかして訃報泥棒を捕まえようとしているの?」


「ええ、もちろんです。訃報を盗むなんてこと許せません」


「どうして許せないのかしら」

「え?」


「訃報が届かなければ、その人が亡くなったことがわからない。

 人の死なんて知らないほうが毎日幸せに過ごせるんじゃなくて?」


「な、なにを言っとるんですか!

 そんなのは現実から目をそらしてるだけじゃないですか!」


警部はますます訃報泥棒を捕まえてやろうと気持ちを固くした。

このまま訃報が盗まれ続けては誰もが現実から目をそむける体質になってしまう。

辛い現実を受け入れるからこそ成長できることもあると思った。


「しかし、まったく足取りがつかめんな……」


訃報が出るたびにさっそうと現れてかすめ取っていく。

証拠ひとつ残さないその手際には敵ながらあっぱれであるが。


「……そうだ! 訃報でやつをおびき寄せればいい!」


警部は体をはった作戦に打って出ることにした。

自分の部下にも事情を伝えずに自分が事件で殉職したことにした。


訃報届を出して役所に警部は身を潜めた。


(さあ来い、訃報泥棒……!)


誰もが寝静まった深夜のこと。

警部ほど耳に神経を集中していなければ聞こえないわずかな物音が聞こえた。


警部はすぐさま立ち上がって明かりをつけた。


「見つけたぞ! 訃報泥棒め!!」


「なっ!?」


「わははは! 私の訃報に釣られるとは愚かな奴め!!」


訃報泥棒が面食らっている間に警部はあっという間にしばりあげた。


「ついに訃報泥棒を捕まえたぞ。ふはは、この小悪党め!」


「ふん。俺を捕まえることをみんな求めてるのか」


「ははは、負け惜しみか?」


「訃報を突きつけてこの先ずっと暗い毎日を強いるのがそんなに正しいのか」


「現実から目をそらすことに何の意味がある。

 お前がやっているのは所詮その場しのぎの偽善でしかない」


「ああ、そうかよ」


「さあ、早くお前の盗んだ訃報を渡すんだ」


「嫌だと言ったら?」

「どんなに嫌だと言っても終わらない拷問にかけてやる」


訃報泥棒は観念して自分のアジトへと警部を案内した。

金庫をあけると大量の訃報が出てきた。


「訃報がこんなに……!」


警部は金庫の訃報を押収したが、これを届けると意識したとたんに腰が重くなった。


「どうした? この訃報を届けるんだろう?」


「も、もちろんだ」


訃報を伝えるのがこんなにも重いものだと思わなかった。

死を知ったことで相手は悲しむのはもちろん、どうしてもっと早く伝えなかったと言われるかもしれない。


現実に向き合うのが正しいと信じていたが、

自分が現実を突きつける側になるとこんなにも辛いとは。


警部は押収した訃報をすぐには届けることができなかった。


「どうしたものか……」


悩みに悩んだ警部は山積みになった訃報を見てひらめいた。


「そうだ! いきなり訃報を届けるんじゃなくて、死を匂わせる手紙を届けよう!」


いきなり「死んだ」というショッキングな情報を伝えるのはよくない。

そこで「弱っている」とか「死期が近い」といった"におわせ"の手紙でジャブを打ちつつ、死への心づもりをしてもらう。


死の受け入れ体制が整ってから訃報を届ければ、ショックを受けることもないはずだ。

警部は訃報の届け先を見て匂わせ手紙をしたためた。


段階に応じて病状が悪化していると伝えるため、最初は元気だがちょっと病気になっていると伝える手紙にした。

手紙の回数に応じて徐々に死へと近づくようにしていた。


警部は最初の手紙をもつと、押収した訃報の住所へとやってきた。


「あら警部さん。どうしたんですか?」


「いやいや、ちょっと手紙を届けに来たんですよ」


「手紙? 誰からですか?」


不思議がる奥さんにショックを与えまいと警部は優しい声で手紙を読んであげた。


「……ということです。あなたのおじいさんはちょっぴり体を病にかかってしまってね。

 ああ、でも大丈夫。まだ初期段階でここから悪くなるとも限らないですし、まだ元気ですから」


警部の言葉を聞いた奥さんは死を伝えられるよりもショックを受けて顔面蒼白になった。



「ええ!? それじゃ、昨日私は息のあるおじいちゃんを火葬しちゃったんですか!?」



その姿を見て訃報泥棒に過去の訃報を渡されたと気づいたが、もう手遅れだった。

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