第33話 あしたの雪之丞
創作をしながら他の作品を触れていく中で、似たような登場人物に触れて驚くことがありますが、本作を初めてプレイした時の衝撃はこの一言に尽きました。
「ああ、画面の向こうに瑞希がいる」
本作の印象を一発で決定づけたのは、メインヒロインである春日せりなでして、その快闊な性格と日常を引っ張っていく明るさは暗い影の差しがちな本作において救いとなっていたように思います。
それは当時も書き続けていた別世界の女の子に重なり、気が付けば両方の世界に引きずり込まれているというのはなかなかに珍しい経験ではないでしょうか。
ただそこは十八禁ゲームのヒロインとの比較になりますから、胸囲に格差社会の闇が垣間見えもします。
いや、それだけがヒロインの魅力ではないと言われてしまいそうですが、黄色いリボンが映えるというところまで似ていてはどうしても目についてしまいます。
芯の強さと、その虚構の裏に隠した想いと儚さを持つというところもまた、似てしまっているのですから。
本作をプレイした時期を正確には覚えていないのですが、成人する間際ではなかったかと思います。
そして、多数から同時に思われる中で恋愛対象を絞り込んでいくというゲームをプレイしたのはこの時が初めてではなかったかと思います。
一人を諦めるという形式でしたら、それ以前にも、それこそドラクエⅤの頃から見てきた内容ではあるのですが、人数が増えることで心の負担がより大きくなります。
何をゲームで大げさなと言われてしまいそうですが、そこは悲しくも文筆業の端くれですので、その裏側まで想像が働いてしまいそれなりに大きな心的負担となります。
特に、元気印の女の子が裏で泣くとなると、しばらく立ち直れなくなる自分がどこかにいるのが分かります。
そうした重さを抱えながら進めていった本作は、だからこそ脳裏から離れないものとなっているのかもしれません。
それからまた一年ほど置いて「同級生」をプレイするのですが、その時の良心の呵責はまた別のお話ですが。
それにしても、私もまた自らの選択で誰かの想いを断ち切ったことがあるのだろうか、という思いを本作を進めながら持ってしまいます。
まあ、奇人変人の類である私にそうした感情を向けて下さる方が、そうそういる訳がありませんね。
本作は二本のゲームで完結する形をとっていまして、第一作はタイトルの通り雪之丞が主人公であり、二作目は勝が主人公になります。
本来であれば分けて話をしていくべきなのでしょうが、どうしても片方だけでは尻切れトンボになってしまいますので、ここからは話を進めていきます。
なお、二作目の主題歌「Hi・Ra・Ri」はこの二つのお話をまとめたような歌で、オープニングで流れただけで心をゲームの世界へと引き込むのですが、その真価が発揮されるのは全編が終了した後で再び見直した時。
短いながらも、二人の主人公と全てのヒロインに起きた出来事を抱きしめ、大切にしまっておきたい、そう思わせて止みません。
そもそもが本作はボクシングを話の背景に据えながら、基本的にはそれを主軸から外して単純なスポコンに陥るのを避けているように思います。
スポーツに打ち込む青春もまた素晴らしいものだとは思いますが、それによって失った大きなものに悩みながらも対していく方がより、実際にプレイをする人達の心を打つという現実を冷静に見据えていたのでしょう。
中学生や高校生の頃に感じていた「無敵感」とでも言うべき爽快感は、しかし、大学や社会に出ていくにつれて大きく失われていくものです。
そこから再び何らかの「自分らしさ」を手に入れながら、時に再びの喪失感を味わいつつ苦悩と快感の間を揺れて進む。
それが生きていくということなのかもしれませんが、時にどうしようもなくなったところで救いを求めたくなることもあり、それをゲームに求めることがあるのかもしれません。
そうした時に触れる本作の明るくも、進むにつれて悩みが増し、しかし、最後には何らかの立ち直りに至る展開というのはたまらないものです。
そして、本作の最終盤は二人の主人公の立ち直りつつもどこか燻っていたものを真正面から描くことで、心の復活を見せていきます。
ゲームにせよ小説にせよ漫画にせよ、苦悩の先にあるものが必ずしも幸福であるとは限りません。
人生と同じで、時にはひどく後味の悪い思いをさせられることもあります。
それはそれでよい作品なのでしょうが、時には掛け値なしで爽やかな読後感を味わいたくなることがあります。
そうした時に手を差し伸べる本作というのは、果たしてどれほどの人の心を救ってきたのでしょうか。
本来であれば三大欲求の一つを満たすために作り出された作品であるはずなのですが、その先にこのようなことを求めるのは道化が過ぎるのでしょうか。
それとも、本能的な欲求の裏に隠された満たされぬものに気付いているかを問う作り手のカウンターだったのでしょうか。
いずれにせよ、十八禁ゲームという狭い門戸を前にその枠を大切にしながら、真摯な作品作りをされた方を尊敬せずにはいられません。
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