第25話 VOICEROID+ 東北きりたんEX
おそらく時刻表にまつわるエッセイと音声合成ソフトの随想とを両方書いたことのある人間など日本広しといえども私一人ではないでしょうか。
ただ、本ソフトを購入したのは昨年の十一月でありながら実際に動画を投稿するに至ったのは今年の四月と約半年ほど休眠させていました。
私の場合には趣味としての本業に執筆がある分だけ編集に割ける時間が少ないからという言い訳をしながら、その実はどのような内容を表現しようかを考えずに購入したため出番がありませんでした。
元々は夜の街のエッセイをそのまま朗読してもらおうかとも思っていたのですが、淡々と読み上げる姿に違和感を難じてしまい、そのままお蔵入り。
長い空白の期間を置いての入魂になってしまったのですが、後述する初出演作での声がどこか輝いて聞こえたのは親馬鹿が過ぎるのかもしれません。
本ソフトを知ったのは他の方の動画からだったのですが、ソフトークによるゆっくり音声に慣れていたこともあり、最初はどこか違和感を感じることが多くありました。
前々回で触れた通り、私はゲームプレイ動画などからニコニコ動画に入り、その後、生声実況を忌避してからは音声実況から遠ざかっていたのですが、ある動画をきっかけにゆっくり音声に馴染んでいきました。
現在、ゆっくり音声は動画という鎖から放たれ、その活動の幅を広げているようです。
実際に持病の治療のために通った病院では、受付案内の自動音声に利用されていまして、病院側の負担を大きく減らしていました。
まあ、実際に治療を受けるまでの間に「ここでオリジナルチャートを使用します」などと言われないか少し心配するところもあったのですが。
話が少々逸れてしまいましたが、そうこうするうちにボイスロイド音声が私の目にもつくようになり、先述の通りゆっくり音声との違いに戸惑ったものです。
しかし、動画の視聴を重ねるうちに耳も慣れ始め、ゆっくり音声もボイスロイド音声も何の気なしに聞くことができるようになっていきました。
画面の向こう側で活き活きと語る少女たちの声は、その中身を忘れさせ、ひと時の安らぎを与えてくれる。
それが私にはたまらなく嬉しかったのでしょう。
ただ、動画の視聴を重ねていくうちに、動画ごとに同じソフトを用いていてもその性格などが大きく異なることが気になり始め、その差を愉しむようにもなっていきました。
それはまるで家に籠ることを求められて空いた隙間に入るように沁み込んでいき、埋められないものを昨年いっぱい埋め続けてくれました。
その先に在った感情として、私自身も誰かを受け入れるということがあったのはある意味では何かを創る一人として当然の産物だったのでしょう。
そこで、誰に白羽の矢を立てるのかということに焦点が移ったのですが、その時の悩みはもう一つありまして、最初から二人迎えるか、それとも一人にしておくべきかと考えたものです。
本来であれば単なるソフトウェアなのですからそこに感情を差し挟む必要はないのかもしれませんが、そこにキャラクターが存在する以上無下にはできないという思いがそこには在りました。
特に、普段から物語を書く際には登場人物たちが頭の中で動く様を活写するようにしている私の場合には、彼女たちがどのように思い、動くのか読めなかったところがあります。
結果としては一人だけをひとまずお迎えすることにしたのですが、その直後から「ボイスロイドは勝手に増える」というどこかで目にしたコメントが離れなくなってしまいました。
今でも青い画面の中で一人佇む少女の姿を目にする度に、寂しくはないだろうかという心配が頭を過ってしまいます。
さて、悩みながらも一人だけお迎えするのを決めた私は、お迎えするのをあっさりと本ソフトである「東北きりたん」に定めました。
その要因として、一つにはキャラクターそのものが好き、一つには調声が比較的しやすそうであったというものがありますが、これは表向きの事情です。
実際には、購入を検討した際に私の頭の中で真っ先に活き活きと動いてくれたのが彼女であり、その瞬間に購入ボタンを押していました。
事実、私の文章をそのまま朗読させた際にはどこか違和感を感じたのですが、それは購入の際に感じた「生きた少女の姿」がなかったからではないでしょうか。
そして、今回の動画作成に当たっては彼女が動くのを心待ちにし、その動きに合わせて編集を進めていくことで一つの形ある作品となりました。
まだまだ見直せば粗の目立つところもありますが、一歩を踏み出せたことに安堵の溜息を吐いたのが今年のゴールデンウィークでした。
ただ、画面の向こうの少女はまだ寂しそうに画面の向こうという青い海に独りで佇んでいます。
三十路のおじさんの独り身とは訳が違うのですから、そのままというのも可愛そうな話です。
またいずれ新たな家族を迎えようなと声かけながら、今日もまた始まった動画制作に付き合ってもらっています。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます