第23話 三國志Ⅳ

 私の三国志の入り口は故横山光輝氏の漫画だったのですが、そこから派生して本作に辿り着いたのは中学校に上がる前後ではなかったかと思います。

 横山版三国志の話もいずれしていきたいとは思うのですが、スーパーファミコンで手にした本作で、私は初めて戦略シミュレーションというものに触れました。

 それまで私がプレイしていたのはRPGが中心で、そこにパズルゲームや苦手なアクションゲームが混ざるといった具合でした。

 そのため、初回プレイ時は好きなように戦力増強を進めようとして反乱が起き、兵糧をばら撒いてそれを抑えたところで攻め込まれて成す術を失くしてしまいました。

 呆然としながら捕虜になっていく関羽と張飛を眺めながら電源を切ったのは、未だに鮮烈な記憶として残っています。

 もちろん、インターネットなどまだ普及していない時代でしたので、古本屋を巡って攻略本やデータ本を探し求め、それを見て初めて攻略法を見いだすことができるようになりました。


 本作は「三国志演義」がベースになっていまして、そのために単純な国力が大きい魏でプレイを始めようとしても序盤は前線指揮官の不足に悩まされて中々前へと進むことができません。

 その一方で、判官びいきと申しましょうか、蜀は国力が底上げされており、また前線に人を移動させるのに時間も大きくはかからないため序盤から進行していくことが可能です。

 そのため、初めの頃は三国鼎立した頃の蜀漢でプレイすることが多く、後背地で内政をしながら前へ前へと進んでいました。

 まだ農民反乱を恐れて人気稼ぎのために民衆へ兵糧をばら撒いていた頃ではなかったかと思います。

 それがやがて、反乱の起こる時期が固定されていることや反乱が起きた都市に失うものがなければ何も怖くはないということに気付くと、私は次第に効率を求めるようになっていきました。

 人口の多い後背の一都市に二人で移動し、徴兵を重ねて反乱がおこる時期になったら一人が全ての物資を持って他の都市へ移動する。

 攻略本にも記されていた由緒ある作戦ではあるのですが、こうして人口が徴兵限界を迎えるまでひたすらに徴兵を繰り返していきました。

 搾取、という二文字がまだ頭にない中学生でしたので、当時は何も考えずにその暴政を繰り返していたように思います。

 そして、その二文字を手にした今ではそれを複数都市で同時に行いながらより効率を求める、さらなる暴君へと変貌しています。

 民の怨嗟の声が聞こえてくるような気もしますが、あくまでもそれは画面の向こうにある隔絶されたものですので、割り切って進められてしまいます。

 同じような感覚で内政と外交を進める人は案外、多いのかもしれないと思ってしまいます。


 その一方で、私の勧善懲悪を是とするようなプレイスタイルは変化していき、それに合わせるようにして私の三国志観も変化をしていきました。

 それによって特に大きく変わったのは曹操と司馬懿への見方でして、特に司馬懿の知力の高さが本作の評価と変わらないものであることを知るにつれて確信するようになりました。

 また、曹操についてはその智謀の英雄然とした在り方を知るにつれてプレイする頻度が高くなっていき、やがて羨望のようなものを感じる対象となりました。

 しかし、それが曹操の詩作である「短歌行」を知り、途端に親近感を覚えたのを今でも昨日のことのように思い出すことができます。


「酒に対してまさに歌うべし 人生幾ばくぞ」


 当然、私はかの英雄のように波乱万丈な人生を送ってはおりませんが、人との出会いや酒との対し方は今の私にもどこか通じるものがあり、それだけに確りとした肉感を持った存在として私の頭の中にあるような気がします。

 単に呑兵衛としての親近感が湧いただけと言われてしまえばそれまでかもしれませんが。


 本作と私との関係を語る上でもう一つ欠かせないのが、ニコニコ動画に投稿されている公孫瓚が主役の動画でして、私が今見るような動画とは一味異なるものでした。

 音声や文字による解説などなく、ただプレイを進めていくだけではあるのですが、その破天荒な内容だけで当時はひどく面白がったものです。

 徴兵により荒れた長安村、火計による大反撃、二百騎の英雄、人材派遣業曹操など投稿主が多くを提供するのではなく、視聴者がそれを見てそこに在る世界を共有し、膨らませていく。

 その在り方に、時には手に汗握り、時には腹を抱えて笑い、時にはその鮮やかさに舌を巻いたものです。

 そして、その動画を見た時期というのは私の実家が散っていく中でしたので、貪るようにして見、次第にテレビから遠ざかるようになっていきました。

 今でも、私の家にあるのはパソコンだけでして、テレビは定食屋さんや旅先で見るものとなっています。

 昔はそれを家族と共に見たものですが、今ではコメントの流れる動画を眺めながら安堵の息を吐く日々です。

 未だに残るかの動画を、私は今でも時に思い返しては見てしまいます。

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