第16話 俺の屍を越えてゆけ
勇者の血を引く子よ、あなたには二つの呪いがかけられています。
一つは短命の呪い、もう一つは種絶の呪い。
勇者の血を引く子よ、あなたは神と交わり子を残し、朱点童子を倒すのです。
始めてプレイをした時、この「勇者の血を引く子」という言葉がいかに皮肉めいたものであるのかをまだ知る由はありませんでした。
「俺の屍を越えてゆけ」はプレイステーション用ソフトとして発売された本作は、世代交代を繰り返しながら戦っていくロールプレイングゲームです。
ただし、私のよくプレイしたドラクエとは趣が大きく異なりまして、そもそもが単純な勧善懲悪の話ではありません。
ゲームを始めた当初は比較的にしてもそのような色を残してはいるのですが、話を進めていくにつれて善という言葉からかけ離れていきます。
そして、何とも言い難い終わり方をするのもご愛敬ですが、本作の魅力はそこではありませんのでそこまで気になりませんでした。
本作の魅力はと言われて最初に出てきますのは、必ず世代交代を繰り返すというところでしょうか。
頑張ったところで普通のプレイでは、一人のキャラクターは二年二十二か月しか生きることができず、主人公に自分の名前を付けますと、一年ほどで臨終の床を迎えます。
そして、それまでに朱点童子を倒すことまではできますが、「朱点童子」を倒すことはできません。
そのため、自分の意志を継ぐ子孫を残し続け、代を重ねることで家そのものを強化していくことが重要になります。
自分の子供のためにせめてあの武器だけは取りに行こう、そろそろお迎えの来る準備をしなければならないから一つ上位の神と子供を残せるように経験値を稼ごう、などとその先を考えてできることを積み重ねていく楽しみがあります。
まだ子供どころか相方すらいない私ですので、子供のために何かをしようという思いへの共感を確かめることはできておりませんが、子供を授かることの意味を考えさせられる作品ではあると思います。
今の私にとっては部活や仕事で後輩を育てていくことにそれに近いものを感じているのかもしれません。
特に、高校時代は先輩から一人になった部活を受け継ぎ、それを後に残していくことと成果を残していくことを意識していたため中々に無理をしていたところがあります。
「俺屍」の中でしたら、後輩に家出をされていたかもしれません。
それでも、無事に残る母校の活動成績を見ていきますと、本作の最後に得ました安堵感のようなものを覚えることができます。
恐らく、後輩たちは私の名前も姿も知らずに活動しているのでしょうが、私も曾祖父の名前も顔も出てこないためおあいこだなと思う次第です。
本作のシステム上、世代が進むにつれて一家全体の能力が高まっていき、以前は敵わなかった相手を子や孫の世代が打倒していく場面が多々出てきます。
先の母校の話に戻りますと、この話を執筆するにあたり九州大会で最優秀賞を得たという話を知って、何か重なるものを得られたように思います。
その一方で、最終決戦に挑む前の世代にもそれぞれ物語があり、それぞれが死力を尽くして戦うことになります。
初めてのプレイの際には、戦闘での死がそのままキャラクターの喪失、つまり、死に繋がるため慎重にプレイを進めていました。
しかし、いずれ死ぬ景色は見えずではありませんが、何か一つでものその足跡を残せるよう戦うようになりました。
その無理は必ずしも長い目で見れば要るものではありませんが、その世代が精一杯に成してきたことの果てを残させてやりたいというのはわがままが過ぎるのでしょうか。
私も高校時代に精一杯にやり通して残した足跡があるわけですが、それは後輩たちには叶わなくてもその先に進む原動力にはなります。
その機会を奪うことを良しとしないのは、ゲームの中でも今でも変わりません。
さて、本作を語る上でもう一つ欠かせないものとして健康度というものがありますが、戦闘で体力が減ったときだけではなく、フィールドを走り続けただけでも減ってしまいます。
PSPのリメイク版ではこの要素が大幅に縮小されたのですが、齢を重ねた今となっては当時のこの仕様が身に染みるようになってしまいました。
無理をして運動をしてその翌日には顔を出さなくなった筋肉痛や仕事での無理が少しずつ響くようになってきたところなど、こうやって現実の健康度の回復も遅くなっていくのだな、と少しずつ怯えるようになってきました。
まだ三十代にしてこれということはこの先と思ってしまうのですが、恐らく同じことを不惑や還暦でも思うことでしょう。
その時、私に屍を越えさせるような人がいるのかは分かりませんが、それでも何かを残せるように精一杯戦ってみようかと思う次第です。
ちなみに、岸部一徳氏が出演されている本作のコマーシャルは一見の価値があります。
リメイク版と合わせてみた後に残るものが何であるのか、それもまた自分の姿によって変わるのかもしれません。
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