第15話 おべんとうのヒライ
文春オンラインさんの記事で、全国の「ローカル外食チェーン」が紹介されていたのですが、私の住む熊本からは「桂花ラーメン」さんが選ばれていました。
そのこと自体は納得できるものでして、美味しいことは大前提として地元で愛されながら他の県に住む方にも目新しいものとなりますと、いい選択だったのではないでしょうか。
私が生まれた長崎からは「若竹丸」が選ばれていましたが、これも全会一致とはいかないでしょうが、なるほどとは思わせられる選出でした。
ちなみに、私の書いた「徒然なるままに~長崎の晩餐」でもこちらは登場していますので、読んでいただけると幸いです。
うん、途中で宣伝を入れられるほどにはすれた人間に私もなってしまいましたね。
そんな歳を取ってしまった顔をする私に、子供っぽい反撃ののろしを上げさせようとするお店が熊本にはありまして、今日はそのお話をしていきます。
「おべんとうのヒライ」さんは中食用のお惣菜などを販売されている企業で、熊本を中心に店舗を展開されています。
私のルポタージュでも数回登場していただいたのですが、熊本のロードサイドには食堂併設型の店舗が点在していまして、気付けばそこに在るという安心感があります。
逆に、県外へと出かけてから国道沿いを歩いていると、小腹が空いたときに見当たらず思わず苦笑してしまうことが度々あります。
いや、本当にかけそば小に天かすを入れて一味を散らして頂くと、それだけで安心できるんですよ。
三十を過ぎてけち臭いことをと思われるかもしれませんが、かつ丼などを掻っ込む高校生の横でこれをやるとより哀愁が漂うのでオススメです。
やる人があまりいるとは思いませんが。
このヒライで出されるかつ丼には二種類ありまして、かつを煮込んだ「ザ・かつ丼」とかつの軽快な衣を楽しめる「大江戸かつ丼」のいずれにするか悩むのは恒例のこととなっています。
先にいただくものが決まって伺う時にはいいのですが、店に入ってからかつ丼の気分であると気付いた時にはそこから始まる逡巡に長い時間を割くことになります。
たかがかつ丼一つで、と思われるかもしれませんが、その一杯で一日の幸せ指数が変わってしまう以上、手を抜くわけにはいきません。
百を取るか、百十を取るかという差でもあるのですが、そうした人たちのためにわざわざ二種類のかつ丼を準備するお店の心意気に応えるには、こちらもそれなりの覚悟が必要なんですと、お酒を片手に言うと説得力が無くなりますね。
それも日本酒ではなく、ウィスキーソーダです。
ちなみに、昨日の夜は「ザ・かつ丼」に決まりました。
ミニもできましたので、近頃重たいものは……という方も安心ですね。
ヒライさんで提供される商品についてですが、どうしても私の頭には「給食」という言葉が浮かんでしまいます。
これは学校給食という狭い意味ではなく、社員食堂や病院の食事、学生寮や社員寮などまで含んだ「給食業界」を指しています。
このような話をしますのも、私が元々はそうした業界で働いていたからでして、それだけに「出したい食事」と「出せる食事」との間でよく悩んだものです。
限られた食材と調理規定の中でどこまでの味を提供できるのかという命題に対した私は常にその枠に対して悲しい思いを抱くことしかできませんでした。
それを覆したのが、先の二つのかつ丼であり、名物である「山ちゃんラーメン」でした。
黒マー油のとんこつラーメンというのは熊本にて珍しいものではありません。
それこそ、よりおいしお店を探そうと思えば見つかるのが熊本という土地です。
しかし、これだけの味を熊本県内の各地で同じようにいただくことができ、それも気軽に他の食べたいものと一緒に、となれば感動を隠すことができません。
それは自縄自縛で陥った世界からもたらされた自由の陽光でした。
もちろん、他のお店と同じように「山ちゃんチャーハン」をいただくこともできません。
ただ、山ちゃんラーメンを食べるときには、少し悪いことをしましょう。
フライドガーリックを一面に散らした後、天かすをひと掬い。
まさかと思う組み合わせですが、これに紅ショウガを少し乗せていただけるのもヒライさんだからできることです。
おべんとうのヒライと言うだけに、店内での飲食以外にも総菜やお弁当を買い求めて他所でいただくこともできます。
その中でも、ちくわサラダは看板商品と言えるものですが、それ以上に私を悩ませるのが三種類もある唐揚げです。
山盛りになったものをパックに詰めようとするのですが、それまでの逡巡はかつ丼よりも選択肢が多いためどうしても長くなってしまいます。
その間に、他のお惣菜に目が移ってしまって……ということも珍しくはありません。
そして、求めた後に家で広げたときの幸福感はえも言われぬものでして、コンビニやスーパーだけでは得られない満足感があります。
いずれも「ヒライの味」としか形容できないものに何があるのか、そのようなことを考えるよりも先に笑顔になってしまうのがこのお店のいいところなのでしょう。
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