第9話 星のカービィ~スーパーデラックス

「鶴崎くん、今日はスパデラから始めよっか」

「あー、いいね。洞窟が途中だったもんね」

「うんうん。じゃあ、やろう」


 幼気な少年たちが目を輝かせていると、テレビは明るい電子音を流し、やがて星の戦士が駆け抜けていきます。

 そして、


「ダンッ!」


という音と共に三つの「0%」が並び、止まった音楽と共に少年たちの目はまた、一つ年を取るのでした。



 「星のカービィ~スーパーデラックス」は一九九六年にスーパーファミコンで発売されたアクションゲームで、当時の小学生を熱狂の渦に引き込んだHAL研究所の名作の一つです。

 ゲームボーイでは同年にポケットモンスターが発売されており、当時の子供たちは遊ぶゲームに事欠くことが無くなりました。

 しかし、当時はロムカセットを使用していたこともあり、ソフト一本の価格は非常に高価で、私もまた友人の家で遊ばせてもらうことで楽しむばかりでした。

 やがて中古で購入するのですが、それは随分と後の話です。

 ソフト一本の値段が一万円を超えるようでは、お年玉が瞬く間に消えてしまい、場合によってはそれでも手が届きませんでしたので仕方がありません。

 しかし、それは同時に自然と交友関係の広がりの助けとなったようにも思います。

 テレビが珍しかった時代にはそれを持つ人の家に集まったように、持つ者の家に持たざる者が集う。

 そうした光景を平成の世で再度見ることができたというのもこの時代が最後だったのかもしれません。


 このゲームがどれほど子供たちにとって革命的なものであったかと言えば、テレビゲームでは前作が「夢の泉の物語」であったことを思えば驚くばかりのものでした。

 何よりも、二人でプレイができるというのが大きかったように思います。

 それまでのカービーシリーズでは友人宅に集まったところで実際にプレイできるのは一人であり、そうなると交代でプレイすることになります。

 待っている間にガヤを入れることもできますが、どうしても大きく時間が空いてしまいやすい。

 その一方で、二人プレイが可能であればその合間を少なくとも半分にすることができます。

 また、アクションゲームが苦手な私のような者でも一緒にステージを進めることができ、ゲームをクリアするという達成感を味わうことができます。

 実際、所有していたゲームボーイの「カービィ2」よりも先に友人の家でプレイした本作の方が早くクリアに到達したように覚えています。

 「カービィ2」のクリアはその難易度とあいまって中学生のころではなかったかと思います。

 ちなみに、本作の体力回復は食べ物を得ることで行われますが、それを共有する場合には「口移し」が必要となります。

 らしからぬ効果音と目の前で繰り広げられる光景に、初めて目にした時の気まずさは相当なものでした。

 小学生ですので、その後は効果音をまねして楽しんだ訳ですが。

 今にして思えば中々に狂気に映像なのですが、ワドルディとする場合、微笑ましくなるというのはあるあるではないでしょうか。


 大人になってからは、本作を一人でクリアできる程度には成長したのですが、そうなってくるとコンプリートを目指したくなるというのはよくある話かと思います。

 ただ、私自身は先述の通りアクションゲームが得意という訳ではありませんので、そこから他人様のプレイ動画を見てはイメージトレーニングをして失敗するということを繰り返すようになりました。

 こうした動画には前提条件としてそれなりに上手であるという条件があることを忘れてしまい、同じことを遣ろうと背伸びをした身の程知らずにはいい罰ではなかったかと思います。

 それでも、繰り返していくことでそれなりに形にはなっていくものでして、当時は金銭的にも力量的にも果たせなかったコンプリートに至ることができました。

 ただ、それを果たした瞬間に在った達成感は、果たして当時友人と一緒に味わったものと同じであったかと言われれば、自信を持って答えることはできません。

 画面の向こうに映るカービィは一人、変わらない表情を浮かべて佇んでいます。


 こうした動画を巡るうちに辿り着いたのは、リアルタイムアタックでした。

 私自身がそこへ身を投じるようなことはなかったのですが、それでも、それぞれのプレイヤーが自身の限界に挑んでいく姿というのはスポーツとして見ていても人生訓として見ていても愉しいものです。

 これが今ではeスポーツとして市民権を得ようとしていますが、それに対して私は祝福を以って迎えています。

 その一方で、そうした競技化による敷居の高さが残らないだろうかという心配がどこかに浮かんでくるような思いもします。

 しかし、そうした心配を打ち払うかのように、カービィの後ろに従うヘルパーのぎこちない動きが思い浮かび、どこかで大丈夫だろうという思いにさせられます。

 流石に、今のご時世で集まってプレイをするというのは難しいのかもしれませんが、そうした空間の壁を飛び越えてプレイができる環境もある今、本作の魅力はより輝くのかもしれません。

 ネットワーク通信可能な移植が成されないだろうかと願うのは、あまりにもおじさんに傾き過ぎているのかもしれませんね。

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