第2話 ドラゴンクエストⅢ~そして伝説へ

 私が初めて触れたゲームはこのドラクエⅢでして、私がスーパーファミコンを手にしたきっかけもまたこの作品でした。ただ、私の生まれは昭和六二年で、ファミコン版のドラクエⅢを始めたのは小学校に入ってから。実際にプレイしたのは発売から一〇年ほど経ってからです。まわりで他に同じゲームをしている友達なんていませんでした。それでも、親戚からもらった中古のファミコンとカセットでのめり込むようにしてやり続けました。


 このゲームの最大の特徴はよくその自由度の高さが言われますが、それ以上にバグを起こしてたくさんのセーブデータが消えていった方が強く記憶に残っています。初めてのダンジョンの「ナジミの塔」で振動を感じたファミコンが止まり、そのままセーブデータが天に召されるのは何度も味わいました。ピラミッドの地下から黄金の爪を苦労して回収した翌日に、呪いの音楽がゲームスタート前に流れたこともあります。一番きつかったのは、魔王である「バラモス城」に攻め込むぞという段になってセーブデータが奇襲を受けてそのデータだけ消えたこともありました。あまりにも続くフリーズとセーブデータの消失にキレた姉が、

「廃棄処分にするぞ」

とファミコン相手にすごんでいました。この時、私は「ハイキショブン」という言葉を覚えたものです。


 多くの勇者が夢破れて消えていく中、私は何度も挑み続けてきたのですが、やはりそこには二度と存在しない物語があったからこそ引き込まれたのだと思います。呪文を覚えるタイミングも能力の増え方も回数を重ねても全く同じということはなく、回を重ねるたびに戦い方や進め方の発見があって本当に飽きがきませんでした。これが初めて出会ったRPGであったことに、今でも感謝しています。


 そして、このタイトルがスーパーファミコンでリメイクされることになり、それをVジャンプで見かけた私は初めて懸賞に応募しました。全国で千本のプレゼントということで、親も当たらないだろうと、

「当たったら、スーファミを買ってあげる」

と啖呵を切ったものですからさあ大変。見事に当たった私は母を連れてゲーム屋へ行き、ほくほく顔で真新しいゲーム機を買ってもらいました。


 そこから新しい物語が始まるのですが、ドラクエⅢはキャラクターメイキングからスタートするため、ここで主人公の名前に悩みました。子供らしく自分を主人公にすればよかったのですが、自分が世界を救う勇者などとんでもないと思っていたようです。そもそも、私の父は酔ってバスの段差を踏み外しても火山に落ちて死ぬような人ではありませんでしたし、母も夜遅くなれば心配して外で待つよりも先に寝てしまうような人でした。そういえば、カクレンジャーごっこをする時にも、私はリーダーのレッドよりもケイン・コスギさんのブラックばかりをやっていたように思います。そこで、当時話をすることの多かった子たちの名前を借りて、私は僧侶になることを選びます。性格は「きれもの」だそうです。ステータス上仕方のないことですが、どちらかといえば「なまけもの」あたりがぴったりだったように思います。そして、この名前のまま友だちを家に呼んでしまい、女武闘家の名前を見られて冷やかされたのを今でも覚えています。当時、ひそかに好きだった女の子の名前だったのです。


 忍ぶれど キャラに出にけり 我が恋は こいつ好きかと 友の問うまで


 さて、冗談のような本歌取りは置いておきまして、実際の冒険の方はまずファミコンにはなかった滝の前での性格診断から始まります。この時点でプロローグの雄大さと、美麗なドット絵に度肝を抜かれていましたが、追い打ちをかけたのは勇者がいきなり魔物になってしまったことでした。


 井戸を前に逃げていく村人と、挑みかかってくるマッチョマン。この男性がからんでくるため、どこへ行くこともできません。口から炎が出ます。そうなると、やるべきことは一つしかないなと気付くわけですが、やるまでには少し悩みました。ひよこまんじゅうを食べるのを怖がる子供だったので、仕方がありません。そして、焦がされていく男性を眺めながら、ごめんなさいと言いつつ村の外に出てみれば、下された性格診断は「ごうけつ」。よっぽど魔物に立ち向かってきたマッチョマンの方がそうだよなあ、と思いながら冒険を進めたのを今でもよく覚えています。私なら逃げるか腰を抜かしていて燃やされるでしょうね。


 感動したのは、不死鳥ラーミアの背に乗ったときに流れる「おおぞらをとぶ」の優雅さと、勇者の父であるオルテガ最後の戦いが、きちんと専用グラフィックで描かれたことです。ファミコン版では、覆面マスクをかぶったパンツ一丁のマッチョマンでした。もっと言ってしまえば「さつじんき」と同じグラフィックでした。一人殺せば犯罪者で、一万人殺せば英雄だという皮肉だったのでしょうか。


 そして、新しい要素である隠しダンジョンを登りきると、そこには「しんりゅう」が待っていたのですが、見た瞬間にシェンロンだなと思ったのはお約束です。この強敵を倒した後に、どのような願いを叶えるのかと問われるのですが、ここはひとしきり悩みました。なお、その選択肢はこの三つです。


・父(オルテガ)を生き返らせてほしい

・新しいすごろく場で遊びたい

・えっちな本が読みたい


 この中からどれを選んだのかは秘密ですが、気が付けば私の性格が「むっつりスケベ」に代わっていたことを付け加えておきます。


 このように、セーブデータが消える恐れもなく伸び伸びと遊んだスーファミ版のドラクエⅢでしたが、やがてその遊び方は楽にクリアしようというものから縛りを加えてのプレイに変わっていきました。それはちょうど、旧作の「辻杜先生の奴隷日記」を書き上げた頃で、自分の立ち位置がなんとなく見えてきた頃でもありました。今でもプレイをすることがありますが、その名前は私が生み出してきたキャラクターたちに変わっています。二十年以上が経っても色あせない思い出のように、画面の向こうの世界が活き活きとしている本作は、本当の名作でないでしょうか。

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