cinq

 屈強な身体つきをした青年が三人、嘲笑ちょうしょうを浮かべていたかと思うと、小さな石を、あの十九歳の隊員のひとり――アバメへと投げつけた。


 アバメの足下に落ちた小石は、二回、三回と跳ねて、すねを打った。カッときたアバメは、怒鳴り声をあげながら彼らのもとへと詰め寄った。しかし彼らは物怖ものおじもせずに応戦して、激しい口論の火蓋ひぶたが切られた。


「もっとやれ!」「ぶっ飛ばせ!」といったヤジが、大衆から飛びいはじめた。


 アバメの理性のネジは高速にスピンして飛んでいってしまった。の光を反射させた銃口を青年たちに向けたアバメは、彼らを撃つことにためらいを感じさせないほどの形相ぎょうそうをしていた。


 このままでは本当に発砲してしまう。乱射によって大勢の人々が負傷し、犠牲になるかもしれない。そう判断したジャリマナは、ためらわずにアバメに突進し、そのまま地面に押さえつけた。


 パニックに陥っているアバメは、下からジャリマナを蹴ったり殴ったりしてねのけようとした。ジャリマナがアバメの身動きを封じているうちに、ンバマリナは近くに落ちていた銃を遠くに蹴飛ばした。


 隊長のアバンダをはじめ他の隊員たちは、騒然としている大衆に後ろに下がるよう指示しながら、罵声を浴び続けていた。


 ようやく落ち着いてきたアバメは、ぜいぜいと大きな息をはきながら、決壊した河川のように涙をあふれさせた。


 上層部はこの一件を連合本部に報告するかどうかで頭を悩ませたが、そんな議論をするまでもなく、翌日には、この国の新聞の一面に並べられてしまった。


「反政府武装勢力 停戦協定の違反」という見出しの記事と同じ一面のすみに。

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