Au revoir(?)

 この日は少女の方が先に来ていた。バイクを少女のかたわらに停めて、影を落としてあげた。夕陽が溶解しそうなほどに燃えている。その分、影は涼しく感じられた。


 ジャリマナは赤色の包装のビスケットを差し出したが、少女はそれをなかなか受けとろうとはしなかった。


 思えばこの熱さの中で、のどかわかしてしまうお菓子は相応ふさわしくないのかもしれない。


 だったら持ち帰って食べたらいいと、ジャリマナは無理やりビスケットを持たせようとしたが、少女は激しく嫌がった。


 少女は大きな声で泣き出してしまった。


 ジャリマナは気づいた。


 たれたのかたたかれたのか、それとも焼かれたのか、彼女の手の甲から二の腕に至るまでの、真っ赤なれ。


 どこからこのお菓子を持ってきたの、盗んだんじゃないの、はやく返してきなさい、謝りにいきなさい、違う違うってなにが違うの!――少女の母親の怒鳴り声が聞こえてくるような気がした。


 は、はからずも少女を陰惨いんさんな目にあわせていたのだ。


 村の前に着いた。


 少女はバイクから飛び降りると、のドロップの空き缶をジャリマナに押しつけた。それはへこみきっていた。


 ジャリマナは少女を抱きしめた。


 ――――大丈夫だよ

 ――――もう

 ――――お菓子をもってこないからね


 ――――痛かっただろう

 ――――大人になったら家を飛び出して

 ――――幸福に暮らすんだよ


 ジャリマナののどはどんどん熱くなっていった。


 少女はジャリマナの肩の向こうの、軽自動車のヘッドライトを見つめていた。


 そして車から、迷彩服を着た男たちが降りてきた。


 ――――幸福を追い求めるんだ


 ――――絶望なんて

 ――――ないはずなんだ


 それは、ジャリマナが自分自身に向けてく言葉でもあった。


 ――――絶望に

 ――――があるんだ


 ジャリマナの両腕は四本の手によってわしづかみにされた。

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