neuf

 ジャリマナはもうひとりの隊員と共に、W地区のL通りを見回っていた。顔が平べったいこのバンバという若者は、ジャリマナとの仕事ではほとんど無口だった。


 L通りには商店がいくつも並び、飲食店も散在しているため、にぎやかに


 裏返した木の箱に座った青年たちが半円を作り、劣悪な煙草を吸っている。建物のすき間で、二人組の男が、道行くひとびとをじろじろと見ている。武装したジャリマナたちに向かって中指を立てて走り去っていく子どももいる。


 食品、工具、雑貨品に、果ては大型家具などを取り扱う、もう何屋なのだかわからない商店があった。


 大きな花弁かべんがいくつも描かれた服を着ている女性のふもとに、赤色のTシャツを着たサンダルも少年がいた。


 十五歳くらいの少年。彼は店主が後ろを向いたすきを見て、コンドームを数個つかんで、ボロボロのズボンのポケットに入れた。


 バンバは、一歩足を踏み出したジャリマナの右肩を強く引っ張った。


「あれは少なくとも俺たちの役目じゃない。警察かおせっかいな大人に任せとけ。警察なんてほとんどいないにも等しいくらいだがな。とにかく俺たちは見て見ぬふりだ。いくぞ」


 あの少年のこころの寂寞せきばくを思えば、見逃してもいいのかもしれない。しかしいま犯した窃盗のために、彼の未来が晴れていくとは思えない。


「あれもこれも治安が悪いせいなんだよ。だから俺たちの治安維持の仕事は、どんどんあんな少年を減らせるんだ。前向きに考えろよ」


 違う。治安が悪いのが


 諸悪の根源は差別、言い換えるなら線引き。すべてのコトやモノを敵と味方に分別しないと気が済まないという、短絡的な思考だ。その思考の帰結はこうだ。


 

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