huit

 この日は眠れなかった。あの少女との交流を重ねれば、ンバマリナの警告通りに本国帰りになるだろう。あのまわしき祖国へと。


   ――――――


 オレンジ色の夕焼けに、血のような朱色が混ざり、紫色の布がかけられてゆくまで、あの場所でジャリマナが来るのを待ち続ける少女の姿。


   ――――――


 ガラスが粉々に散らばったかのような星空だった。


 眠れないまま明け方になり、このまま一睡もできないと観念したジャリマナは、霧に包まれた駐屯地でランニングを始めた。


 朝の白色の光は霧のしずくで七色に変化して、ジャリマナの身をきらびやかに包みこんだ。吸いこんだ空気は冷たくて、鼻の奥から脳にかけてしびれが広がった。後ろに伸びた黒い影が、ジャリマナに追いつくことはなかった。


 ジャリマナは、ジャムを塗ったパンをかじりながら、新聞を読んでいた。


 「土地の所有権 深刻な問題に」「難民キャンプ 反政府武装勢力の拠点化」「×××理事会理事長 懸念を表明」「△△国の援助物資 Z空港へ」


 まるでこれらの出来事が同時に起きたかのように、記事が一面に並べられていた。


 ジャリマナはさめたミルクを飲みほしてしまうと、新聞をスタンドに戻して、更衣室へと向かった。入れ違いになったンバマリナは、「早いな」と笑って、陽気な調子でジャリマナの左肩を叩いた。


 その後ろにはアバンダがいた。

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