trois
あのとき、ジャリマナはまだ六歳だった。それでも親から与えられる愛とそれへの応答のほかに、別の愛のようなものがあるということを感じていた。
親との間にしかないはずの愛が、友達という線引きを侵犯し、変質し、先鋭化していく。いずれは撤退するが、
ジャリマナは彼女に言った。
彼女は黙ってうつむいてしまった。
――――――
《
――――――
彼女の身体には何度も何度も斧が振り下ろされた。斧を握っていたのは、ジャリマナの父親だった。金品を強奪していたのは母親だった。彼女の妹に暴力をふるっていたのは兄だった。
村のあちこちで炎があがり煙は充満し、けたたましい怒号と悲鳴が
――――――
内戦はすべての繋がりの糸を切り刻んで
内戦後、ジャリマナの両親は投獄され、彼は親戚の下へと引き取られた。そしてその親戚も刑に処されることが決まると、その知人へと身も心も運ばれていった。
ジャリマナに彼女を護る力があれば、物事の帰結はどうなっていたのだろうか。自分の父をためらいなく石で殴り、母をまばたきもせずにナイフで刺し、兄を考える間もなく
彼女をとるか、家族をとるか。
両翼がなければ天使は飛べないだろうが、人間は地上にしかいられないのだから片方の翼をちぎってしまってもいい。だとしたらどちらの翼を切り捨てればよかったのだろうか。
しかし、長い年月をかけてジャリマナが出した結論はどちらでもなかった。
正義とは、
目の前で腹を空かせているのがだれであれ、負傷しているのがだれであれ、凍えているのがだれであれ、それがたとえ自分と
助けなければならないという理念だけが、選択権より優先される。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます