第八話「私が本気を出せば全競技で超高校級!」
「君が一年生の愛朔さんだよねー? 噂は聞いてるよ~。すごい運動神経なんだって。よかったらさ、女子バスケ部入らない?」
とある日の昼休み、廊下で充電のためしゃがんでいた私を上級生が部活に誘ってきました。
この誘いを私は丁重にお断りし、上級生は渋々自分の教室へと戻って行きました。しかし、その際にも「気が変わったら言ってね」と未練を滲ませており、私は自分の価値に気付いてしまったのです。
「……そうでした、私が本気を出せば全競技で超高校級! 強くてニューゲームを地で行く私には無限の可能性が秘められているのでしたっ!」
震える自分の両手の平を見つめながら、高ぶる気持ちをつい言葉にしてしまう私。
――そう、ロボットである私が部活に入れば即最強戦力。すでに体育の授業でその力の一端を垣間見せているのです、各部活の勧誘が黙っていないのは必然でした。
ちなみに体育の授業ではあくまで人並み程度の出力で運動しています。本気を出せばF1レースにまさかの生身参戦も可能なのですが、そこは自重。しかし、人間レベルではトップクラスの力は見せつけて授業を受けています。
……ええ、そうなのです。私、ロボバレしてはいけない事情を抱えているのですが、とにかく他人に褒められたり尊敬されるのが気持ちよくて仕方ないので目立つ力の使い方を平気でしています。
ロボとしての力を人間のフリして発揮するのが好きなのです。
「そんなわけで愛朔さんは部活に入って『私TUEEEEEEEEE‼‼』をやることに決めたのでした」
「勝手に私の心の声を完結させないで下さい。あといつからいたのですか、姫崎さん」
気付けば私の隣で同じようにしゃがんでいた姫崎さん。
教室で女子グループと仲良くお弁当を食べていたのを確認してここまでやってきたのに、どうしてその輪を抜けて私を所にくるのでしょうか……?
「いつからいたのかって? そりゃもう愛朔さんが『姫崎さんもいないことですし、思う存分充電できますね。ひゃほーい!』って言ってるところからだよ」
「そんな前からいたのかよ、系のネタはきちんと公開されている会話文の範囲で行ってもらわないと成立しませんよ。あと、ひゃほーいとか言ってません」
まぁ、言ったんですけど。
「――で、愛朔さん部活入るの?」
「どうしましょうかね。先ほど誘われたバスケ部でもいいですが、部活見学して決めるのもいいですね。部活を始めるのには前向きです」
「そうなんだ? 私は帰宅部かなぁ。やりたい部活もないし」
「意外ですね。何かやかましそうな部活に入るタイプとばかり思ってましたが」
「やかましそうって何なの……」
ジト目でこちらを見つめる姫崎さんは無視するとして――今日の放課後、さっそく部活見学に行ってみるとしましょう!
「でもまぁ、何となく愛朔さんはどの部活にも所属せず終わる気がするけどね」
「何ですか、所属できる部活がないとでも!?」
○
「――王手!」
電卓やキーボードを「ターンッ!」とやるみたいに駒を盤上に叩き付ける私。
すごい! まるで漫画みたい!
――というわけで、早速放課後になって私が部活見学にやってきたのは将棋部です。搭載されているAIの力で無双できる場所としてこれ以上はないでしょう。
将棋部の部室、畳の上で一切苦痛の表情を浮かべることなく正座を続ける私は周囲で息を飲んで見守る部員達、そして対局相手の部長のぐぬぬという表情を見てたまらなくなります。
――あぁ! 誰かを圧倒するこの感覚、たまらないですっ!
将棋部を訪ねていきなり部長を対局相手に指名。そこからAIによる最適解を早指ししてまるで赤子の手をひねるように圧倒的優勢を築いた私。コンピュータ将棋はプロにさえ勝ち得る最強頭脳ですので、高校生のレベルでは太刀打ちできません。
そして、早指しによって相手が受けるプレッシャーも相当なもの。
早くも部員達からは畏怖と尊敬の眼差しが私に向けられています。
私の王手に対し、何とか回答を出して駒を進めた部長。
しかし、私のAIはその一手に対する次の動きが算出されており――、
「またしても王手! くぅ~、圧倒的ィ!」
あまりの気持ちよさに思わず余計なセリフまで漏れ出す始末。
間髪入れない私の駒を置くパチという音に最早皆が戦慄しています。
……でも運が良いですよ。私という最強棋士の爆誕、その瞬間に立ち会えたのですから。
そこから程なくして部長は投了を宣言。私は持ってもいない扇子を仰ぐ動作をするも――勝利に酔いしれてはいませんでした。
……何でしょう、この虚しさは。
赤子の手をひねる、という表現をしました。実際に赤子の手を捻って面白いと感じることはないでしょう。まさにその感じ。勝って当たり前の勝負をこなしたせいか、達成感がないのです。
なんか思ってたのと違う……。
首を傾げながら、私は入部を考えさせてもらうと言って部室を出ました。皆、呆気に取られており私を強く勧誘する人はいませんでした。
○
「――ふふ、聞いていただけましたか、神の旋律。あまりの超絶技巧と表現力に声も出ないようですね」
リコーダーで参戦した吹奏楽部も駄目でした。
精密作業も難なくこなす指先で怒涛の速吹きを繰り出した私。
しかし、面白くないのです。
「――この味勝負、私の勝ちみたいですね。料理漫画の必勝パターン『料理の後出し』をさせてあげたのにも関わらず、私には及びませんでしたね」
調理部も駄目でした。
味など全く分かりませんが、脳内検索によるクッ○パッドが強すぎました。
これもやはり面白くなく、
「――誰だってのんびりやれば名画が描けます。速さこそ至高。速い、安い、上手い。……なんか、牛丼チェーンのようですが、これが私のモットーですので」
美術部も駄目でした。
精密さにおいて人間では及ばない領域にある私に向かうところ敵なしでした。あの美術部には2Bの鉛筆でゴリゴリと描いた阿○寛の肖像画が未来永劫飾られ続けることでしょう。
――というわけで他は省略しますが、文科系の部活は全滅。一つだけロボット研究会なる部がありましたが、そこは何やら嫌な予感がしたのでスルーしました。
運動部は行くまでなく他を圧倒することが分かっているので、結局所属した部活を見つけられることなく――翌日、私は姫崎さんの予想的中にちょっとムカつきながら登校してきました。
するとニマニマした表情で姫崎さんが寄ってきます。
「あれれー、愛朔さん。早速部活の朝練があったりしないのかな?」
「嫌味な言い方ですね。……結局、どこの部活にも所属しなかったんですよ」
「あは。ほらー、私の言ったとおりになった!」
「言っておきますが、私に合う部活がなかっただけですからね!?」
まるでは仕事をしない人間の言い訳みたいな発言。
言っていて少し恥ずかしくなり、私は姫崎さんから目線を逸らします。
「いや、でもそのとおりじゃない? 愛朔さんはロボットなんだからオーバーパワー過ぎて楽しめる部活なんてきっとないと思ったよ」
「な、何ですと!? まさか姫崎さん、それが分かっていて私を泳がせたのですか!?」
「どうだろうねー? でも、また自分でロボ疑惑を深めちゃったんじゃない?」
「は、謀りましたね――!?」
姫崎さんが私にロボ疑惑をかけ、私がクールに対応するいつもの光景。
流石にこの瞬間には私も少々の苦戦――の後、論破した達成感を得ていると言えるでしょう。
つまり、部活などに頼らなくても日常に確かな充実があるわけですか。
なら、部活に所属する必要は――ないのですね!
って、こんなオチ認められるわけないでしょう――――!
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