第三話「その程度で私が喜ぶと思いましたか?」
「今日は色々と愛朔さんの興味をそそるようなものを持ってきたから見て欲しいんだよね。どうせ昼休みだからってお弁当食べないんでしょ?」
「ロボットだから飯は食わないと決めつけていますね? 言っておきますが私ダイエット中ですから。食べないのにも理由があるのです!」
wi-fi事件から数日後の昼休み、教室にて。姫崎さんは学食にでも行っていると思われる前の席の子の椅子を借り、私と向き合うように座りました。
そして、意地悪な笑みを浮かべてこちらを見つめる姫崎さん。
「あれれ~? 一言もロボットだからとは言ってないけど~?」
「むむ。何が言いたいのでしょう?」
「私はてっきり愛朔さんが言ったとおり『ダイエットしてるからお弁当食べないんでしょ?』って思っただけなんだけど」
何やら早とちりによって揚げ足を取られた気がする私。
とりあえずここは冷静に対処を。
「は、は、は、謀りましたね!? くそうっ! あなたは毎度そう姑息な手を……! しかし、姫崎さんの目には私がダイエットの必要な体型に見えるのですか!?」
「え、違うかな?」
「わ、私のような完璧なスタイルの人間に、だ、ダイエットが必要なわけないでしょう!」
「自覚してるんだ……。でもなら、どうしてお弁当を食べないのかな? ダイエットは自分で否定しちゃったよ?」
わざとらしく上を見上げて首を傾げる姫崎さん。
先ほどと同じように落ち着いて言葉を発していきましょう。
「ま、ま、またもや謀りましたね! 本当に誘導して罠にはめるのが得意な人です。いい加減そろそろ策士、策に溺れなさい!」
「いや、策というか……最早セキュリティガバガバ過ぎて一種のフリなのかと思ったんだけど……。熱湯風呂の『押すなよ』みたいな感じで」
私の言葉に圧倒されたのか追撃を止めた姫崎さん。表情にどこか呆れたものを浮かべていますが、それほど自分を卑下する必要はないと思います。
「でさ、愛朔さんが引き戸についたてレベルのセキュリティなもんだからついつい話が脱線しちゃったけど」
「私のせい!?」
「今日はロボットであろう愛朔さんが反応しそうなものは何かなって考えて持ってきたんだよ」
「もっとマシなことに時間を使って下さい」
私の指摘などどこ吹く風。ノリノリで鼻歌さえ歌いながら肩にかけていたスクールバッグを膝上に置いてガサゴソと中を探り始める姫崎さん。
そして取り出したものを机の上にコトと置きます。
「じゃあ、一個目。じゃんじゃじゃーん、乾電池~!」
「……完全にナメてますよね。その程度で私が喜ぶと思いましたか?」
「飯テロのつもりなんだけど」
「たった一本じゃないですか」
分かっていないとばかりに肩をすくめる私。
すると姫崎さんはジト目でこちらを見ます。
「え、何その複数本あったら反応は変わる、みたいな言い方は」
「むっ! ご、語弊がありましたね……何本あろうと私は無反応ですよ。いや、ほんと」
「えー!? でも、単一だよ? 一番大きいよ?」
「大きさは関係ないですよ」
「マンガンじゃなくてアルカリだよ?」
「そこは評価します」
私の体が電気で動いているせいか、電気を供給する道具である電池は食べ物に見えてしまいます。実際には食べないのですけど。
「ちなみに汎用性で大きく単三、単四に劣るので単一の評価は私の中では低いです」
「でも私的に唯一投げたら武器になるラインだから単一の評価は高いけどなぁ~」
「どんな状況で武器にするんですか。あと単二もそこそこ攻撃力ありますよ。あ、単二ってどういった家電に使うんでしょうね。思いませんか?」
渾身の電池あるあるを繰り出したつもりでしたがどうも姫崎さんにはウケず、次のアイテムを取り出すべくカバンを探っていました。
「次はこれだよ~、じゃんじゃじゃーん! 電動ドライバー!」
「な、なんでそんなゴリゴリな外見のアイテムが女子高生のカバンに入ってるんですか!」
姫崎さんが取り出したのは彼女の顔くらいある巨大な電動ドライバー。銃のような形をしたそれは見るからに物騒です。
……何故そんな業務用感溢れるものを。
「どう? これ見たら『解体されちゃう~!』ってならない?」
「あ、そういう意味ですか。私にとっての凶器だと言いたいんですね。残念ながら私の体は全面きちんと皮膚で覆われてますからネジ穴なんてありません。悪いですが何も感じませんね」
「おやおや~? 普通の人間が皮膚で覆われているなんて言うかな~?」
「むぐぐ、謀りま――って、そりゃあ人間は皮膚に覆われているでしょう!」
「あ、流石にここは引っかからないか~」
「やっぱり謀ってましたか! 呼吸をするように仕掛けてきますね」
残念そうな表情を浮かべる姫崎さんに対して、私はクールにポーカーフェイス。
しかし、さっきのは上手く回避しましたねぇ!
「なんでニヤニヤしてるの?」
「してませんが」
「そう? まぁいいや、最後のアイテム出していい?」
「どうぞ。何を出そうと私の心は動かないですけどね」
私の言葉にカバンをガサゴソしながら「次のはパンチ弱いんだよね」と呟く姫崎さん。
しかし――、
「じゃんじゃじゃーん! 需要がよく分からない謎のお菓子、ユーチ○ーバーチップス~!」
「な、何ですとぉー!? すごーい! そんな夢のようなアイテムが存在するのですか!?」
私は思わず机から身を乗り出して夢のアイテムの登場に反応してしまいます。
予想しない反応だったのか、姫崎さんは若干引き気味の表情。
「え、何その反応は。ネタ切れだったから家にあったお菓子適当に持ってきただけなんだけど」
「見たところそのお菓子にはユー○ューバーのカードがついているようですね。ヒ○キンはあるんですか!? ヒカ○ンは!」
「愛朔さん、○カキン見てるの?」
「ええ。あの人、正直私は世界で一番面白い人だと思っています」
「そうなんだ……。そりゃヒカキ○はあるよ。あの人、ビ○ズでいえばウルトラソ○ルじゃん」
「……? 例えはよく分かりませんが素晴らしいですね! で、もしかしてそれを私にくれるんですか!?」
「あげてもいいけど……でも、条件があるかな」
「条件……なんでしょうか?」
私の問いかけに姫崎さんはにやりと笑い、そしてチップスの袋を開封します。
「おまけはちゃんとお菓子を食べた人だけが手に入れられるの。だから一緒に中身を食べてくれたらカードもあげるよ?」
そう言って開いた袋の口をこちらに向けてくる姫崎さん。
私は思わず表情をしかめてしまいます。
……そう、ロボットである私は人間の食べ物を口にすることができないのです。
チップスに手を伸ばさずじっとしている私に、姫崎さんは意地悪な笑みを浮かべます。
「あれれ、食べられないのー? やっぱりロボットじゃん」
「ち、違いますよ! えーっと……その、アレです! ダイエット中なので食べられないのです」
「え、さっきそれは嘘だって」
「あ、そうでした! おのれ、謀りましたね!」
「いや、勝手に自爆したんじゃん」
――結局、チップスが食べられないのでカードは我慢することに。
私に人間の食べ物を口に運べる機能があれば……そうすればカードが手に入っていたはず。そもそも食べ物を口にできなければ怪しまれますし、これはジジイに相談してみる価値ありですね!
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