第四話「告白を使い回さないで下さい!」

「じゃあね、愛朔さん。また明日……と、その前にユーチュー○ーチップスのカードはあげるよ」

「本当ですか!? チップスを一枚も食べていないのに!?」

「いいの、いいの。どうせ私は興味ないんだし」


 ――放課後、校門にて。


 姫崎さんは未開封のおまけカードを渡し、私とは違った方角へと歩んでいきました。


 電車通学なので駅へと向かうのでしょう。帰り道まで私と同じ方角だとそこでもロボ検証されるので幸いです。


 ……さて、カードが手に入ってしまいました!

 うれしい! ヒカ○ン出ないかな!?


 中が見えないよう銀色の袋に包まれているカードをさっそく開封していきます。


「んんっ!? ……あぁ、セ○キンの方ですか。あまり見ないんですよね、セイ○ン」


 セイキ○には申し訳ないですが、少し残念な気持ちになってしまいます。


 魅力的なのですが、どうも片方が強すぎるというか。親からポ○モンのソフトを買ってもらったけど、それが緑バージョンだったみたいな?


 そういう残念気分が私の中で渦巻いていました。


「まぁ、悪くはないです。……しかし、ユーチュー○ーチップスですか。帰りにスーパーマーケットでありったけ買い込むのもいいですね。ジジイから金をもらったところですし」


 お小遣いの名目は交際費ですので、買い物袋の中身を知られれば文句を言われそうなもの。しかし、先日メントスコーラで処刑しましたので、私の買い物袋にビビって何も言わない可能性だってあります。


 となれば、早速寄り道をすることにしましょう。

 スーパーマーケットへと向かうべく歩み出そうとした時――、


「やあ、愛朔さん。もしかしなくても帰るところだよね?」

「おや、あなたは……確かクラスメイトの玉出くんですか」


 呼びかけられた声に反応して振り返ると、そこにいたのは男子生徒。

 クラスメイトの玉出くん。


 整った顔立ち、すらりと高い背のおかげで女子ウケがよく明らかにモテるタイプの男子生徒。姫崎さんと双璧を成すウチのクラスの人気者と言えるでしょう。


「あ、覚えててくれたんだ。嬉しいなぁ」

「忘れるはずはありませんよ。入学当日の自己紹介にて『人を笑わせること』というお笑い芸人として大成功間違いなしの特技を宣言し、それ以降皆から発言を注目されるクラスの中心人物、玉出くんですよね?」

「あはは、嫌な覚え方してるなぁ……まぁ、いいんだけどね」


 困った表情をしつつも爽やかに私の嫌味を受け止める玉出くん。クラスでもジャ○ーズ系と評判のイケメンっぷりが滲み出ているようです。


 しかし、実はそんな彼は致命的なものを抱えていて――、


「で、玉出くん。何か私に用があるのでしょうか?」

「用ってほどじゃないんだけど……よかったら一緒に帰らない? 俺、愛朔さんとちゃんと話したかったんだよね。この前のお礼もきちんとできてない感じだしさ」

「この前のお礼……あぁ、お笑いのハードルが上がった状態、爆笑を勝ち取らなければならないピンチを打開すべく教室でバク転を披露した結果、背後の窓が開いていたので死にかけたんでしたね」


 単純な話、彼は頭が弱いのです。アホなのです。

 ……ジャ○ーズ系だからといって命がけでバク転しなくていいでしょうに。


「そうそう。それを愛朔さんに助けてもらったんだよね。ウチのクラスって三階だから落ちたら死んでたよ。黒板側の窓から落ちたのに後ろの席にいるはずの愛朔さんどうやって駆けつけたのかなとは思ったけど……とりあえずありがとう!」


 快活な笑みでお礼を述べる玉出くん。本来なら「礼には及びません」と返してそそくさと去る場面――なのですが、余計な感想が不随していましたね。

 

「……玉出くん。あなたは遠くから駆けつけた私に対して何か思いませんでしたか? 変わっていると感じた部分はないかという意味です」


 少し迷いましたが思い切って問いかけることに。


 ……そう、私はダイナミックスーサイドで窓から飛び降りた玉出くんを救出するべくロボットとしての身体能力を発揮。高速移動で駆けつけたわけですが……それを彼はどう思っているのか。


 姫崎さんのようにロボ疑惑を抱いていないか?


 そう思ったのですが、玉出くんは思案顔を浮かべて首を傾げた後――、


「うーん、愛朔さんって力持ちなんだなと思ったくらいかな。明らかに片手で僕の体を掴んでたもんね。鍛えてるの?」

「……鍛えてああなると言って信じてくれるなら私は首肯しますが」

「そうなんだ! 凄いね、ナイスバルクだよ!」

「窓際でバク転するあなたの方が凄いですよ。そして、綺麗に窓枠をくぐっちゃう方が」


 どうやら私をロボットだとは微塵も思っていないようで、筋肉キャラとして認識してくれた玉出くん。皆が彼のような感じだったらロボバレしなくていいんですけど……。


 いや、全人類が彼のようだったら秒で滅亡しますか。


 ――さて、会話のラリーを行ってしまったためなし崩し的に私と玉出くんは一緒の帰り道を歩むことになってしまいました。


「とりあえず例の件でのお礼は確かに受け取りました。ですが、それとは別に私と話したそうにしていましたね。具体的にはどんな話題でしょうか?」


 並んで学校から歩き出し、校門から街へと至る坂道を降りていく私と玉出くん。


「そうだったね、本題に入らせてもらおうかな。まどろっこしいのもよくないしはっきり言うね」

「はい、どうぞ」

「俺さ前に助けられてから愛朔さんのことを結構意識するようになってさ。だから――」


 玉出くんはそこまでを言い、私を壁に追いやって手を突く――俗に言う壁ドンでこちらに熱い視線を向けてきます。


 しかし、進行方向とは逆側を壁ドンしたため、私は阻まれることなく歩んでいるままその場を去ってしまいます。


 そして、背後から聞こえてくる決死の告白。



「俺、愛朔さんのことが好きだ! 付き合って欲しい!」



 知らないお宅の壁に告白する玉出くん。

 これはまた随分と奇特な趣味をお持ちのようで。


「……ん!? もしかして壁ドンの勢いが強すぎたのか!?」


 どうやら告白の最中、目を閉じていたらしい玉出くん。目を開けると視界にはドンした壁しかないものですからパニックになったようですね。


 私は嘆息して振り返り、玉出くんに歩み寄ります。


「……勢いよく壁ドンして私がめり込んだとでも思いましたか」

「あぁ、愛朔さん! いるじゃないか。えーっと、とりあえずさっき言ったような感じなんで」

「壁に対してぶつけた告白を使い回さないで下さい!」


 ただ壁に手を突いているだけの人から雑に告白された私。道を通せんぼしている形になるので下校する生徒が迷惑そうに腕の下を潜っていきます。


「……正直、私は今玉出くんと付き合おうという気はありません」

「他に好きな人がいるのか? ……そういうことなのか!?」

「好きな人、ですか……強いて言えばヒカ○ンですかね?」

「ヒ○キン!? セイ○ンの弟のヒカキ○かい!?」

「そうです。……あなた、セイ○ンを軸にヒ○キンを捉えてるんですね」


 私の好きな人が分かったからか、納得したようにふんふんと頷く玉出くん。

 そして、彼はグッと拳を握りしめて宣言します。


「分かった。なら俺、ユーチュー○ーになる! そんでもって玉出だから……タマ○ンになるよ!」

「なんですか、タ○キ……って言わせないで下さい! 最悪のネーミングです! それが好きな女子の前で言うことですか!」

「あ、別に俺の活動名には伏字要らないか!」

「要りますよ!」

「とりあえず、俺は今日からタマキ○として活動する」

「自分が何言ってるか分かってますか」

「そして、君の好きな有名ユーチュー○ーになって――もう一度告白する!」


 玉出くんは爽やかな笑みを浮かべてサムズアップ。

 私に堂々と宣言しました。


 青春の一ページ……というほど綺麗ではないですね。

 しかし、玉出くんは本気のようで、


「それじゃあ、俺寄るところがあるから先に帰るよ! よーし、ドン・キ○ーテで買った面白グッズを紹介して有名になってやるぜぇ!」


 と、私に手を振りながら走りだし、先に帰ってしまいました。

 小さくなっていく玉出くんの姿を見送る私。


「入学してまだ一月も経ってないのに告白とは……凄いですね。しかし、私の心はユーチュー○ーにがっしりと掴まれてますので。まぁ、早くチップスのおまけカードにでもなって下さい、玉出くん」


 そう一人呟き、私はスーパーマーケットへ歩んでいくのでした。

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