第34話 情報
「えっと、こう……こう……」
ここにきてから2ヶ月が経った。まだキュニーは起きない。
でも服とか日用品がある場所は見つかったからキュニーに服を着せておいた。
その間にキュニーのような魔力でできた生物について調べている。食事をあげた方がいいのかとか、お風呂に入れたほうがいいのかとかわからなかったから。
図書館みたいなところはなかったけれど、幸いキュニーが寝ている部屋にあった魔導機には沢山の情報が入ってるみたいで、それを頼りにすれば良さそうだった。
次は文字が読めないから何を読めばいいかわからなかったけれど、タイトルのような場所を人工知能に翻訳にかけてみた。
文字が読めないけれど、形がわかれば何を打てばいいかぐらいならわかる。
「これは、アルリナ周辺の生態分布……違うかな」
こうしてたくさん翻訳にかけていると、それなりに読めるようにはなってくる。大体は忘れてしまうけれど、よく出てくる単語とかは覚えてきた。文法がよく似ているからかもしれない。
「検索機能が使えたらな……」
検索機能も使おうとしたけれど、なぜかうまく動いてくれなかった。この魔導機と人工知能の繋げた方がわかればまた違ったのかもしれないけれど。
「けれど……」
根気強く調べてたら、何かがわかるかも。私にしたいことがあるわけじゃないし。今までも、キュニーに関しての……龍に関しての情報は何個か見つけた。
そこから魔力生物についても調べてみた。とりあえずお風呂とか食事はいらないようで安心した。けれど、魔力のバランスが崩れたら、早急に調整機を使う必要があると書いてあった。
魔力のバランスは、身体の形を大きく変えた時や魔力を大きく減らした時に起こりやすいとも。
その記述を見つけたら、調整機を探した。それがないと、キュニーがいきなり死んでしまうかもしれない。人工知能に聞いてみても、良い答えはなかったけれど、この施設の地図を見つけた。
それを翻訳にかけて、それっぽい魔導機を全部持ってきて、片っ端から人工知能に聞いて、調整機を見つけた。それと魔力測定機も。
「もしなかったら……」
見つからなかったら、キュニーがどうなってたかわからない。ずっと測定機をキュニーに向けている。魔力が不安定になったのは3回。
最初は寝ている時に警戒音が鳴って驚いた。けれどそのおかげで、調整機を使って助けれた。
調整機が私なんかでも使えるぐらいシンプルな構造でよかった。ただ対象にかざして、魔力を吸い上げたり、増やしたりするのを操作するだけでよかった。
それも人工知能の翻訳で、使い方とどうすればいいかがわかってなかったら難しかっただろうけれど。
今も調整機は近くに魔力タンクと一緒に置いてある。2回目はそれですごく焦った。たまたま魔力タンクのある場所を見つけてなかったらと思うと、恐ろしい。
そういう時に私の非力さを実感する。私にもっと魔力が有ればそんなことにはならなかった。私が、私なんかがキュニーといるからキュニーを危険に晒してしまう。
もっと魔力がある人なら、もっと準備できる人なら、もっと古代語に詳しい人なら。もっと、もっと。
「疲れた……」
翻訳をするのも疲れる。ずっと光ってる画面を見てないといけないし、翻訳された文章を理解するのも難しい。元々書かれていることが難しいのかな。
疲れたら施設の中を歩く。測定機と対応しているものを持って。これがあればどこにいても異常があれば音がなって知らせてくれる。
施設はすごく広いけれど、この2ヶ月で行ってない場所はほとんどなくなったと思う。けれど特に意味もなく歩く。
魔力のバランスが崩れた時のキュニーはとても苦しそうな様子だった。思い出したくもない。けれど、思い出してしまう。
2ヶ月前に死にそうだった時も苦しかったのかな。多分そう。けれどそんな苦しい様子なんて少しも見せなかった。翼を自分から消すなんてすごく痛かっただろうに。
……そんな時私は。私は自分勝手なことばかり言っていた。現実を知りたくなくて。キュニーがいなくなることが怖くて。
私はキュニーに謝ることすらできなかった。謝るという選択肢を思いつくこともなかった。どうしてそんな風になってしまったのかな。謝ることすらできないなんて。
起きたら謝ろう……そう思うけれど、それも怖い。謝ったら、キュニーに嫌われそうで。謝らなくても嫌われるかもしれないけれど。
「あぁ」
どうしたらいいのかな。キュニーに嫌われたくない。けれど、どうしたらいいのかわからない。どうしようもないのかな。
キュニーを死なせかけて、キュニーから竜の力を奪って、そんな私を、まだ好きでいてくれるかな。まだこんな私でもいいって言ってくれるかな。
それに、キュニーが目覚めるかもわからない。ずっとこのままかもしれない。起きなかったらどうしよう。私はずっとキュニーを見守っていられるかな。
それならそれでいいのかも……
「何考えて」
そんなのいいわけない。そんなの。
キュニーは笑っていて欲しい。私と話して欲しい。もっと色々話したい。一緒にいて欲しい。
けれど……それが許されないのなら……キュニーが私を嫌ってしまうなら……
けたたましい音が鳴る。
測定機の異常を示す音が。
走る。キュニーのところに走る。
「これ……」
測定機を見ると、キュニーの魔力が強くなっていっていた。全身の魔力が強くなっている。
たしか魔力生物について調べた時に書いてあった。別の姿になって休息状態の魔力生物は覚醒に近づくと魔力が強くなる。
キュニーの目が開く。
手に持った調節機を放り投げてキュニーの顔を覗き込む。
「キュニー……わかる……?私……ルミ……」
「ぅ……る……み、無事で……よかった……」
話した。キュニーと話した。
嬉しい。涙が出てくる。
……こんなに涙もろかったかな。
「キュニー……?キュニー!」
キュニーの目が閉じてしまう。
また休息に入ってしまったのかな……けれど、もう少し。もう少しで完全に覚醒して安定してくれる。
「わっ」
つまづく。さっき放り投げた調節機に足がかかって。
その拍子に情報の入っていた魔導機の画面が流れていく。
「いてて……」
魔導機を見ると、そこには杖のイラストが書いてあった。
契約杖とよく似た杖が。
「これ……」
契約杖はおもちゃの杖とも似ている。だからこれが契約杖かはわからない。それに第9研究所で契約杖についてはたくさん調べた。
けれど……でも……万が一。
はやる気持ちを抑えて、画面に文字を打ち込む。
「竜と契約杖について……やっぱり」
契約杖について書かれてる。
次はサブタイトルを翻訳していく。これでどこを読むか決める。全部読んだ方がいいかもしれない。
「竜の構成過程……竜の力……契約杖……贖罪……」
贖罪?なんだろう。
他のところから読んだ方がいいかな……でもなんだか気になる。……そういえば第9研究所で見た研究成果の最後の方は確か……
贖罪のページの文字を打ち込む。
「ここまでは竜と契約杖についての基本的な話である……そして、ここからはその契約杖を解除する話である……これ……」
そこにはこの契約杖……キュニーが私を助ける理由で、私がキュニーを死なせかけてしまった原因を取り除く方法が書かれていた。
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