第33話 不安
「ん……」
いつの間にか寝てしまっていた。
どのぐらい寝ていたのかはわからないけれど、まだキュニーは寝ているまま。いつになったら起きるのだろう。寒そう……服でも探しに行こうかな。
ここにキュニーをおいといて大丈夫かな……起きた時に隣にいたい……本当に起きるのかな。怖い。このままずっと目を覚さなかったらどうしよう。
「よいしょ……」
とりあえず少し周りを見てみる。
施設は翼のない竜が魔力を流してくれたおかげか明るさを取り戻していている。けれど不気味さは変わらない。
「どこに行けばあるかな……」
とりあえず食料と服を探さないと。キュニーが目覚めるまでここにいないといけない。ここにいたい。
キュニーは食事しなくていいのかな……魔力でできてることには変わらないから大丈夫かな……?
そういえばここには、この前の施設の時みたいな人工知能はいないのかな。それっぽいものはどこにもないし、ないのかな。
「この施設……」
なんだか色々なものがある。統一されていないというか。急造で作られたように見えるというか。
この前の第9研究所は竜の研究だった。正確には竜と契約杖だけれど。
でもここにはキュニーを助けてくれた魔力変換装置があったり、何かが入っていたかのような小さな筒がたくさんあったり、魔導機もがたくさんある部屋もある。
オーパーツの魔導機だから少しとっていこうかなとも思ったけれど、どの魔導機がどんな効果なのかわからないし、正常に動くかもわからないから、触れずにそっとしておくことにした。
……カトニムとかなら有効活用できたのかな。
「ここは……?」
その部屋は奥の方にあった。厳重に閉じられていたようだけれど、機械のよくわからない音ともに扉が開く。
ところどころに文字はあるけれど、全然読めない。こういうの古代の歴史が好きな人とかならわかるのかな。
部屋の中には沢山の四角いものが置かれていた。袋に閉じられている。
「開けてもいいよね……」
いきなり爆発とかしたらどうしよう……大丈夫かな。怖い。キュニー……どうしたらいいの?
「ううん」
キュニーに頼ってばかりじゃいけない。キュニーに任せっきりだったせいで、キュニーは死んじゃいそうだったんだから。
……私のせい。私のせいで、キュニーは死んじゃいそうだった。竜の力も失ってしまった。
袋を思い切って開けるとそこには携帯食料のようなものが入っていた。食べれるのかなと思い、口に入れてみる。
「甘い……」
デドのところで食べたものと見た目は似ているけれど、味は全然違う。すごく甘くてお菓子のよう。これが昔のお菓子だったのかもしれない。
「少し持って行こう」
10個ほど手にとるけれど、それだけで手は塞がってしまう。
とりあえずそれだけ持ってキュニーのところに戻る。
いつのまにかキュニーから離れてしまっていた。
近くにいないといけないのに。こうしてる間にもキュニーが何かに脅かされていたらどうしよう。
寝ているキュニーには何もできないだろうし、そうなっていたら魔導機を使うしかない。キュニーを守るんだから。
……本当にそれだけなのかな。キュニーが目覚めた時に、竜の姿から人の姿に変わってしまっていて戸惑わないように……いや、私が竜から人に変えてしまったから。
キュニーは竜から人になってしまったことを悲しむかな……その決断をした私を責めるかな……死んでもいいから竜のままでいたかったって思ってるかな……
少し駆け足でキュニーのとこに急ぐ。携帯食料を途中で少し落としてしまう。けれどそんなことは気にしない。気にする気も起きない。
「はぁ……はぁ……」
この前走ったことがすごく遠いことのように感じる。少し走っただけなのにすごく疲れた。携帯食料を足元にぼとぼとと落とす。
キュニーはまだ寝ていた。裸で寒そうだけれど、苦しそうな表情というわけでもない。無表情。
「綺麗」
思わず呟く。
長い白い髪が、美しい顔がそう思わせる。
「けど……」
キュニーには笑っていて欲しい。
だから起きて欲しい。私と一緒にいて欲しい。
けれど……けれど、私にそんな資格があるのかな……キュニーに任せっきりにして、キュニーを死にかけにしてしまった私に。
「あぁ」
どうすれば良かったのかな。どうしたら良かったのかな。
……もし私がもっと強ければ。もしもっと私が魔力操作はうまければ。もし私がもっと魔力量があれば。
何もできない私だから、そんな私がキュニーと契約杖で繋がっていたから、キュニーを危険に晒して、キュニーの力を奪ってしまった。
キュニーは起きても、私の隣にいてくれるかな……隣にいていいって言ってくれるかな……そう思ってくれるかな……
「だめだめ」
考えたくない。考えない方がいい。
「そう」
今は別にやることがある。だから今はまだ考えなくていい。
この施設が何かはまだよくわからないけれど、食料があるってことは、生活空間があると思う。そこで服とか寝床とかを探そう。
キュニーがいくら魔力で構成されているからって、ずっと裸でいるのも気になる。
「食料の近くにあるかな……」
とぼとぼと歩き出す。
食事のあった部屋で曲ると、そこは今までと雰囲気が違った。さっきまでは、実験施設のような場所だったけれど、今は居住スペースのような感じなってきた。
机と椅子が沢山並んだ部屋。
なんだか椅子は散らかっている。昔ここを使っていた人はあんまり几帳面じゃなかったのかな……それともそんなことを気にしていられないようなことが起きたとか……
「ここも……」
魔導機が並んでる部屋。
ここも散らかっている。いくつかの魔導機が地面に落ちて、元は魔導機がたくさん並んでただろう棚もかなり隙間が空いている。
「ここに何があったんだろう……」
なんだか怖くなってきた。第9研究所と同じような感じだと思っていたけれど、全然違うのかも。
怖い……魔導機に自然と力が入る。薄らと指の魔導機が光る。そういえばユリから渡された魔導機を返すのを忘れてた。ずっと左手で掴んでいる。
こうみると魔導機だらけ。首からは契約杖がかけられていて、右手には指輪の魔導機。左手にはもらった四角い魔導機。
魔導機に頼ってばかり。それなのにキュニーにも頼ってしまっていた。そんなのだから……
「私……」
キュニーと一緒にいてもいいのかな。一緒にいたいけれど……一緒にいてもいいのかな。一緒にいたらまたキュニーを……
あんな気持ちにはもうなりたくない。キュニーが死んでしまいそうなときの気持ちにはもうなりたくない。あんな暗くて、冷たくて、寒いあんな気持ちにはもうなりたくない。
けれど契約杖がある。契約杖があるから離れることが良いかもわからない。どうしたらいいのかな。
「ここは……」
多分ここが寝床だったんだと思う。
寝床の他には魔導機が一つ置かれている。魔導機に触れると、たくさんの文字が書かれたものが現れる。読めないけれど。
「あんまり適当に触らないでおこう」
いきなり起動して爆発とかしたら怖いし……
寝床は……柔らかい……これを持っていく……いやこっちまでキュニーを連れてこよう。食料のある部屋も近いし、こっちの方がまだなんとかなりそうだし。
「んぅ……」
キュニーは見た目通りの軽さで、非力な私でもなんとか背負うことができた。まだ全然起きる気配はないけれどそんな時々呼吸をしている音がして、生きているんだってことがわかる。
助けることができたって実感すると同時に、そんな状況にした元凶……私が嫌いになりそう。キュニーは私は私のままでいいって言ってくれた。けれど……そのせいでキュニーが傷つくなら私は……
「服はない……」
けれど裸でいるよりはいいと思う。
これなら少しは暖かそうだし。
「ここ……」
もう少し奥の部屋に行くと、そこには見覚えのあるものがあった。第9研究所で見たもの。魔導計算機のようなものがある。
「たしか……」
たしかこんなかんじの場所で人工知能と出会った。
ここにはいないのかな……でも操作法がわからない。
「人工知能さん……いませんか?」
音はない。けれど空中に文字が現れる。小さな文字だけれど、読めないほどでもない。
「えっと……何か用ですか?……何ができる?」
またしても文字が現れる。この人工知能は喋るタイプじゃないみたい。検索……天気……予定……翻訳……
「翻訳できるの?」
それなら読めない文字とかも読めるようになるかもしれない……というかどうして人工知能は私の言語を知ってるのかな。
杖から言語を読み取ったので可能です……そんなこともできるんだ。でもとりあえずあと回しでいいかな……
キュニーのところに戻ってみてもまだ寝ている。
本当に起こるのかな。怖い。このまま起きなければどうしよう。起きた時に私は隣にいていいのかな。
綺麗なキュニーの寝顔をみながら、様々な不安が、恐怖が、心に巣食っていく。
「キュニー……」
早く起きて欲しい。また私と話して欲しい。私と一緒にいて欲しい。
それだけを願って時間は過ぎていく。
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