第30話 黒を
黒い魔力は天高くそびえ、薄明かりの夜の世界を暗く染める。月の魔力光を遮る。暗い。けれど黒く光る魔力のおかげでデミニウムの位置はわかる。
「どう……するの?」
「今は魔力に守られてるからね……様子見かな」
黒い魔力が空間を流れているのを感じる。なんというか空気中の魔力も震えているみたい。さっきまでのデミニウムの魔力もすごい黒くて、怖い魔力だったけれど今はそんなレベルじゃない。近づくことすら、許されないような……
「あれ……?」
「魔力を制御したみたいだね……倒さないと」
立ち上っていた黒い魔力が治り、隠れていたデミニウムが見える。デミニウムは人の姿を取っていた。黒だから影のような感じだけれど。魔力は感じれなくなったけれど……そこだけ空間が、魔力が重くなっているような感じがする。
「キュニー……魔力大丈夫なの?」
「……大丈夫じゃないかも。でも、あと翼を変換すれば大丈夫だよ」
「けど……」
翼を変換する……つまり、さっきみたいに自分から一つ翼を消すってこと。半分も無くなってしまうことになる。キュニーは治るって言ったけど……それまでに魔力がなくなってしまうかもしれない。
「怖いよ……他にも方法が……」
「……あるかもしれない。けれど私にはこれしか思いつかないからね……それに私にはまだ3枚翼が残ってるし」
……たしかに3枚ある。けれどそれがもう1枚無くしても大丈夫なわけじゃない。そんな大怪我して大丈夫なのかな……
「大丈夫なんだよね……?私と一緒にいてくれるんだよね?」
「うん。だから安心して。デミニウムは私が倒すよ」
デミニウムは魔力を制御中なのか棒立ちで、傍目から見ればただの黒い人のようになっていた。少し遠くてわかりにくいけれど、Dの人達が攻撃を仕掛けている。
「……大丈夫かな?」
「……どうだろう。あの形態のデミニウムは見たことないから……」
デミニウムまではまだ遠い。……いや、理想を言えばDの人達で倒して欲しい。もうキュニーに戦って欲しくない。怖い。
……だからってDの人達なら死んでいいわけじゃない……本当にそうなのかな。キュニー以外は死んでもいいなんてそんな酷いこと考えてるのかも。
けれど……そんな酷い思考をしてもいいんだ。キュニーがいいって言ってくれた。キュニーはこんな私でもいいって言ってくれてる。キュニーがいるから私も、これでいいって思える。こんな私でもいいって。
デミニウムの方を見ると、Dの人達は綺麗な連携で攻撃を仕掛けていた。オリピノとゾイが近距離で攻撃を仕掛けて、アルナとボスが後方でサポートする。前衛の2人が魔法で怪我をすればミリニムアが治す。
オリピノはあまり会ったことはなかったけれど、確か壁の中で敵対組織との争いで最前線にいたはず。それだけあってかなり強い。
デミニウムはオリピノとゾイの近距離で連続に放たれる攻撃も、アルナとボスによる強力な遠距離攻撃も、全て魔法障壁で受けていた。
「————」
赤色の光が一筋流れる。いや流れた。
視界が晴れた時オリピノはいなくなっていた。手だけが残っていた。理解が追いつかない。何が。どうなって。
「きゅ、キュニー……」
「……死んでしまった。デミニウムの攻撃で。だいぶ攻撃の出が早い……」
「死んで……」
死んでしまう。死んでしまった。オリピノが。特段仲がよかったとかじゃないけれど、また死んでしまった。
ウレクが、コミニが、ルオが、カトニムが脳裏に浮かぶ。みんな……みんな死んでしまった。私の目の前で、私のせいで。
身体が震えている。うまく視界が頭に入ってこない。怖い。死んでしまう。キュニーが死んでしまいそうで怖い。また……デミニウムに殺されてしまうんじゃないかって思ってしまう。
「ルミ……」
「大丈夫……なんだよね?私と一緒に……これからずっと一緒にいてくれるんだよね……?」
何度も同じことを聞いてる。私の不安が、信じれない心が強すぎて何度も聞いてしまう。けれど。
「うん。一緒にいる」
「……うん」
けれど、毎回同じことを言われて安心する。キュニーの言葉が心に染み込んで、一時的かもしれないけれど暖かくなる。安心できる。キュニーを信じれる。
「落ち着け!まだ戦える!俺がっ」
「ゾイ!どうしたら……!」
ゾイとミリニムアの声が聞こえる。けれどゾイは、光の中に消えてしまった。デミニウムはほとんど魔力の準備なしであの光線を放つ。回避や防御するのは難しい。
そして前衛の2人が消えた。あとはアルナ、ミリニムア、ボス、ユリの4人だけ。けれどそこにキュニーが加わる。大丈夫、キュニーなら。
「みなさん」
「竜さん!あの光を何とかしてください!お願いします!」
「わかった」
キュニーがきたことを伝えるために声をかけると、ユリがキュニーに指示を飛ばす。ユリはなんというか……できること、役割がわかっている感じがする。今だってキュニーにあの光をなんとかできかどうかなんて一言も聞かなかった……急いでいたから仕方がないかもしれないけれど……
光が視界の端々に現れては消える。紫の光。キュニーは青色の光で、デミニウムの赤い光を相殺している。光は数カ所同時に現れる。早すぎてよくわからない。
「すごい……」
アルナの声がする。キュニーだけで全ての光を打ち消している。アルナはまた魔法陣を展開している。多分さっきと同じ魔法を準備をしているのだろう。それにボスも隣で魔力を渡している。
「空間魔法いくよぉ」
透明な箱ができる。今度は小さい。デミニウムが小さくなっているから当たり前かもしれないけれど。
デミニウムが抵抗している。黒い魔力が見える。けれど空間はどんどん閉じていく。さっきはすぐに破られたのに。
「どうやって……?」
「魔力はすり抜ける……そういう空間にしているみたい」
デミニウムが放った魔力が外に出てくる。それをキュニーが打ち消す。……たしかに魔力を感じる。これなら魔力で破られることはない。
光が止む。諦めた……?黒い魔力もあまり感じられない。
「……まずい」
「ユリ、何がまずいの?」
「魔力爆発が起きるわ」
ミリニムアとユリの会話が聞こえる。
魔力爆発。制御されいない魔力が強大なエネルギーとしてあたりに放たれる現象。どうしてそれが……
「キュニー……そうなの?」
「……そうみたい。黒い魔力がデミニウムの中で集まってる……ここら辺は全部吹き飛ぶよ」
「じゃ、じゃあ逃げないと……!」
「今逃げたら、光から彼らを守れない。そして彼らは空間魔法の制御中だからね」
魔法陣の欠点の一つ。魔法の精度も範囲も威力の上がるけれど、魔力のためが必要で使用中は動けない。
今キュニーがいなくなれば、デミニウムはアルナに光を放つ。そうなればまた増えたデミニウムを相手にすることになる。けれど、ここにいても……
「ボスぅ。止めれないのぉ?」
「私には無理だ。できるとすれば……」
Dのみんなが私を見る。私がしがみついているキュニーを見る。まだキュニーは私を隠してくれている。私が組織の人達と会うのを怖がっているから。嬉しい。
「竜さん……先にとどめをさせますか?光は……こっちでなんとかします」
「わかった。1分で倒す」
キュニーが魔力を収める。その瞬間光が飛んでくる。デミニウムの中の魔力はそのまま。つまり魔力爆発の準備をしながら光は放てる。
けれどその光がアルナに届くことはない。ボスが光をそらす。けれど完全じゃなかったのか腕が消えている。
「ボス!」
「すまん。ミリニムア、助かる」
ミリニムアが回復魔法を使うと吹き飛んだ腕が再生する。やっぱりすごい回復魔法……
いやそれより。
「ルミ……やっぱりもうひとつ翼消すよ。そうしないと……倒せない」
「……わかった……大丈夫だよね?」
「……うん。大丈夫。安心して」
キュニーの翼が消え、魔力が溢れ出す。けれどその流れは掴めない。キュニーが魔力を制御しているから。
……デミニウムを閉じ込めている空間魔法は魔力しか通さない。なら魔法で倒すしかない。けれど、生半可な魔法だとデミニウムに取り込まれる。それを突破しても、デミニウムの圧倒的な魔力量には勝てない。
けれど……キュニーなら大丈夫。大丈夫って言ってくれた……それを信じてる。
「ルミ……いくよ」
魔力が放たれる。それはただの魔力砲。白い光が放たれる。
速く、高密度で、単純。
それ故に、強力。
周りの色が消えてしまったかのように見える。それぐらいキュニーが放った魔力は強い。音も光も何も見えない。
けれどそれにデミニウムの黒い魔力は争っている。大気が震えている。空間が歪んで見える。あたりの色は消え、白と黒の光に包まれる。
「このままじゃ……」
もうひとつ翼が消える。魔力砲の威力が上がる。
白い光と黒い光がぶつかり、白が増えていく。モノクロの世界から、どんどん白い世界に変わっていく。
「キュニー……!」
大丈夫。信じる。何もできない私にはそれぐらいしか……
どうして私は何もできないのかな。もっとキュニーの力になれれば、こんなにキュニーが怪我をしなくても済んだかもしれない。
匂いも音も光も感じれない。けれどキュニーだけが見えていた。私にはキュニーを信じることしかできない。そんな自分が嫌になりそうになる。けれど……けれどでも、こんな私でもいいって……
白と黒の光が辺りを包む。そして、白と黒の光が消えると、もうそこに黒の姿はなかった。デミニウムはもういなくなっていた。
倒した。キュニーがデミニウムを。
「ルミ……終わったよ」
「ありがとう……」
「私もルミがいなかったらここまでできてないよ。ありがとう隣にいてくれて」
信じてよかった。キュニーを信じてよかった。大丈夫だった。怖かったし不安だったけれど大丈夫だった。
Dの人達が近づいてくる。
「竜さん!ありがとうございます」
「こちらこそ」
「危ない!」
細長い槍のような岩がキュニーの隣に現れた。突然。震えている。何かが止めてくれた?まだ敵がいるの?
「……まさか」
それをやったのはだれか。
それはボスだった。ボスが私たちに手を向けていた。魔力の流れからも、ボスだということはわかった。
守ってくれたのはアルナ。空間魔法で岩を防いでくれた。キュニーにそんな魔力はない。私にもわかる。
「ボス……どうして!?」
ユリが叫ぶ。
「今がチャンスなんだ……最新の竜倒せば私の順位が上がるから……弱ってる今しかない」
「君は、ゴドリアスだね……?」
「ゴドリアス!?5大魔物!?」
よくわからないことをいうボスにキュニーが問いかける。
「あぁそうだよ!そして今私が一番になる!」
ボスはすごく楽しそうな顔をしていた。さっきまでとは別人のようだった。たくさんの岩が出現する。
……わからない。わからないことだらけ。だけれど、ボスがキュニーの敵になった。それだけはわかった。
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