第27話 黒が

 デミニウム。黒い沢山いる魔物。圧倒的物量と速度でウレク達を殺してしまった。そして……私のトラウマの一つ。


「なんとかしないと。まだ生まれたてだし安定する前に」

「キュニー……行くつもりなの?」


 キュニーに行って欲しくない。キュニーはデミニウムを簡単に倒していたけれど、あれは切れ端だと言ってた。今回は明らかに違う。

 切れ端でもあんなに強いのに本体になるとどれだけ強いのか想像もつかない。私なんかでも感知してしまうほどの黒い魔力。キュニーも想像もつかない強さという意味では同じだけれど……怖い。キュニーにいなくなって欲しくない。


「行かなくちゃ。このままだとルミが危ないもの」

「私……?」

「正確にはルミだけじゃなくてこの世界中だけれどね」

「そんなの……キュニーが止めないといけないの?」


 もしかしたら……誰かが止めてくれるかもしれない。キュニーじゃなくたって他の誰かが。そんな世界規模のことなんだから、別にキュニーがしなくたって。


「……別に私じゃなくてもいいかもしれない。私以外の人が止めてくれるかもしれない。そんな危険なことしなくていいかもしれない」

「じゃ、じゃあ」

「でも、ルミを守りたいからさ。そしてたまたまそれができるかもしれないぐらいの力を私は持っている。じゃあ行かないと」

「なんで……!」


 なんでそんなことできるの?なんで私なんかのために危険なことができるの?なんで、なんでよ。もしキュニーがいなくなったら私……


「……隣にいてくれるんじゃないの?」

「ルミの隣に少しでもいたいからデミニウムを倒すよ。大丈夫。私、強さだけは結構自信あるからさ」

「……でも」


 でも怖い。怖いよ。キュニーにいて欲しい。いなくならないで欲しい。隣からいなくなることを想像したくない。


「守ってくれるんだよね?」

「うん。約束する」

「じゃ、じゃあ一緒に行くよ。キュニーの隣にいたいから」


 危ないのは怖い。怖いしキュニーの邪魔になるのも怖い。けれど、キュニーと離れるほうが怖い。

 だからそう言ってしまう。邪魔になるか持ってわかっていても、そう言ってしまう。


「私も隣にいてくれたら嬉しいよ……じゃあ行こうか」

「うん」


 私の身体が浮いてキュニーの背中に乗る。翼が動き出し、キュニーが空を飛ぶ。


 ……もしキュニーが死んでしまったらどうしよう。そんなことを考えてしまう。キュニーを信じるなら、そんなこと考えちゃいけないのに。

 ……けれどもしそうなったら……私はまだ生きていいって思えるのかな。キュニーがいなくなってもまだ生きていてもいいかもって思えてるのかな。




 キュニーはどこにデミニウムがいるのかわかっているのか、一直線に進んでいく。景色はどんどん移り変わり、魔力断層を超え、草原にたどり着き、森の上で静止する。


「ここらへん……?」


 黒い魔力が強いのを感じる。私なんかでもわかるぐらい強い。そのせいで他の魔力がつかめない。どこにでもいるような感じがする。


「ここは……どうだろう。本体のひとつじゃないかな」

「本体ってひとつじゃないの?」

「大きく5つの塊があるみたいだね。……出てくるよ」


 森が揺れ、木が倒れ黒いものが現れる。黒いものは地面を割り地下から出てきたようで、森を飲み込んでいく。


「大きい……」


 前に見たデミニウムの切れ端とは大きさが違う。しかもどんどん増殖して、黒い場所が増えていく。


「じゃあ、つかまっててね」

「……うん」


 デミニウムの近づいて、キュニーが魔法を放つ。氷が、炎が、電撃が、デミニウムに迫るが、デミニウムはそれすら飲み込んでしまう。

 デミニウムもキュニーを敵と捉えたようで、黒が迫ってくる。いや、私の目には迫ってくるのではなく瞬間移動のように見えた。


 気付いたらキュニーは移動していて、デミニウムの攻撃を躱している。私には何もできない、見えもしない領域の戦い。

 衝撃波が出ていたり、魔法を放っていたりすることはわかる。けれど、どちらが優勢なのかなんて全くわからない。


 デミニウムは増殖を早めたのか、沢山の黒が迫ってくる。それを躱し、キュニーが音を放つ。前も聞いた音を消す音。黒が消え、デミニウムが少し小さくなったように見える。


 ……キュニーは勝っているのかな。怖い。ついキュニーが負けてしまうことを考えてしまう。キュニーを信じれないなんて嫌になる。信じたい。


 その時黒が散った。固まっていた黒が散って、辺りに飛び散る。飛び散ったデミニウム達は空中で増え黒い球を作り出す。


「これは……?」

「まずい……空中でも増えれるのか」

「大丈夫……だよね」

「……うん。見てて」


 デミニウムは飛べるわけじゃない。だからどんどん落ちていってるはずなのだけれど、それより早く増えることで、空中で体制を維持している。

 さらにその空中の球からもデミニウムを飛ばすことで、どんどん空中に黒い球が増えていく。


 それをキュニーは吹き飛ばしていく。魔法かな。何が起きているのか私にはわからない。黒い球は吹き飛ばしても、吹き飛ばした先で球を形成してる。大丈夫なのかな。怖い。


「障壁魔法は使わなくていいの?」

「デミニウムは魔力を食べれるからね。攻撃性のない魔法は意味がないんだよ」


 ……前に障壁が破られ難かったのは、あれが切れ端だったからかな。もし、あの時のデミニウムが本来なら、私はここにはいない。ミリニルアも含めていない。そっちの方が良かったなんて、こんなときでも考える。


 ……けれど、キュニーは私に救われたって言ってくれた。私は生きていていいって。だから、私はここにいる。ここにいていいって思わせてくれたから。


 音がまた消える。音が音をかき消す。空間が震えている。無音が辺りを包む。青い光がデミニウムの中心に現れる。


 私の目はそこで限界だった。何も見えなくなる。光に包まれている。辺りが光に照らされて、夜になりかけのここを昼のように、いや昼より明るく照らす。


 次に目が何かを捉えたときにはもう。もうすでにそこにはデミニウムはいなかった。それに森もなくなっていた。全て消えていた。


「ね?大丈夫でしょ?」

「……うん」


 けれどまだ4つある。本当にあとこれと同じようなことを4回もやるのかな。いや、大丈夫。大丈夫だって信じるんだ。


「……あれ?デミニウムが三つになってる。私達の他にもいるね」

「じゃあ帰っても……もうひとつ倒したし……充分だよ」

「……ありがとう。でも、ひとつでも残ってたらルミを守れないと思うから」


 どうして私なんかを守って……キュニーの大切な存在になっているから?もしそうなら、どうして私なんかが……どうしてキュニーの力になれない。助けられない私が、どうして。

 いや……それでもいい……いいんだよね?キュニー……


 次のデミニウムは山にいた。いや……元々山だったような場所というべきかな。デミニウムはさっきより多く、山脈を飲み込んでいる。

 すごく多い。けれど……けれど大丈夫。大丈夫だよね……キュニー……


 キュニーとデミニウムの二回戦が始まった。

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