第26話 昔の

「考えたんだけど……」

「うん」

「私……キュニーを信じ続けたい。それで生きたいって思いたい。……だから、その」


 疑いたくなんてない。だけれど私の心は勝手に疑ってしまう。それをなんとかしたい。疑っていたら、そんな自分が嫌になって死にたくなってしまう。

 そんなこと思いたくない。キュニーの隣にいれば生きていてもいいって信じれるようになりたい。


「……どうすればいいかな?って聞いてもいいのかな。私のことなのにキュニーに決めてもらっていいのかな?」

「いいよ。ルミがそうしたいならそれでいいんだよ」


 ほっとする。また不安になってしまった。昨日から安心と不安が渦巻いてる。キュニーに触れていると少し安心が強くなる。


「えっと、そうだね。なんでルミの味方でいたいのか、って私も考えて見たんだよね」

「……どう、だった?」


 怖い。勘違いだったかもしれない。もう君とはいれないって言われるかもしれない。……そう言われたらどうしよう。


「少し長くなるけどいいかな?」

「……うん」


 長くても最後に拒絶されたらどうしよう。いや、大丈夫。大丈夫だよ。信じたい。


「昔は魔力を発散しそうだったってことは言ったことがあるけれど、その時研究員を殺しちゃったんだよね」

「え……?人を、ってこと……?」

「うん。……これをいうのは怖いけれど、それでもルミに隣にいて欲しいから」


 ……キュニーでも怖がることがあるんだ。たしかに少し驚いたけれど……


「そんなことでキュニーを嫌いになったりなんて……」

「……ありがとう。でも、研究員達はそうは思わなかったみたいでね。私を処分しようか、みたいな話をしてたよ。

 ……そんなことしなくても、私は魔力切れで死んじゃいそうだったんだけれどね」


 誰も助けてはくれなかったのかな。……もし私が研究員なら、仲間を殺してしまった誰かを恨まずにいられるかな。多分……多分無理だと思う。

 私はキュニーに生きてていいって言われたことが嬉しくて、キュニーのことが好きだから、そんなことで済ませられるけれど、当人ならどうしてるかなんてわからない。


「結局、私は偶然できた竜で将来性が高かったから生かしておくことになったよ。けれど、その時からかな。私は誰かを傷つけてしまうだけで、生きている価値がないのかもなんて思い初めたのは」

「…………」


 私と同じと言っていいのかはわからないけれど、似ている気がする。誰かを傷つけて、生きる価値が無いように思えてしまう。……私は結局生きていたいだけだったんだから、その気持ちをわかるなんて言えないかもだけれど。


「でも、しだいに戦うことには価値があるって思えたよ。傷つけた分守ることで、せめて償おうってね」

「え……でもこの前は」


 この前聞いたときは、たしか育ててくれた恩もあるし当然みたいなことを言っていた気がする。あれは……嘘だったのかな。


「やらないといけないって思ってたのも嘘じゃ無いよ。けれど、それよりこれで誰かの役に立てる思いの方が強かったかな。……ごめんね。あのときは言う勇気がなくて」

「……私こそ、そんな嫌なこと言わせるなんて……」


 言いたく無いことまで言ってくれないと信頼できないなんて、どうしてそんなに嫌なやつになってしまったのだろう。


「いいの。私がルミに言いたくて言ってるんだから。……結構怖いけれどね」

「……大丈夫……多分。私はキュニーを好きでいれる……と思う」


 断言できないのが嫌になる。私も、キュニーが私にしてくれたみたいに、安心をあげたいのに、なぜだか断言できない。そんな自分を嫌いになりたくないって考えてるのが、もっと嫌になる気がして。


「ありがとう。嬉しいよ。そう思ってくれるだけで、安心できる」

「……ならいいんだけど……」

「それで、私が戦いに行く直前になって敵の大攻勢が始まって、私は杖の契約者がいないまま研究員の人達を守って戦ったよ」


 これはこの前も聞いた。研究員を守って、送り届けた後戦場に向かう途中で死んじゃったんだっけ。


「ここからもこの前言ってないことがあるんだ。……私は研究員の人達を守れて、嬉しかったよ。初めて私に価値ができた気がしたもの。

 けれど……私は負けちゃった。やられちゃった。研究員達を送り届けれなかったの」

「…………」

「最後までなんの役にも立たずに死んでいったよ。研究員の人達も怒ってた。そのまま私は死んじゃった。その時……正直嬉しかったね」

「……どうして?」


 聞かなくてもなんとなくわかる。その気持ちは私の心の隣にいつでもいるもので。


「私みたいな何もできない浪費するだけの存在は消えた方がいいって思ってたからね」


 ……同じかな。同じなのかな。……けれど私は結局死ねてない。それが良いのか悪いのか、今はまだわからないけれど、同じではないかもしれない。

 ただ、死んだ時もその思考でいれたかはわからないけれど、この前までの私とすごい似ているというのはそうかもしれない。


「けれど……けどルミが助けてくれた」

「え……私、そんなこと」


 してない。できない。やったわけがない。


「ううん。してくれたよ。私を拒絶しないでいてくれた。それに、私が助けれた初めての人だから。それがすごい嬉しくてね」

「……ほんとに?」

「うん。すごい嬉しかった。私なんかといてくれることが嬉しくて、すごい……救われたよ」


 ……私と同じ。私もキュニーに生きてていいって言われたことが嬉しくて、まだ生きていたいって思える。キュニーにとって、私がそんな存在でいれたのかな。もしそうなら、それはすごい……嬉しい。


「だからかな。うん。だから私はルミの味方でいたい。……嫌いになっちゃったかな。こんな人殺しで」

「そんなこと!……ないよ。キュニーは私を助けてくれたし……私、キュニーのこと、す、好きだもの」


 そんなことで嫌いになるわけない。……けれどいつかキュニーを嫌いになる日が来る気がして怖い。恐ろしい。でも、そんな日は来ないって信じたい。


「……うん。理由を聞いて、少し信じれてる気がする」


 これだけ話してくれて少しと言うのが、良くないところかもしれないけれど、それでも少し信じれてる。少しづつでもいい。それに……信じれなくてもいいってキュニーが言ってくれたから、なんだか心が落ち着いている。


「……ありがとうルミ。私もいてもいいって思わせてくれて、私に助けさせてくれて、私を助けてくれて、ありがとう」

「それは……私のほうが……」


 私の方がたくさんキュニーに助けられてる。キュニーがいなかったら、もう私が生きていないかもしれない。生きてていいって思えてない。


 突然キュニーが首を持ち上げる。その目はいつになく鋭くなっていた。


「ど、どうしたの?」

「……デミニウムの本体が現れたみたい」


 その時、黒い魔力が流れているのを感じる。発生源は地の底のような気もするし、地平線の彼方のような気もする。わからない。何が起きているのか。

 けれど何かが起こる。起きてる。それだけはわかっていた。

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