第23話 違う
ここに来て1週間が経った。私はデドがとってきた部品をよくわからない工具を使って直している。直しているといっても、そんな大層なことはできない。ただ、ネジを締めるだとか、こことここの魔導接続させるとか、そんな誰にでもできるようなことばかりしている。
私じゃなくてもできること。いや、私はすぐ疲れてしまうから常人より酷いだろう。頑張ることができない。頑張れない。いつからだろう。頑張ることがしんどくなってしまったのは。
食事は大体携帯食料みたいなものだった。あんまり美味しくない。それに食欲のある日も少ないから、余計に食べる回数は少なくなっている。
デドは2日に一回ぐらい外に行って、何かの部品を取ってくる。オーパーツのようなものだと思うけれど、なんだか何かが違う気がする。……昔の物だというなら作られた場所が違うのだから当然かもしれないけれど。
デドは結構よく話す人で、いろいろ聞いてきた。なんで丸腰であんなところにいたのか?どうして逃げずに座っていたのか?なぜ家がないのか?
けれど、その質問のほとんどに答えれなかった。答える気が起きなかった。黙っていると、だいたい話したくなったらでいいけど。と会話を終わらせてくれた。
キュニーはこない。私の場所がわかってないのか。それともただ私と離れられて安心しているのかな。キュニーに会いたい……会いたいのかな。キュニーに会いにきて欲しい。私を求めて欲しい。そんなことばかり考えてしまう。
そんなこと考えたって、何も変わるわけじゃないのに。嫌になってくる。なんでこんなに寂しいって思ってしまうのだろう。
「よいしょっと」
デドが帰ってきた。いつも夜になる少し前には帰ってくる。しかし今日は少し様子が違った。
「え……」
血塗れだった。全身に火傷や傷跡が見える。痛々しい。
「だ、大丈夫?ち、治癒」
「これぐらいなんてことねぇ。再生カプセルに入るよ」
再生カプセルってなんだろう。いや、それより今は。治癒が必要なはず。どうして治癒しないのだろう。治癒魔法が使えない状態で外に行くなんて……魔力が尽きたのかな。
手を掴み、魔導機に魔力を込める。魔力が魔導機を介して魔法に変換される。変換できなかった魔力が緑の光になって辺りを照らす。
「こ、これは……?傷が治っていく……」
魔力が足らない。私の少ない魔力が出てこない。疲れる。けれど腕が千切れたりはしていないから、私の弱い治癒魔法でも治せるはず。
「……疲れた……」
「おい……」
「ん……?」
かなり疲れた。けれどデドを治せた。それなりに頑張った気がする。魔導機に魔力を流していただけだけれど。なんでこんな少しのことで疲れてしまうのだろう。
「ルミ……魔女だったのか……」
「魔女……?」
魔女はたしか魔法を最初に使い、多くの人にも使えるようにして教えた人だっただろうか。実在したかは知らないけれど、お伽話ではそうなっていた気がする。
「……今のは魔法だろう?」
「そうだけれど……」
「じゃあ魔女じゃないか」
「いや……」
どういうことだろう。なんだか話が繋がらない。
「もしかして……知らないのか?」
「何を……?」
「魔法を使えるのは魔女だけだ。俺は使えない」
「え……」
魔法を使えない?そんな病気で、どうやって外に……いや、違うのか。もしかして……
「魔法を使える人の方が珍しい……ってこと?」
「そうだ。珍しいどころか今はルミだけだろうな。……その様子だと知らなかったのか?」
「……うん」
ここではそうなのか。こっちでは魔法を使える人の方が珍しいんだ。戦争が終わったのが何年かわからないけれど、その間にこっちでは魔法が衰退してしまったのだろうか。それとももっと前から。
「ルミはどんな場所で、育ったんだよ……しかし魔法……魔法か」
「その、魔法が使えないならどうやって外で……?」
「機械補助……それも知らないのか」
呆れたようにデドが言う。それを見て、思い出す。
昔から私は何かを知らないことが多かった。常識と言えることも。誰かに教えて持った記憶がないから知らない。ただそれだけだけれど、知らないままで動けば、それが常識のないやつになり、怒られた。
それから何かをするのが少し怖くなった。私の中の常識はおかしいんじゃないかって思うと、怒られてしまうと思うと何もできなくなっていく。
そんな記憶が思い出される。
「ごめんなさい」
思わず謝ってしまう。別に私が悪いと思ったから謝ったわけじゃない。怒られたくないから、先に謝る。謝ることで距離を取りたいから謝った。
「責めてるわけじゃない。……だけれど、魔女はここでは恐れている人が多い。魔法は使わない方がいいだろうな」
「……うん」
「でも、俺としては気になる。その仕組みが。明日教えてくれないか?……無理にはとは言わないが」
悩む。どうしたらいいのだろう。選択を私に与えないで欲しい。どうすればいいかわからないから。どうしたいかわからないから。……いや多分。
「……いいよ。私にできることは少ないけど」
「ありがとう。明日から楽しみだ」
こう言って欲しかったはず。こう言えば追い出されない。この部屋から。ここから追い出されたら、私はどうすればいいかわからない。けれど少なくともここなら部屋の主がいて命令してくれる。
いや違う。多分求められるのが嬉しかっただけだろう。私を求めてくれているのが嬉しいから、それに応えただけ。これは多分期待だろう。怖くなってきた。
私が今まで期待に応えれたことはない。勝手に期待されたと言えばそうだけれど、それに応える能力さえあれば、相手を怒らせることもなかったのに。
それに多分私が求められてるんじゃない。魔法を求められているだけ。そんなのでいいのかな。それにそん何できることもない。私自身は魔力操作も下手くそだし、魔力総量も多くない。ただ魔導機頼りでしかない。また失望されるかもしれない。そんな時どうすればいいのだろう。価値のなくなった私はどうすればいいのだろう。
「つまり、魔力を動かせるというわけか。自分の身体の中の」
「うん。そして体外に出すときに、魔力を熱とかに変えるの」
次の日、デドの質問に答えていた。何から話せばいいのかわからなかったが、向こうから質問してくれたので助かった。
「魔導機ってのは、魔法を使う道具か?」
「一定の魔法に自動変換してくれる。私は魔法弱者だから頼っているけれど、なしで使う方がいいよ」
魔導機は所詮一定の力しか出ない。臨機応変に出力を変えれる方が便利だろうし。それに魔導機を介して発動する魔法は、通常より魔力が食われる。
それに私は魔力の質も低い。例えばアルナなら、同じ魔導機を使っても、私の数倍の威力が出せると思う。アルナ……今はどうしているのだろう。……ウレク達を犠牲にした私を許してはくれないだろう。ミリニルアだって、私のことは悪く言っているはずだし。
「うぇ」
吐き気がしてくる。身体が寒くなってくる。震えてくる。考えるんじゃなかった。どうして思い出してしまうのだろう。忘れてしまいたい。
「おい、大丈夫か?」
「……う、うん」
「……ならいいが、無理はするなよ」
とっさに否定してしまう。キュニーなら気づいてくれただろうか。もう頑張りきってるって。……あれも杖の効果だったかな。どうせ誰も私を見つけてくれない。そりゃそうか。私なんか見ても良いことなんてない。
それからも魔法について話していく。3日もすれば大体のことは話終わる。それからは、特に話すこともなくなってただ部品を直す生活に戻っていく。たまにデドが、私から聞いた魔法の話を利用して何かを作っていて、それについて質問されたりしたぐらいだろうか。
つまりもう用済みになってしまった。私の知識が浅すぎてもう存在価値がなくなってしまった。タダ飯食いと変わらない。いや、それよりひどい。
この国では昔から魔女を忌避している人が多く、もし魔女と一緒に暮らしているなんて知られたら、とてもひどいことになるらしい。……どうして、そんなリスクを負ってまで、私を生きてしてくれるのだろう。
デドの善意が怖い。いつか裏切られてしまった時が怖い。最近はそればかり考えている。優しいなんてその一時の主観的判断でしかないから、いつ私の知らないデドと出会って、傷つくかわからない。逃げたい。帰りたい。そんな場所なんてないけれど。
居場所が欲しい。私がここにいてもいいんだって思えるような居場所が。そこにいれば不安から逃れたるような居場所が。
それに何かを信じたい。なんだかいつでも疑ってしまう。誰かを信じて、安心したい。……なんだかさっきから自分のことばっかり。誰かのことなんて考えてないのかな。自分勝手な人すぎて悲しいよ。
ここにはいられない。いたくない。そんな気がしている。何をしているのかわからない私がいていいと思えない。デドの邪魔になっているだけ。それにキュニーのところに戻らないと。キュニーだって私は邪魔かもしれないけれど、私が死んでしまうかもしれない。
それも全部杖のせい。やっぱり杖をなんとかしたい。どうにもならないけれど。とりあえず出て行こう。夜に一人で、静かに。
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