第20話 過去
「私が生まれて最初の記憶は、なんだか白い部屋にいたね。竜は、魔力循環器に適切な濃度の魔力を流すと生まれるんだけれど、多分その時の記憶だと思う」
「ちょ、ちょっと待って?え、竜ってそんなふうに生まれるの?」
魔力循環器が何かはよくわからないけれど、魔力を流すだけで生まれるものなのだろうか。
「竜は魔法生物っていうのかな、簡単に言えば魔力の塊が実体を持ってるだけだからね。そういうふうになる魔力を作り出すことでできるんだって」
「魔力生物……」
そういえば、竜は他の生物と全然違う。御伽話の存在だからあまり気にしたことなかったけれど、代謝がなく食事も必要だなんて生物ではないような気がする。
「まあだから、私に親はいないことになるのかな。強いて言えばそこにいた研究員の人が親ということになるのだろうけれど。でも、実際研究員の人にはいろいろ教わったから親といっても過言ではないのかも知れないね」
「……」
親……親は色々教えてくれるものなのだろうか。いや、たしかに色々教えてくれたのかも知れない。ただ私が吸収できなかっただけで。それが失望に繋がってしまったのだろうか。
「私のいた研究所には私の他に竜が4匹いてね。特段仲が良いってわけじゃなかったけれどね。私が1番末っ子だったよ」
「そんなにいたんだ」
みんなキュニーぐらい強かったのだろうか。もしそうならそれでも勝てない戦争とはいったいどんなに強い敵と戦ってたのだろう。
「最初は魔力操作もうまくいかなくてね。何回か発散しかけたこともある。あれは危なかった……」
「発散?」
「魔力のまとまりが悪くなって、消えちゃうの。そうなれば魔力の塊の竜にとっては終わりだね」
死んじゃうのと同じなんだろうか。今ではすごく強くて絶対的な存在に見えるのに、最初はそんな不安定な存在なのか。
そこから成長できるのがすごいところだと思う。その才能が備えられているからかも知れないけれど。
私は最初から何もできなかった。いや、最初が1番できたとも言える。相対的に見れば最初が1番差がなかった。けれどいつのまにか、周りができていることができなくて、どんどん置いてかれていって。
「それから研究員の人に魔法式を見せてもらったりして、魔法を覚えていったね。魔力操作さえつかめれば、結構簡単だったかな。私達は魔力そのものともいえるから」
それであれだけたくさんの魔法が使えるのかな。たしかに竜が魔力の塊というのなら、物質を経由して魔法を使う他の生物と比べれば魔法を使い易いのかも知れない。
「それに竜っていうのは魔力のエネルギー変換率とかが理想値になる存在なんだって。逆にそういう綺麗な魔力を目指した結果が竜の作成とも聞いたね」
「その、研究所から逃げようとかは考えなかったの?」
「うーん。ある程度経ってからならともかく、最初は魔力も弱くて研究所から魔力ももらってたからね」
魔力が足らなくなることもあるんだ。キュニーが意図して魔力をとっているところを見たことないから必要ないのかと思ってた。
「それから、戦争が激化したみたいな噂が広まって、私達にも戦いの時が来たよ。まずは1番最年長の竜が出ていったよ」
「その時に契約杖が使われたの?」
「そうだね。それまでも似たようなものの実験があったけれどね。それで、その後は1匹ずつ出ていったよ」
多分、全員に契約杖が使われたのだろう。彼らは杖で無理やり連れて行かされたのだろうか。それとも、杖がなくたって戦いに行っただろうか。
……私はキュニーに嫌なことをさせてないだろうか。本当はこうやって話すのも嫌なんじゃないだろうか。……考えたくない。
「けれど、みんな死んじゃったよ」
「え……」
「私は比較的生まれるのが遅かったから、まだ戦いには参加してなかったけれど、それだけ敵が強かったってことだろうね」
昔の戦いは竜がそんな簡単に、何匹を死んでしまうぐらい苛烈だったのか。今の技術じゃ、竜1匹倒すのも不可能だろうに。
「それから私も戦いに行くことになって、契約杖と契約したよ。もちろん契約者はまだだったけれどね」
「……怖くはなかったの?」
「……なんというのかな。当然のことだと思ってたのかな。私を作り出して今まで世話をしてくれたのはこの時のためだと思うと、仕方ないのかなってね」
……どうしてそんなに割り切れるのだろう。嫌なことは嫌じゃないの?私は助けてくれた人も育ててくれた人にも何も返せない。その能力もない。……いや、やろうともしなかったのだろうか。貰うのが当たり前だと思ってたのではないだろうか。
「それでその杖と契約したよ。もちろんまだ契約者はいなかったけれどね。その夜だったかな。相手の大規模攻勢が始まったんだよ。その攻撃は研究所付近まで届いてきた。それぐらい戦火は拡大してたね」
「それで契約者がいなかったの?」
「うん。そのまま研究所から逃げる研究員の人を守りながら戦った。私は他の竜より強かったみたいで、結構恐れられてたみたい」
そうなんだ。たしかにこの前あった竜も一方的に倒していた。何か秘密があるのだろうか。たしか完成度がどうとかいってたような……
「けれど、研究員を避難させた後にしくじっちゃってね。魔力が発散して死んじゃったんだよね」
「え……え?で、でも」
「うん。でも契約杖に元からついてた効果なのか、それともまだ完全契約前の杖に私の魔力を譲渡中だったからなのかはわからないけれど、契約杖が起動したと同時に復活したのかな」
そんなことがおこるなんて。竜が魔力の塊っていう性質に由来するものなのだろうか。
「私としては寝ていた気分なのだけれどね。でも、それを起こしてくれたのはルミのおかげだよ。ありがとう」
「う、うん……」
そう言われて素直に喜んでいいのだろうか。死んでしまった者を生き返らせたから、その者を支配することが許されていいのだろうか。それも私なんかに。
「こんな感じかな。今日はもう寝ようか。もう夜も遅いよ」
キュニーが丸まっていくのを見ながら寝床に入る。暖かい。……そろそろ夏というのにあまり暑くない。そういう気候の場所だろうか。
キュニーにありがとうっていってもらえて、正直嬉しい。感謝されることは嬉しい。こんな私でもいた意味があるのかもしれないって思える。
けれど、これでいいのだろうかって気持ちが晴れない。私のした行動は全て良くない方向になる気がする。だから今からでも、やめてしまうべきなんじゃないだろうか。
例えば、これからキュニーが傷ついたら、それは起こして良かったといえるのだろうか。いやでももう後には引けない。やっぱり取り返しのつかない失敗ばかりしている気がする。
感謝してくれてるのだって嘘かもしれない。本当は嫌だったのかもしれない。杖のせいでそういってるのかもしれない。……どうして杖の話は信じれるのに、ありがとうを信じれないのだろう。どうして嫌なことばかり信じてしまうのだろう。
考えないようにしよう。考えたってわからないことなのだから。考えないようにしたい。……けれどいつだって頭のどこかに残ってしまう。それがカビのように広がって、いつのまにか頭を支配してしまう。
「大丈夫」
キュニーが頭を撫でてくれる。まるで寝付きの悪い子供にやるように。
この優しさが嬉しい。これを感じている時は頭が弱くなる。弱くなって何も考えなくて良くなる。考えてない時が1番楽だから。安心感が包んでくれる。……けれど、1度くらい抱きしめて欲しい。
あぁ……また欲求が増えてしまう。その瞬間満たされたって、いつの間にかそれだけじゃ満足できなくなって、もっともっとって求めてしまう。私からは誰にも何も与えられないのに、求めることばかりしてしまう。
でも、私だって誰かを助けたい。誰かの力になりたい。そう思ったことはたくさんある。けれど、何もうまくいかなかった。Dにいた時だってそう。それより前に家にいた時だって。
私なりに頑張ってたつもりだったのだけれど無理だった。多分、私が何もできない、何もしないクズだから。
けれど……けれど、全て受け止めて欲しい。私の全てを包んで欲しい。優しくし続けて欲しい。そんな欲求が止まらない。
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